中学生の探究学習、生成AIでどう変わる?ふたば未来学園の実践を通じて
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文部科学省は7月、次期学習指導要領において、小中学校の「総合的な学習の時間」の名称を、高校と同じ「総合的な探究の時間」へと変える方針を示しました。生成AIが浸透する現代社会で、義務教育年代(小・中学生)においても、自ら問いを立て、主体的に学ぶ探究活動がより重視されていく傾向にあります。
そうした中、福島県立ふたば未来学園中学校・高等学校では本年度、中学生の探究的な学びに生成AIを取り入れる試みをスタートさせました。カタリバは2017年から、「学校支援コーディネーター」としてスタッフを配置し、学園との連携を進めています。昨年からは中学校にも担当スタッフを置いています。
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https://www.katariba.or.jp/activity/project/futaba_school/
生成AIが子どもたちの学びに与える影響とは何なのか―。今回は、学園の取り組みから見えてきたことについて、中学校の「総合的な学習の時間」を担当する松浦弘志先生と、学校支援コーディネーターとして関わるカタリバの星野眞理にインタビュー。試行錯誤の軌跡と、その先に見えてきたヒントについて尋ねました。

松浦 弘志(まつうら・ひろし)| 写真右
1987年福島県生まれ。東北大学大学院教育学研究科を修了後、社会科の中学校教員として勤務する。教員歴11年目。2022年にふたば未来学園中学校へ着任し、総合的な学習の時間「未来創造学」のカリキュラム開発・指導を担当している。
星野 眞理(ほしの・まり)| 写真左
1991年生まれ。大学卒業後、公立校教員として9年間勤務。その後、カタリバに入職。岩手県立大槌高等学校で教育コーディネーターとして勤務したのち、現在は福島県立ふたば未来学園にて中学のカリキュラム開発などを担当。また、学校支援コーディネーターとして現場勤務と並行し、学校・教員支援チームとして、全国の学校における探究活動の推進を支援している。
ふたば未来学園中学校の探究学習「未来創造学」
―まず、ふたば未来学園中学校とカタリバのこれまでの取り組みについて教えてください。
松浦先生:2015年に高校が開校して、カタリバとの連携を始めたのは2017年から。2019年に開校した中学校はその土壌ができた状態でスタートしています。当初は、カタリバスタッフの方に授業補助として入っていただく形でしたが、カリキュラムのアップデートが必要だと感じ、昨年から星野さんに中学校専属の形で入ってもらいました。今年はもう1人加わっていただき、全学年のカリキュラム開発や実際の指導に入っていただいています。
―中学生年代における探究的な学びは、今どのような位置づけにあるのでしょうか。
松浦先生:全国的には中学校では「探究」という言葉は使わず、今は「総合的な学習の時間」と呼ばれています。1年で郷土、2年で職業、3年で福祉など、社会とのつながりを意識させる学習が一般的です。各教科との横断的な学びが謳われていますが、狙いを持って他教科と結びつけるのは難しいのが現状です。
―その中で、ふたば未来学園独自の取り組みはどういった部分になりますか。
松浦先生:本校は震災・原発事故からの復興、地域の教育復興を目指してできたという特殊な背景があります。一時は全町村が避難を余儀なくされ、地域社会が断絶されたという状況の中で、その地域社会をどう新しく創造していくかという課題がありました。
住民の震災の捉え方や受け止め方もさまざま。多様な背景を持つ人たちがいる中で、新しい社会と価値観を作っていかなければいけない。それが教育目標の要になっていて、授業名を「未来創造学」としています。
1年生で地域の魅力を感じ、2年生でそれを言葉にして他者に語り、3年生では海外研修で文化的背景の異なる人にも自分たちの価値観を伝える学びをしています。(表1)
生成AI=言語化の相談相手。興味関心を言葉にするステップに伴走
―探究学習に生成AIを取り入れることになった背景を教えてください。
星野:一言で言うと、生徒への「伴走」の度合いを充実させることです。1年生の前半で、先生方が設計した体験型のフィールドワークを行い、生徒が自分の意欲や興味関心を認識していきます。そこで見つけた意欲を継続させていくには、対話を通じた伴走がとても大切になってくるのですが、一人の教員が向き合える生徒数にはやはり限界があって。
松浦先生:伴走の中で、個人的に効果を感じているのは1対1で深く話すことです。ただ、時間的な制約は、非常に大きい……。なので、教員との対話の前段階として、生徒自身がまだ自分でも何と言っていいか分からない感情や状態を、生成AIを使って自分なりに整理してみる。生成AIで補完できる部分はあるだろうという予想のもとで導入しました。
教員と対話しながら、自分が興味関心のあることの魅力について考える生徒(右)
―思考力の低下など、生成AIを子どもが使うことによる学習面でのリスクについては、どのように捉えていましたか?
松浦先生:生徒が生成AIに答えを求めたり、思考を任せたりする懸念も当然あるものとして導入しました。ただ、出てきたアウトプットを見ても、教員と話したときに「君が良いと思った点とアウトプットにはずれがないか」というすり合わせをすれば、ちゃんと自分の興味関心ややりたかったことに戻すことができます。教員との時間と伴走があれば、より前に進めることができるので、そこまで大きなリスクとしては捉えなくてもよいと思います。
星野:これからの時代は、「こうしてみたい」という「意欲」がとても大切になると思います。何かをやってみたいという思いがあれば、生成AIはその夢を叶えるための心強い味方になってくれると思うからです。でも、意欲がないと、生成AIが作り出すコンテンツにただ流されるだけになってしまうかもしれません。
こうした意欲を育めるかどうかは、家庭の経済的な余裕や文化的な環境によって差が出てしまいがちです。だからこそ、学校という場で、どんな環境に生まれた子どもたちにも、生成AIを主体的に使いこなせるような力を育んでいくことが、とても大切なのではないかと思います。
「力強くて速い」から「機能美」へ。生成AIとの会話で言語化の面白さを見つける生徒たち
―生成AIを活用した生徒たちの学びについての事例を教えていただけますか。
松浦先生:馬が好きな男子生徒がいて、彼は小さい頃から馬が好きでしたが、理由を問われると「力強くて速い」「走る姿がかっこいい」といった言葉が出てきました。そういった初発の自分自身の思考や行動を起こす力・好奇心は大事にしていきたい。ただ、そこにとどまらず、生成AIとのやり取りで深堀りし、自分の感覚を言葉にしていった結果、「機能美」という言葉を獲得したんです。
彼は「僕が言いたかったのはこれだ」と喜び、今度は自信を持ってフィールドワークに出かけました。引退馬を飼育する牧場でお手伝いする中で、彼は馬が「繊細で臆病」であるという新しい一面を発見しました。機能美と繊細さのギャップに魅力を感じ、たどり着いたのが「ギャップ相乗説」という言葉でした。
生徒の生成AI活用事例について説明する松浦先生
―具体的にはどのタイミングで、どのような使い方をしたのでしょうか。
星野:最初は人間の力で考えてほしいので、「魅力とは何か」ということをみんなで考えます。情報や体験から箇条書きはたくさん出てきますが、「結局一言で言うと何なのか」となると出てこない。「伝えたい、表現したい」という意欲が出てきたタイミングで、生成AIをアウトプットに活用します。いくつかの別の事例も出してもらい、ずれを認識しながら腹落ちさせていく生徒もいます。
―生徒たちの率直な反応はどうでしたか。
松浦先生:生成AIを使うこと自体に抵抗はありませんでしたが、「1問1答で答えを出す」のではなく、「自分の探究を読み込ませて構造を整理する」という使い方は予想外だったようです。自分の思考が整理され、「私が言いたかったのはこれだ」という「見つけた感」「たどり着いた感」を得た生徒が多くいました。
星野:生徒たちも終わった後に「こんな使い方があるんですね」と感動していましたよね。
教員は正解を与えるだけでなく、「一緒に面白がる」存在へ
―生成AIを活用することで大人側が得た学びは何かありますか。
松浦先生:それぞれの生徒がそれぞれのプロンプト(指示)で生成AIとやり取りをすると、同じテーマ、同じ対象であっても生徒ごとにカスタマイズされた回答が返ってくることに驚きました。原体験があり、フィールドワークで各自考えた段階で使うからこそ実感が伴い、そこに個性が出てくるというのは面白い発見でした。
星野:さらに、生徒が生成AIに出すプロンプトから、思考のプロセスが見えやすくなり、生徒理解につながりました。生成AIを使っている時間に一言も話せなかったとしても、次の休憩時間などに「こういうことを考えていたんだね」と声をかけることができました。
―生成AIを導入することで教員の役割は変化しましたか。
松浦先生:生徒が生成AIを通じて「私が言いたかったのはこれだ」と発見し、教員に伝えてくれる。それに対して教員が「めっちゃ面白いね。次は誰に会いに行こうか」と一緒に面白がって学ぶ感覚が強くなりました。以前は想定の範囲で助言していましたが、今回の実践を通じて、教員の役割の一つとして「一緒に面白がる」ことが意識に加わりました。
―今後も含めて課題として残っている点はありますか。
松浦先生:自分たちが面白がって進めてきたことを、学校全体の中で指導体制として確立し、ある一定の形が定まった状態で持続させていく、という仕組みづくりがまだできていない点があります。現在は属人的な状態で、これをどう体制化できるかが課題です。教員の入れ替わりもあるので、継承・更新の方法も課題です。
生成AIは、子どもの学びを支える新しい「協力者」
―最後に今後への思いと、現場で奮闘する全国の先生方へのメッセージをお願いします。
松浦先生:教科書に書かれていること自体も、研究が進めば書き換わっていきます。人々が持つ価値観も時代とともに大きく変わっていく。変化の時代だからこそ、“絶対的な正しいもの”自体が揺らぐ中で、「何が正解なんだろう」と一緒に考える姿勢がとても大事なのだと思います。
もちろん、生成AIの使用に伴うリスクを考慮することは重要です。それでも学習指導要領等をふまえながら、まずはやってみる、というくらいの気持ちで。生成AIは、教員や地域の方々、保護者、先輩などと同じように、子どもたちの学びを支えてくれる存在の一つだと捉えています。目の前の生徒がどうすれば思考を深められるか、どうすれば創造的にものごとを考えられるようになるか、その「協力者」として生成AIを活用していけたらいいなと思っています。
星野:生徒が自分の言葉を見つけていく過程こそが、意欲を高めると実感しています。ただ、先生一人が全員と話し続けるのは難しいので、地域の人と話す生徒もいれば、生成AIを使う生徒もいる。さまざまな形で伴走が積み重なっていけばいいと思います。
安易に使うことと、チャレンジしないことは別の話で、生成AIのリスクを考えて終わりではなく、それをプラスに変えていくことが大事。大人の側が、もっと面白がって、もっと楽しんでいいと思います。
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赤池 悠 カタリバマガジン編集担当
1991年生まれ。大学、大学院で教育学を専攻して、児童養護施設と学校教育について研究。院修了後、地方新聞社記者として、警察や地域取材を主に担当。教育と福祉という関心軸に加え、歴史・文化や格差、多様性など幅広いテーマで記事を執筆。より現場に近い事業に参画しようと、2026年2月にカタリバへ転職し、広報部でオウンドメディアの運営を担当している。
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