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KATARIBA マガジン

保護者を支えることが子どもの未来にもつながる。「“親”子支援」に取り組む彼女の想い/Spotlight

vol.363Interview

date

category #スタッフ #インタビュー

writer 佐々木 正孝

Profile

富永 みずき Mizuki Tominaga キッカケプログラム

1995年生まれ、神奈川県小田原市出身。大学卒業後に教育系ベンチャー企業に入社し、中高生のキャリア教育にかかわる事業部に所属。子どものために家庭全体の支援をする仕組みを創りたいという想いから、2020年にカタリバへ転職し、キッカケプログラムに配属。保護者支援プログラムの開発・運営推進を経て、地域連携や自治体連携を担当。2025年より事業責任者代理。

度重なる自然災害やコロナ禍など、昨今は社会全体、さらには子どもたちの置かれる環境に大きな影響を与える出来事も少なくない。

すべての10代が意欲と創造性を育める未来の当たり前を目指し、全国各地で活動を行っているカタリバ。
その現場では、状況の変化に合わせて取り組みの内容を柔軟に進化・変化させつつ、目の前の子どもたちに向き合っている。

シリーズ「Spotlight」では、現場最前線で活動するカタリバスタッフの声を通して、各現場のいま、そして描きたい未来に迫る。

中高生時代から「親と子の関係」に関心を抱き、ベンチャー企業でのキャリアを経て、カタリバの「キッカケプログラム」で親子丸ごと伴走支援に取り組む富永みずき(とみなが・みずき)。単なる経済的支援ではなく、保護者も安心できる環境を整えることが、子どもたちの未来にもつながる――その信念のもとで、日々活動を続けている。

現在は事業責任者代理として、チームマネジメントとプログラムの発展に向けて尽力する富永。支援の現場で見えてきた課題、そしてこれから目指す「親子がともに希望を持てる社会」への想いを聞いた。

「支援が必要なのは、子どもだけじゃない」自身の経験が導いた気づき

 

——最初に、富永さんが「保護者支援」に関心を持つようになったきっかけから教えてください。

私は、中高生時代からずっと「親と子の関係」に関心がありました。その背景には、自分自身の原体験があります。
両親は子どもへの期待値が高く、特に母には厳しく育てられました。何でも一番でなければいけない――この期待は次第に高まっていきました。

部活では部長をやり、合唱コンクールではピアノの弾き手に選ばれるように努力し、進学する高校や受験する大学も母の意向で決まっていました。定期テストでは100点を取れないとひどく叱られていました。今となってはそのおかげでできるようになったと思えることもたくさんあるのですが、当時は必死で、「怒られないようにすること」が頭の中を支配していたんです。

そこでは「母親に認められること」が何よりも大切で、自己評価の基準になっていました。自分がどうしたいのかではなく、親の期待に応えることを考えてしまって、将来に対しても漠然とした不安を感じるようになっていました。だけど、高校で同じ悩みを抱える友人が多いことに気づき、自己理解を深める中で、「これは私だけの問題じゃないかもしれない」と気づいたんです。

——母親に対してはどのような思いをもっていたのでしょう?

親子としてのかかわりのなかで苦しさを抱いていても、尊敬や憧れがあり、純粋に「いつか喜ぶ顔が見たい」という思いはずっと持っていたと思います。だからこそ、どんなに悲しい思いをしても、「親のせい」と思っても、ほかの人にそう言われるのは本当につらかった。

今でもそうです。私を守ろうとして言ってくれていることだとしても、自分のせいで親が悪者になることは、言葉にできない悲しみと罪悪感がありました

——学生時代のそうした経験や思いが、保護者支援の考え方につながったのでしょうか?

そうですね。弟には同じ思いをさせたくなかったし、それは、同じような環境にいる子どもたちについても同じでした。でもその一方で、母親である大人たちにも「母親としてのプレッシャー」や「年齢による精神の浮き沈み」など子どもには想像も理解もしきれないいろいろなつらさがあることを知りました。

母親本人や家族がそのことを知るだけでも、救われる部分があると思っています。もし誰かが母にとっての“安全地帯”になってくれていたら、完璧でなくてもよいと思わせてくれていたら、私自身ももっとラクだったかもしれない。そんな想いが、今の支援活動につながっています。

——それから、どのようにキャリアを歩まれてきたのでしょうか?

新卒で教育系のベンチャー企業に入社しました。そこでは、キャリア教育のプログラムの運営にかかわる仕事をしていたのですが、その頃は「保護者支援を仕事にするのは難しい」と思っていました。支援の必要性は痛感していても、ビジネスとして持続していくのは厳しいんじゃないか、と。

そんな中、コロナ禍が始まり、世の中が「ステイホーム」の状況に。もし自分が中高生の頃に「ずっと家にいなさい」という状況に置かれていたら、耐えられただろうか――そう考えると、これまで以上に「本当にやりたい支援に携わりたい」という思いが強まり、転職を決意しました。

いろいろ調べる中で出会ったのが、カタリバの求人です。カタリバの活動については学生時代から知っていましたが、選考を通して採用担当者や代表たちと話をしていくうちにキッカケプログラムが立ち上がることを知り、「この仕組みを通して、子どもだけでなく保護者の支援もできるのでは?」と考えたのです。

——カタリバに入職する決め手になったものは何でしょうか?

「カタリバは本気で社会を変えようとしている」と確信できたことでしょうか。応募して面接を受けた際に「現場に近い仕事がしたい」と伝えたら、「それなら東北のチームを見てみない?」と提案されて。福島県立ふたば未来学園の一角にある中高生の放課後の居場所「双葉みらいラボ」に行きました。

そこで、当時の拠点長や現場のスタッフ、インターンの学生と話す機会がありました。驚いたのは、誰もが「カタリバは本気で社会を変えようとしている」と口にしていたことです。組織をリードするメンバーだけではなく、現場のスタッフや学生インターンからも自然に出てくる。
全体の姿勢として浸透しているんだなと感じました。

それが決め手となり、2020年にカタリバに入職し、「キッカケプログラム」の立ち上げに関わることになりました。

キッカケプログラム、それはオンラインを活用した学びとつながりの場

——現在取り組まれている「キッカケプログラム」とは、どのようなものですか?

キッカケプログラムは2020年にスタートした事業で、経済的に困難な家庭の子どもたちを中心に、ヤングケアラ―などさまざまな困難を抱えた家庭に、オンラインで学びや社会とのつながりを提供することを目的としています。よく「パソコンやWi-Fiを貸し出す支援ですよね?」と言われますが、それはあくまで最初のステップです。大切なのは、学ぶ環境と安心できるつながりをつくることです。

支援対象の子どもには、パソコンとWi-Fiを無償貸与し、オンラインで学習や交流の機会を提供します。さらに、週1回、オンライン面談を実施。国内外の大学生や若い社会人が、学びの動機づけや楽しさの発見を手助けしたり、進路相談に寄り添ったりします。

——保護者の支援にも力を入れているそうですね?

はい、子どもを支えるためには、保護者の安心が不可欠です。経済的な困窮だけでなく、「頼れる人がいない」「子どもとの向き合い方がわからない」と悩む保護者は少なくありません。

そこで、保護者支援や子育て経験のある「ペアレントパートナー」が月1回、保護者と面談をし、保護者の悩みに寄り添いながらサポートを行っています。さらに、必要に応じてカウンセラーや自治体窓口とも連携し、より専門的なサポートにつなげることもあります。

——ペアレントパートナーはどのような役割を担うのでしょうか?

ペアレントパートナーの最も大きな役割は「保護者の伴走」です。育児経験のある方や、支援の現場に関わった経験を持つ方が担っています。「同じ立場のナナメの関係」として寄り添い、安心して話せる環境をつくることを大切にしています。

保護者の中には保護者自身が「ほめられた経験がない」「誰かに頼ることを学んでこなかった」など、さまざまな事情を抱えている場合も少なくありません。
例えば、発達特性のあるお子さんを持つ保護者は、育児の中で特性のことを指摘され続けてきたことで、子どもがほめられても「全然ダメなんです」と反射的に否定してしまうことがあります。子どもや保護者に問題があるのではなく、これまでの経験がそうさせてしまうのです。

だからこそ、誰かに「大変だったね」と共感してもらうことで、保護者が少しずつ気持ちを整理し、前を向けるようになります。ペアレントパートナーが寄り添うことで、結果的に保護者が子どもを見守る余裕をもてるようになり、より良い親子関係を築く第一歩になります。支援を続ける中で、私たちはその変化を実感しています。

「18歳を超えたら自己責任?」若者たちに必要な支援を考えたい

——現在「事業責任者代理」という立場になりました。仕事内容は変わりましたか?

以前は私自身がプレイヤーとして現場に関わることが多かったのですが、今は「仕組みを整え、支援が続く環境をつくる」役割にシフトしています。そこで実感するのは、「制度の狭間にいる人たちが多い」ということです。

例えば、行政にはたくさんの支援がありますが、多くは支援される側が手を上げないと受けることができません。しかし、周囲の目を気にしたり、支援が必要という自覚がなかったりして、手を上げない人も多く、実際の現場では「支援の枠には入らないけれど助けが必要な家庭」がたくさんあります

だからこそ、カタリバのようなNPOの柔軟な支援が必要です。公的な支援の対象になっていなくても支援につながれる仕組みを、もっと広げていきたいと思っています。

——これまでの活動を通して、今後さらに力を入れていきたい支援はありますか?

特に考えているのは、「18~20歳の若者支援」と「若年で親になった方々への支援」です。

現状、多くの支援制度は「18歳まで」を対象にしています。つまり、高校を卒業すると、突然「もう大人だから」としてフォローが受けられなくなる。でも、18歳はまだまだ不安定な時期。社会的には大人とみなされても、支えが必要なことに変わりはありません。ヤングケアラ―の子どもたちを見ているとよりそう思います。

「18歳を超えたら自己責任」ではなく、「18歳を超えたからこそ支援が必要な人がいる」という視点を、もっと社会に浸透させていきたいですね。

——新しい支援を生み出していくために、どのような課題があるでしょうか。

「支援の成果をどう示すか」という点は、これからの大きな課題です。キッカケプログラムのような支援は、結果がすぐには見えにくいものです。今やっていることが、10年後、20年後にようやく成果として表れるかもしれません。でも、公的な資金を活用する以上、「今の取り組みが本当に意味のあるものなのか?」を証明する必要があります。

だからこそ、まずは「私たちの支援が、社会にたしかにインパクトを与えた」という事例を、しっかりと形にすることが大切だと考えています。カタリバには研究チームもあるので、彼らと連携しながら、学会に成果を提出したり、データとして支援の効果を示したりする取り組みを強化していきたいですね。

——支援のあり方を広げていくうえで、カタリバの強みは何だと考えていますか?

カタリバには、「創りたい未来からはじめる」という文化があります。支援というと一般的には「できることをやる」発想になりがちですが、カタリバでは「まず理想の未来を描き、そこから逆算して今何をすべきかを考える」というスタンスが根付いています。

だからこそ、支援の枠組みにとらわれず、「本当に必要なものは何か?」を考えながら、新しい取り組みに挑戦できる。それが、これから支援を拡大していく上でも大きな強みになると信じています。


 

母親との原体験から「親と子の支援」に強い関心を持ち続けてきた富永。その思いは今も変わらず、これからも保護者支援を続けていきたいと語る。

「この記事を読んで、もし少しでも何か感じるものがあったなら、ぜひ一度、カタリバに話を聞きに来てほしいですね」

富永の言葉には、支援を必要とする人だけでなく、支援に関心を持つすべての人への呼びかけが込められている。


 

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Writer

佐々木 正孝 ライター

秋田県出身。児童マンガ誌などでライターとして活動を開始し、学年誌で取材、マンガ原作を手がける。2012年に編集プロダクションのキッズファクトリーを設立。サステナビリティ経営やネイチャーポジティブ、リジェネラティブについて取材・執筆を続けている。

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