高校改革、「地域の最適解」を見つけるには?大槌高校7年間の実践から
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高校改革が、大きな転換点を迎えています。2026年2月、文部科学省が「高校教育改革に関する基本方針(グランドデザイン)〜2040年に向けたN-E.X.T.(ネクスト)ハイスクール構想〜」(以下、ネクストハイスクール構想)を発表しました。AIの急速な進展や人口減少、地方の過疎化といった社会の大きな変化を受け、高校教育の抜本的な見直しを求める指針です。生徒一人ひとりの学びを保障し、地域と連携した特色ある高校を実現するため、各都道府県への財政支援を含む大規模な改革が動き出そうとしています。
カタリバはそれを受けて、オンラインイベント「地域・学校と積み重ねてきた実践から考える”高校教育”のこれから」を開催しました。この記事では、イベントの登壇者たちから語られた高校改革への視点について紹介します。
自分たちの「地域の最適解」をどう見つけるか―高校改革に必要な視点とは?
第一部では、千葉大学教育学部教授の貞広斎子氏が登壇し、教育政策・教育行財政を専門とする立場から、高校改革を捉える際に必要な視点が共有されました。
貞広氏はまず、高校教育の歴史的背景について触れました。これまで高校教育は「都道府県」が管轄するものとされており、各都道府県の状況に合わせた学校配置や環境づくりがなされてきました。そのため、公立・私立の比率や、専門学科と普通科の割合などといった高校教育をとりまく状況は、地域によって大きく異なっていると言います。
「高校の在り方や方向性について、どこの地域にも当てはまる全国一律の答えはありません。この地域ではどんな教育を大切にしていきたいのかということを、地域の住民の方々も含めて考えながら、各都道府県が自分たちの地域の最適解を見つけていくことが重要です。
同じような社会課題を抱える自治体をヒントにして、それを自分の地域の条件に合わせて調整して取り入れていくこともできると思います。横の県というよりも、遠くても自分たちと状況が似ている県――例えば人口の減少率・高齢化率・財政力・産業構造などが似ている地域から、政策を参照・学習するという思考も必要です」(貞広氏)
また、学校単位に閉じない外部連携の必要性についても語られました。とくに人口減少が指摘される地域では、福祉領域など他の政策領域との連携、小中高で学校園として機能するような学校同士の連携、自治体間や地域の産業界との協働など、多層的なつながりを構築してこそ、高校教育が持続できるのではないかといいます。
その中で、都道府県・市区町村・学校といった高校教育に関わるすべての関係者が視点を共有し、自分たちのところでは何ができるのかを考えながら、まずは第一歩を踏み出し、事例をつくっていくことが大切だとしました。
高校改革を長期的に続けていく鍵は「仕組み」と「文化」。大槌高校の7年間の実践から
第二部では、人口1万人規模の地域で高校改革に取り組んできた岩手県立大槌高校の事例が共有されました。カタリバは2019年から大槌町と協働し「大槌高校魅力化プロジェクト」に取り組んでおり、事業責任者の小野寺綾と大槌町の関谷辰也氏が、この7年間を通して見えてきたことを報告しました。
大槌町は岩手県の沿岸地域に位置し、東日本大震災の被災地。人口は震災前の約1万6,000人から現在約1万人へと減少し、震災前には3クラス121名いた大槌高校の入学者数は、10年で42名にまで落ち込んでいました。このままでは統廃合の対象になりかねないという状況から、町・学校・カタリバの三者が連携して魅力化に取り組み、ここ数年は入学者数も回復してきています。
▼具体的な実践や仕組み、生徒の変化等についてはこちらの記事でお読みいただけます
https://www.katariba.or.jp/magazine/article/report240229/ (2024時点)
事業責任者の小野寺は7年間を振り返り、高校改革・魅力化を進めるにあたって大切な観点は、大槌町・高校・コーディネーター(外部人材)の三者の協働の仕組みをいかに築き、文化を継続していけるかだと言います。
大槌高校の実践も、最初から三者で良好な関係性が築けていたわけではありませんでした。当時財政課に在籍していた大槌町教育委員会の関谷辰也氏(現・課長補佐兼大槌型教育推進係長)は、当時の心境を率直にこう明かします。
「町の財政課としては、なぜ“県”が管轄しているはずの高校運営に関して、“町”のお金を使うのかという疑問がありました。私自身も最初は(この案件に対して)あまり前向きでは無かったのが正直のところです」(関谷氏)
しかし実際にプロジェクトが動き出す中で、少しずつ自治体側にも視点の変化があり、今では「地方創生施策の一大事業」と言われるまでに捉えられ方が変化していると言います。
「このプロジェクトが始まってから、生徒たちがみんな、はま留学生(*1)も含めて、年間で延べ1,000人以上の生徒たちが地域の中で何かしらの活動に関わっていて、高校生の姿が町のあちこちにあるんです。もう逆に地域が高校生に支えられていると感じるようになってきました。
他にも、町の奨学金の面接に来た生徒が、自分の意志が揺るがないということが明確にわかるようなしっかりとした発言や対応をしていて、魅力化の柱である探究学習や地域との関わりの効果が出ているんだと感じたこともありました」(関谷氏)
この7年間を通して、大槌高校で学んだ生徒たちが自分の意志ややりたいことを見つけ、地域の中で学んだことを実践していたり、新しい挑戦をしていたりと、存在感を示している――。その姿をみて地域の大人たちもまた、高校生たちを応援したい、見守っていきたいと感じることができ、地域の中によい循環が生まれていることがうかがえます。
<大槌高校で探究学習の授業を担当する小野寺>
長期的にこのプロジェクトを進めていく中で必ず訪れる局面が、担当する自治体職員や教員、コーディネーターの異動や変更。大槌高校魅力化プロジェクトも、現在の行政担当者は3代目、カタリバのコーディネーターは2代目です。
「せっかく始めたけれど担当者が異動してしまって熱量が下がってしまった……ということが起きないよう、仕組みの面で、町と高校がビジョンを共有したり改革の進捗を確認し合ったりできる協働体制の構築(コンソーシアムの設置等)や、中長期的にコーディネーターを配置する予算を自治体が確保しておくことは大切だと感じています。そしてコーディネーターが仲介役となって、学校の方々と一緒にカリキュラムや制度を磨いていく中で、だんだんと地域にも高校生たちの成長をみんなで見守っていこうという文化が根付いていく。仕組みと文化の両輪が回りつづけることが、高校改革や魅力化というプロジェクトには欠かせないと思っています」(小野寺)
*1:「はま留学」とは、大槌高校が設けている、岩手県外からの受験・入学を受け入れる制度のこと。この制度を通じて大槌高校に入学した生徒を通称「はま留学生」と呼んでいる。募集などの詳細は大槌高校ホームページをご参照ください(https://www2.iwate-ed.jp/oht-h/zenkokubosyu2.html)。
カリキュラムや探究学習の充実をどう実現する?外部との連携で生徒・先生にも変化が
第三部では、大槌高校魅力化の柱の一つが探究学習や独自カリキュラムの充実であることをうけて、それらの推進をサポートする「オンライン探究」「探究スタートアップラボ」の取り組みについて共有されました。
オンライン探究事業責任者の起塚は、生徒の人数や学級数が少ない「小規模高校」に焦点をあてた実践を報告。小規模高校が抱える構造的な課題として、生徒同士の「学び合い」が起きにくいことや、自分が探究したいテーマについて詳しい知識を持つ先生が見つかりにくいことを挙げました。また教員の視点でも、人数が少ないことによって外部とのつながりの総量も限られ、生徒の学びを地域に広げていくことのサポートが難しいという現実があります。
こうした課題を持つ小規模校同士をオンラインでつなぐ「学校横断型探究プロジェクト」は、2021年度に岩手・山形・熊本の3地域からスタートし、現在は北海道から鹿児島まで約30校が参加しています。
年3回のオンライン合同授業では、他校の生徒が探究活動を相互に発表し合います。その中で生徒たちに見られる前向きな変化を、起塚はいくつか紹介しました。
例えば、最初は自信がなさそうに発表した生徒が、初対面の他校の生徒から「そのテーマはとてもおもしろいね」と声をかけられ、だんだん探究学習への意欲が高まっていくというケース。また、いつも暮らしている地域の中ではすべて伝えなくても分かり合えてしまうようなことを、外の地域の人に伝えようとしたときに、「言葉にする力」や「伝える力」が磨かれたり、自分のやりたいことを再発見したりするケースも多く見られているとのことでした。
先生同士もまた、この取り組みを通して他地域とつながることで、「自分たちの当たり前」を見直す機会になっていると言います。地域の中だけで探そうとしていたつながり先が、実は地域の外にもあるかもしれない――「学校内でどうにかしなくてはいけない」という意識から、「外部のリソースをもっと利用してみよう」という意識に変化し、生徒たちへのサポートの幅も広がっているようです。
「先生や生徒が広域的に繋がって探究学習に取り組むという仕組みは、ネクストハイスクール構想が掲げる多様な学習ニーズへの対応と、強い親和性を持っていると感じています。ここで生まれてきたことが、次の改革の中で一つでも生きるものになればと思います」(起塚)
▼学校横断型探究プロジェクトの関連記事リンク
・学校の枠を超え、探究学習を深める。オンラインでつなぐ「放課後マイプロゼミ」の試み
https://www.katariba.or.jp/magazine/article/report240829/
・“同じ学校だけど遠くにいる同級生”と学ぶ。複数校舎を持つ学校にオンライン探究プログラムがもたらしたものとは?
https://www.katariba.or.jp/magazine/article/report241224/
また探究学習を担当する先生向けの研修事業「探究スタートアップラボ」プログラム担当者の星野は、探究学習のカリキュラム改革の本質は、ビジョンを「作る」ことより「語り続ける」ことにあると報告しました。探究スタートアップラボでは、管理職を含む複数の教員がチームが「どんな生徒に育てたいか」を泥臭く対話し続けるプロセスに、全国14校の現場で伴走しています。
「共通のビジョンをみんなで対話しながら築き上げるプロセスがあるからこそ、先生方一人ひとりがそれぞれの個性や強みを生かしながら、同じ方向を向いて生徒や同僚、地域と関わることができる。そんな組織をつくることが、高校改革につながっていくのだと思います」(星野)
▼探究スタートアップラボ関連記事リンク
カタリバの約10年のノウハウを糧に生まれた「探究スタートアップラボ」とは?
https://www.katariba.or.jp/magazine/article/report250512/
地域の最適解を模索して、先生・生徒・地域住民が本気で語り合う機会を
イベントの最後には、カタリバ代表理事・今村久美が高校改革への思いとともに、ネクストハイスクール構想をめぐる議論で大切にしたい観点を話しました。
「高校教育を見直し変えていくことは、社会側の要請だけでも実現できないし、生徒の現在地を見ているだけでも実現できないと思っています。本当にこの地域の未来にとって必要な学校とはどういう存在なのか、本気でみんなで議論する機会を作ることがまず大切なのではないでしょうか。
生徒の日常をよく知る現場の先生、生徒自身の素朴な声、社会の要請を体現する地域の大人、その三者が同じ場で熟議することが、本当の意味での『地域の最適解』につながるはずです」(今村)
ネクストハイスクール構想が示すのは、予算と制度の枠組みです。その枠組みを地域の力にできるかどうかは、現場の大人たちが生徒の現在地から出発し、どれだけ本気で語り合えるかにかかっている―。大槌の7年間で証明してきたことも、またそれでした。
カタリバはこれからも、子どもたち一人ひとりの選択肢や可能性を広げていくことを目指し、高校改革に取り組む学校や自治体の方々とともに実践を重ねていきます。
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