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KATARIBA マガジン

人口1万人の町で子どもの居場所をつくる難しさ。支えはユースセンター起業塾の「仲間」だった

vol.438Report

日本社会が急激に変化する中、安心して過ごせる居場所を見つけられずに社会的に孤立してしまう子どもたちがいます。2023年にこども家庭庁が「こどもの居場所づくりに関する指針(*1)」を策定するなど、居場所の必要性が広く認識され始めましたが、持続可能な運営や体制の構築が難しいという課題も見えてきました。

カタリバでは2021年に、全国に10代の居場所がある未来を目指す「ユースセンター起業塾」を開始し、民間団体や自治体、企業と連携しながら、全国30団体以上のユースセンター(10代の居場所)の立ち上げや運営を支援してきました。

今回は、居場所を作る団体に3か年計画で伴走する、ユースセンター起業塾の「事業創造コース」を修了した、NPO法人miraito理事長の上田彩果さんが登場。ユースセンター起業塾事業責任者であるカタリバの吉田とともに、採択から居場所立ち上げまでの歩みを振り返りました。

*1:こどもの居場所づくりに関する指針 こども家庭庁
https://www.cfa.go.jp/assets/contents/node/basic_page/field_ref_resources/816b811a-0bb4-4d2a-a3b4-783445c6cca3/9dade72e/20231201_policies_ibasho_09.pdf

上田彩果(うえだ・あやか)/NPO法人miraito 理事長

東京都町田市出身。立教大学卒業後、東日本大震災のボランティアで関わった岩手県陸前高田市に移住し、NPO法人SETのメンバーとして教育事業に従事。2021年、岩手県岩手郡岩手町に拠点を移し、2023年3月に「いわてユースセンターミライト」をオープン。NPO法人SETから独立し、2025年、NPO法人miraitoを設立。2024年より、岩手大学地域協創教育センターコーディネーターを務めている。2025年より現職。

吉田愛美(よしだ・まなみ)/認定NPO法人カタリバ ユースセンター起業塾 事業責任者

福島県出身。慶應義塾大学卒。地元の力になりたいと、新卒で就職した企業から地元選出の国会議員秘書へ転職。その後、2016年1月にカタリバに入職。コラボ・スクール大槌臨学舎で広報・事務・教務(中学校)を担当した後、全国高校生マイプロジェクト事務局にて学校支援や広報を担当。2021年より現職。

人口1万人の岩手町で
ユースセンターを作りたい!
その背景と課題、そして支援

――上田さんたちは、ユースセンター起業塾の事業創造コース第一期生です。まず、応募の経緯から教えていただけますか?

上田さん:私が初めて岩手県の岩手町に関わるようになったのは、2020年。陸前高田を拠点とするNPO法人SETのメンバーとして、町の事業で「岩手町と僕らの未来開拓プロジェクト」(以下、「いわぷろ」)という、中高生と大学生が協働して地域の課題解決や自身のキャリア形成に挑戦するプロジェクトをスタートしました。

地元の高校生たちと一緒に活動し始めて1年半ほど経った頃、高校生から「普段から探究的な活動ができる居場所がほしい」という声が上がり始めました。

岩手町は人口約1万人の小さな町です。「いわぷろ」が始まる以前は、中高生が気軽に集まって地域で活動したり、大学生や、家庭・学校以外の大人と地域や将来について語り合ったりする機会は、決して多くありませんでした。

高校生たちは「いわぷろ」を通して、そうした出会いや対話の楽しさを感じ、自分たちが日常的に集える居場所があったらいいなと考えるようになったのだと思います。

私たちは「やりたいことを見つけてやってみたい」「将来について誰かに語りたい」という潜在的ニーズは誰にでもあるはずだと感じていました。そこで、岩手町に若者の第三の居場所を作るため、ユースセンター起業塾に応募したのです。

<利用者の中高生や大学生スタッフを交えたグループミーティングの様子(miraitoより提供)>

――採択後、2022年4月にユースセンター起業塾の支援と伴走がスタートします。当初、ユースセンター起業塾では、上田さんたちに対してどんな関わり方を意識しましたか?

吉田:採択当初、上田さんたちに対しては、実践者としての子どもたちへの関わり方や現場づくりの力、そして地域に必要とされる大きなビジョンを描くことには確かな強みを感じていました。

一方で、「自分たちの取り組みの価値を言語化すること」「それを踏まえた中長期的な事業の経営」「組織体制」に課題感が強いようにも見えていました。そのため、事業経営や組織づくりを支えるという点で経験のある伴走スタッフを配置し、課題の解像度を上げるサポートを行いました

団体やリーダーの考え、活動場所の地域性は、それぞれ異なります。伴走において私たちが意識しているのは、団体やそのリーダーがどうありたい・どうしたいと思っているか。第一期から第四期まで伴走してきて、ユースセンターなどの10代の居場所は一つとして同じものがなく、多様性こそが価値なのだと実感しています。

<採択団体が集まるイベントで取り組みについて話す吉田>

相互理解の難しさに直面
前を向かせてくれたのは
地域の応援と仲間の力

――2022年4月にプロジェクトが動き出し、「いわてユースセンターミライト」(以下、ミライト)は2022年9月にプレオープン、2023年3月にグランドオープンしています。オープンまでに、最も困難だったことは何ですか?

上田:私たちの活動の目的や進め方について、地元の学校関係者の方々と十分に共有しきれていない部分があり、当時一緒に居場所づくりのプロジェクトを進めていた生徒たちとの関わり方の見直しが必要になったことです。採択されて3カ月ほど経った頃だと思います。

もともと、2020年から「いわぷろ」が始まり、高校生が地域で活動し学びを深めていく様子を、住民の方々は前向きに受け止めてくださっていました。2022年春に居場所づくりがスタートし、並行して、ある高校の探究学習の授業も担当させていただくことになりました。

しかし、実際に授業が始まる中で、活動内容への理解や生徒への関わり方について、より丁寧な対話やすり合わせの必要性を感じる場面が出てきました。

私たちが授業に取り入れていた「マイプロジェクト」という探究学習は、自分自身を掘り下げ、やりたいことや興味関心のあるテーマを見つけて深めていく活動です。その過程では、自分のこれまでの経験を振り返る場面もあります。

そうした中で、生徒一人ひとりの背景や心情に関わるテーマ――つまり、かなりパーソナルな部分を扱うことへの配慮や進め方について、学校側にも慎重なご意見がありました。生徒にとって安心・安全な学びの場をどうつくるかという観点から、さまざまな意見が出ていたのだと思います

結果として学校での活動は一度立ち止まり、ユースセンター立ち上げに一緒に取り組んでいた生徒たちとの関わり方も再調整が必要になりました。

<地域の方々との打ち合わせの様子(miraitoより提供)>

――新しい活動の認識を地域全体で共有していくことの難しさに直面されたのですね。そこから、どうやってオープンにこぎつけたのでしょう?

上田:私たちを前進させてくれたのは、地域住民の方々でした。私たちの状況を話すと「地域に必要な活動だから、なんとかしたい」と動いてくださる方々もいて、応援してくださるこの方々に相談してみようと思うようになったんです。

そして、地元出身で町外へ進学した高校生や大学生など、広域から若者を集めて、地域のイベントに参加したり、地域のお手伝いをしたりと、積極的に地域に関わる活動を始めました。

2022年9月に行ったプレオープンイベントでは、模造紙に描いた居場所のロードマップを広げ、自分たちがこの町で何を実現したいのか、当時の想いをありのままに伝えました。そして「ここは、地域の皆さんと若者が一緒になってつくる居場所です。皆さんが『こんなことをやってみたい』と思うことを、若者と共に実現しながら、地域の皆さんと育てていく場所にしていきたい」と。

10月からの半年間は、地域の皆さんと縁日やクリスマスパーティー、ワークショップ、音楽会、地元料理の「ひっつみ」を食べる会などを2週に一度の頻度で開催しました。

そうして少しずつ、人とのつながりの中で、活動の意図や想いが伝わっていったように思います。2023年3月に開催したグランドオープンイベントの際には、5市町村の首長がテープカットに駆けつけてくれ、262名もの地域の方々が参加してくださるなど、良い関係を築くことができるようになりました。

<グランドオープンイベントでのテープカットの様子(miraitoより提供)>

<グランドオープンイベント時の全体写真(miraitoより提供)>

――こうした経緯を吉田さんはどのように見ていましたか?

吉田:当時、上田さんが悩んでいることを伴走スタッフから聞いていました。岩手町は若者や移住者が多くはない地域。活動が地域にどう受け取られるかという部分では、他の団体よりも苦労されていた印象があります。

上田さんは大きなビジョンを描くのが得意なタイプの経営者だと思っています。なので伴走スタッフは、上田さんの素質とバランスを取りながら、冷静に振り返りを促したり、今後に活かせる学びや気づきを問うたりする役割を担ったのではないでしょうか。

上田:私に合わせて伴走してくれていたのだと、つくづく思います。月に一度の面談では、最初に私の話を聞いてもらい、それに対してまず「頑張ってるよ」「1個進んだね」と励ましてくれたうえで、どうすればいいかを冷静に、現実的な視点で一緒に考えてくれました

高校に関われなくなったときは、先が見えず苦しかったです。それでもスタッフやカタリバの方々、ユースセンター起業塾の同期団体の仲間にたくさん頼らせてもらいました。そして、地域の皆さんと共に乗り越えていきました。

吉田:困難はつきものですが、学びもある。地域に入る時は、自分たちのやり方が必ずしも共通認識ではないこと、その地域のやり方を取り込む必要もあること。次やる時はこうすればいいのではという肌感覚が身についてきたのではないかと思います。

<利用者の高校生からサックスを教わる上田さん(miraitoより提供)>

自分の地域だけでなく
ユースセンターに関わる
全国の仲間全員で笑って喜びたい

――当時を振り返って、お二人は何を得たと感じていますか?

上田:この3月にいわてユースセンターミライトは3周年を迎えました。若者たちとの関わり方(ユースワーク)も、組織のあり方も、ユースセンター起業塾で育ててもらったものです。しかしそれ以上に、私にとっては、何でも本音で相談できる仲間を得られたのが最も大きいですね

私たちが活動している岩手県内には、ユースセンターなどの10代の居場所や、ユースワークについて相談できる団体や人材が多くありません。だから、全国に仲間がいること、ノウハウや知見を持っているカタリバさん、ETIC.さん(*2)とつながっていることは、何よりの安心感なんです。きっとこの先も大変なことはあるけれど、「相談したらなんとかなる」と。

吉田:私たちが得たのも、上田さんという仲間なのだと思います。卒業団体としてイベントに登壇していただくこともあるのですが、ご自身の取り組みについて語る上田さんの言葉が、他の地域の団体の方々の力になっていることを感じています。

私たちは、現場の団体さんたちが各地で活動しつづけられるよう、国や自治体への働きかけ、資金調達などできることに取り組んでいきます。

上田:その分、私たちのような地方にいる団体はいい現場を作り、子どもたちにユースセンターという場所が必要であることを証明していけたら。採択された団体みんなでその価値を証明して、みんなで笑って喜べる未来を作りたいですね

「10代の居場所を作りたい」という小さな町の方がいれば、ぜひ一歩踏み出してみてほしいです。小さな町で活動する仲間の一人として、応援しています!

<採択団体が集まるイベントでこれまでの経験を伝える上田さん>

*2: 「ユースセンター起業塾」は、カタリバとNPO法人ETIC.の共同事業として行っています。


 

編集後記

取材中、お二人のやりとりから、厚い信頼関係を感じ取っていました。地域の結びつきが強いエリアに県外から入って孤軍奮闘してきた上田さんと、事業責任者として上田さんたちを見守りながら地域での活動を支えていくための試行錯誤を続ける吉田さん。支援する/されるという立場を超え、互いに支え合ってきたお二人のこれまでを想像し、胸が熱くなりました。

カタリバでは、2026年4月~5月にかけて「10代の居場所EXPO2026」を開催しています。
第3弾となるイベントを2026年5月26日に実施しますので、ご興味のある方は下記のリンクより詳細をご確認ください。

▼令和9年度に向けた10代の居場所づくりの始め方―最新の動向と実践事例から学ぶ―
https://www.katariba.or.jp/event/51307/

 

 

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Writer

有馬 ゆえ ライター

ライター。1978年東京生まれ。大学、大学院では近代国文学を専攻。2007年からコンテンツメーカーで雑誌やウェブメディア、広告などの制作に携わり、2012年に独立。現在は、家族、女性の生き方、ジェンダー、教育、不登校などのテーマで執筆している。人の自我形成と人間関係構築に強い関心がある。妻で母でフェミニストです。

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