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KATARIBA マガジン

「テクノロジーを活用すれば、日本の教育はもっとよくなる」ITエンジニアリングに向き合い続けた彼が、カタリバの技術顧問になったわけ/PARTNER

vol.254Interview

date

category #インタビュー

writer 田中 嘉人

Profile

村野 智浩 Tomohiro Murano カタリバ技術顧問、アルスクール株式会社 代表取締役CEO

東京大学工学部卒業、二児の父。チームラボやアクセンチュアで活躍後に独立、多くのスタートアップでCTOや技術顧問を歴任するITスペシャリストであり起業家。2018年にアルスクールを創業。探究学習やモンテッソーリ教育を活用したプログラミング教育を500人以上の子どもたちと実践、テクノロジーを活用した新たな学びの探究者。

2022年2月、カタリバはプログラミング教室を運営するアルスクール株式会社の代表でエンジニアの村野智浩(むらの・ともひろ)さんを技術顧問として迎えました。

村野さんの経歴を紐解くと、東京大学工学部卒業後、大手コンサルティング会社や有名スタートアップでITエンジニアとして経験を積み、起業。さまざまな企業で、CTO(最高技術責任者)や技術顧問を務めてきました。そんな村野さんは、新たな活躍のフィールドとしてなぜカタリバを選んだのでしょうか。村野さんが目の当たりにしたカタリバの魅力、そして可能性とは。

カタリバのDXを推進していきたい

ーまず、もともとの役職、仕事内容から教えてください。

都内を中心に探究型キッズプログラミング教室「アルスクール」を運営するアルスクール株式会社の代表です。自らも授業を担当し、子どもたちにものづくりの楽しさを伝えています。

ーカタリバと関わることになったきっかけは?

2021年の秋頃、当社がプログラミング教育のオンライン教材販売をスタートしたことです。以前より交流のあったカタリバ代表の今村さんに「よかったらぜひ当社のオンライン教材をカタリバで使ってほしい。僕らが授業を担当することもできるので」と提案したところ、ちょうどカタリバも不登校支援プログラム「room-K」でオンライン教材を活用した学習プログラムを充実させようとしていたタイミングで。ありがたいことにトントン拍子で導入の話が進み、授業も担当することになりました。

技術顧問の話は、room-Kで授業を受け持つかたわら、カタリバ内のシステムに関する相談に乗っているうちに今村さんから打診を受けたことがきっかけです。アルスクールの経営と並行する形になるので私個人への負荷は大きくなりますが、同じ教育事業を手がけるビジネスパートナーとしての相互作用を発揮できる点に可能性を感じ、チャレンジを決意しました。2022年2月頃の話です。

room-Kでプログラミング講座の授業を行う村野さん(写真右上)room-Kでプログラミング講座の授業を行う村野さん(写真右上)

ー技術顧問としてはどのような業務を担当しているのでしょうか。

非常に幅広く関わっています。期待されているのは、カタリバにおける事業拡大や利用者の方たちへのサービスの質向上をシステム面から引っ張っていく役割です。

直近の業務だと、大きく分けて2つ。1つは、経済的困難を抱える家庭の子どもや保護者への支援に取り組む「キッカケプログラム」が規模拡大の段階に入っているので、業務に関連するさまざまな情報の管理体制を構築し直し、安全で事業拡大に耐えうるシステムに仕上げるべく取り組んでいるところです。

もう1つは、カタリバ組織内のITリテラシー向上です。現在カタリバには事業のシステム構築を担う専任のエンジニアチームがありません。システムの構築を通じて組織のITリテラシーを上げることで、いずれエンジニアチームが発足したときの柱をつくっていきたいと考えています。エンジニア採用に関するディスカッションや面接にも参加しています。

ーいずれにしても、プレイヤーとしての要素が強い印象を受けます。

完全にプレイヤーですね。いまのカタリバのフェーズでは方向性を示すだけではなく、いちプレイヤーとしてエンジニアの役割を自ら体現していくことが必要だと考えています。

とはいえ、いつまでも僕がプレイヤーであってはいけません。ある程度のいいスタートダッシュは切れた感覚はあるので、今後は他のプレイヤーへの引き継ぎなども視野に入れて、組織全体を見据えた課題へと軸足を移していきたいと考えています。

ー組織全体を見据えた課題とは?

ひと言でいうと、カタリバのDXです。現状、カタリバでは何か課題に直面しても現場のスタッフたちが力技で解決していることが多いんですよね。それはそれですごいことなのですが、「テクノロジーを活用すれば、もっと効率的に解決できるのに」と感じることも少なくありません。まさに現場の職員たちも気づき始めていますが、僕がよりコミットすることでIT技術の活用による可能性を感じてもらえたら嬉しいです。

カタリバだからこそ得られた経験

ーカタリバの技術顧問に就任したことで、新しい発見はありましたか?

特に印象的だったのは、カタリバの行政との向き合い方ですね。行政に対して“頭が固い”“打っても響かない”というネガティブなイメージを勝手に抱いていたのですが、カタリバは積極的にコミュニケーションを図って巻き込んでいます。

room-Kに関しても、スタートアップ的なやり方だとSNSや検索エンジンを活用したマーケティングで認知を獲得していく方法が一般的。一方、カタリバは自治体や教育委員会に働きかけることで認知獲得だけではなく、より強い支援ができる形をつくっています。

ビジネスの畑にいる人間だとついマーケットでの影響力ばかりを意識しがちですが、社会にインパクトを与える方法はそれだけではないんですよね。もちろんカタリバの場合は過去の実績があってこそだと思いますが、「こんなにも行政を巻き込むことができるんだ」「行政を巻き込むとこんなに大きな成果を出せるんだ」と驚いたのを覚えています。

ーご自身のモチベーションとしてはどうですか?

とても充実していますよ。アルスクールのような立ち上げ期の企業はとにかく0→1の要素が強いですが、カタリバは1→10のフェーズなので、マインドセットも取り組むべき内容も変わってくる。僕にとってはカタリバでの活動は挑戦でもあるし、過去の経験の棚卸しにもなる。立ち上げ期の企業では得難い、カタリバのような大きな組織ならではのやり甲斐を感じています。

ーご自身の事業とカタリバでの活動による相互作用(シナジー)は生まれてきているのでしょうか?

シナジーを感じる機会は確実に増えてきています。最近だとアルスクールのオンライン教材の改良を進めているのですが、まさにカタリバとのシナジーによるものです。

room-Kでオンライン授業をしていると、リアルと比べて子どもの様子がわかりにくいんですよね。音声やビデオをオフにされてしまったら、完全にお手上げです。

そこで音声やビデオがオフの状態でも、ログイン状況や取り組んでいる内容などがわかるように改良しました。子どもたちに伴走していくために必要な機能を製品に実装できたことは、カタリバとの協働の成果だといえるのではないでしょうか。

ーroom-Kで授業する上で大切にしていることを教えてください。

やはり心理的安全性を感じてもらうことですね。不登校の子どもの中には心に傷を負っているケースも少なくなく、教育の場に抵抗を感じている可能性もあります。だからこそ、「ここだったら傷つかずに楽しくできそう」と感じてもらいたい。先入観なくフラットな気持ちでチャレンジできるのも、プログラミングという新しい教科のメリットだと思います。

テクノロジーを活用して世の中を良くしていきたい

ー村野さんご自身の話もぜひ聞かせてください。これまでアルスクール以外にもさまざまなスタートアップのCTOや取締役などを経験してきた村野さんが、なぜ教育事業にチャレンジしようと考えたのでしょうか。

「ひとりのエンジニアとしてシステムをつくるだけではなく、テクノロジーを活用して世の中を良くしていきたい」という気持ちが強くなってきたからです。

エンジニア観が変わった大きなきっかけは、小学校に通う2人の息子の存在です(2022年5月時点)。2人とも幼稚園のときにモンテッソーリ教育(※1)から入って、今はオルタナティブスクール(※2)に通っているのですが、いわゆる詰め込み型ではない学びの形が非常に興味深かった。同時に、世の中に広めていく必要性を感じて教育事業を検討し始め、エンジニアだからこそできることとして、プログラミング教育に注力していくことにしました。

※1 「子どもには自分で自分を教育する、育てる力がある」という自己教育力の考えを根底に考えられた教育法
※2 フリースクールやホームスクール(家庭を拠点とした学習)などを総称したもの

アルスクールの教室でのひとコマ(右から二番目が村野さん)

ーこれまでと全く異なる仕事に抵抗はありませんでしたか?

抵抗はありませんでしたが、戸惑いはありましたね。

たとえば、子どもたちや親御さんの時間をもらって教えることの責任は重いし、生徒の集客に関してもシステムの開発とは全く違う話なので。ほぼ転職と言っても過言ではないくらい環境が変わったので勉強することばかり。子どもたちはみんな敏感なので、手は抜けないし、真剣に向き合わないと信用すらしてもらえません。

ただ、やりがいは非常に大きいです。なんと言っても、反応がダイレクトに伝わってくる。エンジニアとして働いているとエンドユーザーと接する機会が少ないので、仕事の成果を実感しづらい。子どもたちから反応を得られることは刺激になりますし、しかも成長していく過程を伴走できるわけですから、日々ワクワクしながら働いています。最初は警戒していた子どもがどんどん懐いて、「一緒に遊ぼう」と言ってくれたときは嬉しいですね。

カタリバの想いを、世の中へ広めるために

ー今後、村野さん自身は教育におけるどのような課題を解決していきたいと考えていますか?

教育のクオリティを高めるだけではなく、クオリティの高い教育を広めていく役割を担っていきたいですね。

日本には尊敬できる教育者がたくさんいます。彼らは妥協することなく教育のクオリティ向上に取り組んでいますが、多くの子どもたちに届ける術は持ち合わせていない。だからこそ、僕たちスタートアップがテクノロジーの力を駆使して、100人、1000人、1万人と多くの子どもたちが教育を受けられるように広めていきたいと考えています。

ー「クオリティの高い教育」とは?

定義は人によって異なりますが、少なくとも僕は詰め込み型ではないと思います。

特に都内は中学受験シーンが加熱していて、詰め込み型の教育が増加しています。でも、子どもたちにとってはストレスフルで、うつ病を患ってしまったケースもあるそうです。僕は不登校が激増している背景にも詰め込み型教育があるような気がしているので、もっと子どもたちが楽しく前向きに学べるような社会をつくっていきたいですね。

ー中学受験に詰め込み型教育が求められていることが原因なのでしょうか?

実際は、そんなことないんですよ。僕が通っていた武蔵中学も、麻布中学も灘中学も、いわゆる難関中学と呼ばれる学校では詰め込み型の教育をしていません。みんな勉強が楽しくて通っているような人たちばかりですから。学びの現場と世間のイメージがズレているんですよね。

だから、僕がすべきは学びの楽しさを広めていくこと。クリエイティブラーニングという言葉もありますが、「モノをつくる」ことは学びの楽しさを知るうってつけの機会です。プログラミング教育を通じて、学びの楽しさを感じてもらいたいですね。

room-Kのプログラミング講座で、実際に子どもたちが作った作品

ーカタリバの技術顧問としてはいかがでしょう?

カタリバは、社会が必要としているプログラムを挑戦的な姿勢かつスピード感を持って取り組んでいます。だからこそ、テクノロジーを活用してもっと広めていきたい。

テクノロジーを活用することでカタリバのプログラムに参加できる子どもが増えたり、新しい伴走の仕方を考えられたりすることはあると思います。

カタリバには、日本の教育と向き合う熱い想いがあります。カタリバがよりスピード感を持って世の中に良い影響を与えていけるようにテクノロジーを通じて支援していくこと。それが技術顧問としての目標です。

-写真:アルスクール株式会社提供(1〜3枚目)


 

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Writer

田中 嘉人 ライター

ライター/作家 1983年生まれ。静岡県出身。静岡文化芸術大学大学院修了後、2008年にエン・ジャパンへ入社。求人広告のコピーライター、Webメディア編集などを経て、2017年5月1日独立。キャリアハック、ジモコロ、SPOT、TVブロス、ケトルなどを担当しながら、ラジオドラマ脚本も執筆。

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