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KATARIBA マガジン

「教育だけじゃなく社会を変える力もある」全国10万人に広がる学びのムーブメントの一翼を担う彼が目指すもの/Spotlight

vol.349Interview

date

category #インタビュー #スタッフ

writer 田中 嘉人

Profile

山田 将平 Shohei Yamada 全国高校生マイプロジェクト全国事務局 事務局長(事業責任者)

1991年生まれ、愛知県名古屋市出身。筑波大学卒。身の回りや社会をよりよくしていくプロジェクト学習(=マイプロジェクト)が、子ども達自身の未来もつくる学び方になると考え、学生時代からマイプロジェクトを届ける取り組みを推進。起業にも挑戦。2015年からNPOカタリバ入職。「中高生の秘密基地」b-labのスタッフとして勤務後、マイプロジェクト事務局へ。高校連携、自治体連携、地域団体連携などの業務を担当。2024年4月より事業責任者。

度重なる自然災害やコロナ禍など、昨今は社会全体、さらには子どもたちの置かれる環境に大きな影響を与える出来事も少なくない。

すべての10代が意欲と創造性を育める未来の当たり前を目指し、全国各地で活動を行っているカタリバ。
その現場では、状況の変化に合わせて取り組みの内容を柔軟に進化・変化させつつ、目の前の子どもたちに向き合っている。

シリーズ「Spotlight」では、現場最前線で活動するカタリバスタッフの声を通して、各現場のいま、そして描きたい未来に迫る。

「高校生マイプロジェクト」とは、高校生の「マイ(My)」を起点とした社会へのアクション。自身が「実現したいこと/変えたいこと」を描き、その達成を目指して行動を起こし、そのプロセスを振り返ることによって意欲を深め、さらに次の社会へのアクションにつなげていく活動だ。

カタリバでは2013年より、「2020年に1万人の高校生がマイプロジェクトに取り組んでいる状態」を目指して活動してきたが、2013年に18人だった実践高校生が、2020年には1万4000人になり、2023年には9万8000人を超えた。

マイプロジェクトを取り巻く環境は、どのように変化してきたのかーーー。マイプロジェクトの10年間とこれからを、「全国高校生マイプロジェクト」事務局長の山田将平(やまだ・しょうへい)が語った。

※マイプロジェクトは、慶応義塾大学大学院准教授であった井上英之研究会で、ソーシャルアントレプレナーシップ(社会起業家)研究の中で生まれました。高校生マイプロジェクトはその流れを基礎として進めています。

東北の被災地で生まれた「マイプロジェクト」

——2024年4月から事務局長になられたそうですね。現在の仕事内容を教えてください。

全国高校生マイプロジェクトの戦略設計や予算管理など事業全体を見ています。他にも、企業さんなど学校の先生以外で高校生のチャレンジを応援してくれる方たちとのパートナーシップ構築を担当しています。

10年間の活動を通して、高校生のマイプロジェクトが促進されていくためには、大人たちのサポートが重要であることがわかってきたので、より多くの大人を巻き込んでいくための発信や企業協賛の仕組みづくりなどを担っています。

——マイプロジェクトを取り巻く環境は、この10年でどのように変わってきたのでしょう?

もともとは東日本大震災で大きな被害を受けた東北沿岸部で、カタリバが子どもたちの居場所づくりをしていた際、そこで出会った高校生の「被災した地元の役に立ちたい」「なんとかしたい」という声をきっかけに、2013年にスタートしました。

当時は高校生が地域に出て活動する機会が今ほどは多くなく、先生たちも「高校生が学校の外で、社会や地域でプロジェクトを行う」と言われても、イメージがわかない方が多かったと思います

私たちも手探りではありましたが、「地域のために何かをしたい」という高校生たちと一緒に、学校外の時間を使って、「原点にある想いは何か?そもそもどんなことをできるとよいのか?」などを考え、地域の方にも協力していただきながらなんとか形にしていくような、試行錯誤を繰り返す出発点でした。

潮目が変わるきっかけとなったのは、2018年の文部科学省の告示です。2022年に改訂される学習指導要領で「総合的な学習の時間」が“主体性”により重きを置いた「総合的な探究の時間」に変わることが決定しました。

それ以前からも共に進める連携団体さんはいたのですが、高校生マイプロジェクトが大切にしていた主体性の要素を取り入れた取り組みを自分たちの地域や学校でもという声をさらにいただきはじめ、東北から全国へと本格的に広がっていきました

当初は被災経験であったり、地域の課題であったり、マイノリティであることなど、自分の原体験を出発点にプロジェクトに取り組む高校生が多かったのですが、少しずつ「面白そうだからやってみる」という高校生が増えてきたのが印象的でした。

最近では、タンポポが好きで自分の住んでいるエリアに生えているタンポポの生育状況を調べていたら、在来種の北限を発見した高校生など、10年かけてマイプロジェクトの中身に多様性が生まれてきたように感じます。

2024年段階で、日本の高校生の約15%にあたる約700校が学校パートナーとして連携中。 ※GP…学校パートナー、CP…地域パートナー

より多くの高校生が実践するようになったからこそ生まれた課題

——学校の授業に「総合的な探究の時間」が組み込まれたことで変わった点はありますか?

「やりたいからやっている」だけでなく、「一定の強制力がある」構造になったことで、マイプロジェクトを実践する高校生の数は増えたものの、どうしても熱量の差が生まれてきています。「わざわざ大変なことを増やす意味がわからない」と、マイプロジェクト自体にネガティブな反応を示す生徒もいました。

でも、実際にマイプロジェクトをやってみた結果、「人と話す意味が少しだけわかったかもしれないです」とうれしそうに言ってくれることも。アクションを起こすことで得られる学びや成長は確実にあるので、「いかに取り組みやすくするか」が今も変わらず直面している大きな課題です。

——マイプロジェクトに取り組みやすくするために、どのようにアプローチしていこうとしているのでしょうか?

実は今、1週間でできることを考えて実践してみる『ちょこっとマイプロジェクト』という取り組みを始めたところです。カタリバも連携している岩手県立大槌高等学校で生まれたコンテンツで、それをベースに全国に展開をしています。

たとえば「外国にルーツのある親戚と会話するために中国語を勉強してみる」「一番早く帰れる帰宅ルートを見つける」など、ライトなテーマもOKというのが特徴です。

先生たちにも『ちょこっとマイプロジェクト』に取り組んでみてもらい、生徒に事例として話してもらうということもやっています。すると、最初は「やりたいことなんてない」と言っていた生徒も「やってみてもいいかも」という気持ちに変化することがあるんです。

——先生たちにやってもらうのはユニークな取り組みですね。

すべての高校でそうという訳では全くない前提で、高校生たちはどうしても「評価をされるのでは」と思ってしまいやすい構造の中にいます。先生方にもライトなテーマでまず行っていただき、それを共有してもらったうえで自分たちの番という進め方にすることで、高校生たちも思ったことを素直にやりやすくなるという効果があると考えています。

日々忙しい中にいらっしゃる先生方が進めやすくなるような、ツール提供(運営ガイド/投影資料/ワークシート)も、『ちょこっとマイプロジェクト』の展開を契機に開始しています。それが高校生がマイプロジェクトにチャレンジしやすくなる環境につながっていくはずなので。

マイプロジェクトで変化するのは高校生だけではない

各地域で学校や高校生をサポートする団体(=地域パートナー)は17府県に広がった。

——10年間続けてきた中で「やってきてよかった」と感じるのはどういうときでしょう?

「高校生の変化」と「地域の変化」の2点があります。

高校生の変化に関しては、マイプロジェクトでの経験が未来につながる成長につながったのかなと感じられるときに、やってきてよかったと感じます。

「親や塾以外に電話をかけたことのない高校生が、緊張しながらも頑張って企業に電話をかけて、無事ヒアリングできた」とか……小さな変化ではありますが、未来の社会で生きていく土台が育まれていると捉えています。

また、高校生時代にマイプロジェクトに取り組んだ卒業生に話を聞いたときに、以下のような内容がありました。

「プロジェクトで【生徒が楽しめる新たな授業】を作ろうとしたとき、先生のマネしかできなかった。どんなことを授業の目標にできるとよいかを考えたとき、結局本で読んだ内容のマネしかできなかった。こうした経験をしたから、大学でちゃんと学ぼうと思ったんです。今、意義と楽しさを感じて学んでいます」

実践してみたことで今の自分の実力を知り、学ぶ必要性を実感したうえで進学して頑張っている。自身で未来をつくっていくことにつながる意欲の高まりのサポートになっていることは、うれしく思います。

——もう1つの「地域の変化」とは?

マイプロジェクトの取り組みは、全国各地で高校生に伴走する「地域パートナー」と共に推進しています。地域パートナーは、学校の探究の授業の支援、高校生のプロジェクトや探究を後押しするイベントの実施、都道府県単位で行う地域Summitの開催など、日々高校生たちの学びの最前線を支えています。

そんな全国の地域パートナーの一部から、独自の工夫が出てきています。高校生以外の中学生や大学生、社会人でマイプロジェクトにチャレンジする人が増えてきているんです。

高校生を起点にして多世代のアクションが連鎖していることは、地域にとって間違いなくプラスになると思っていますし、カタリバだけでマイプロジェクトを推進していたら絶対に実現しなかった形へ進化が見え始めていることにワクワクします。「私たちよりアツいかも!」と感じる方々が、いろいろな地域で活動を始めています。

—マイプロジェクトを通じてさまざまな成果が出始めているのですね。

マイプロジェクトを継続していくことで、それぞれのアクションをマジメに面白がって応援しあい、社会を少しずつでもよりよくする仲間が増えている感覚もあります。ひいてはそれがよりよい未来、社会をつくることにつながると思うので、高校生の成長が社会によい影響を与えるという循環を大事にしていきたいです。

2026年、マイプロジェクトを13万人の高校生に届けるために

——今後マイプロジェクトをどのように進めていきたいと考えていますか?

営利が優先される事業体では、構造上人口が少ないエリアへのアプローチはどうしても少なくなってしまいます。「意欲と創造性をすべての10代へ」というミッション主導で事業を展開していくことのできるNPOだからこその強みを生かして、日本全国の高校生に対して成長につながる機会を提供していきたいと考えています。

定量的な目標としては、2026年に13万人の高校生にマイプロジェクトを届けたいと考えています。13万人というと、高校部活動の中で人口が最も多い男子サッカー部人口とほぼ同じ。サッカー部と同じくらいマイプロジェクトを身近な選択肢にしていきたいと思っています。

——「マイプロジェクトを身近に、当たり前に」というところですね。

そうですね。マイプロジェクトに取り組む環境が整っていなかったりサポートの手が足りなかったりすることでチャレンジできないのはもったいないので、地域パートナーのみなさんとも連携しながら、「もっとやりたい」という高校生が応援されるような環境をつくっていきたいです。

——これから始めたいと思っている取り組みなどはありますか?

2つあります。1つは、マイプロジェクトの価値を改めて計測することです。これまでは主に教育の文脈での価値を追求してきましたが、ESG(環境・社会・ガバナンス)やSDGsといった社会全体の文脈で貢献できるポテンシャルを秘めており、教育以外の切り口からマイプロジェクトに関心をもってくれる人を巻き込んでいけるのではないかと思っています。

そのためには、教育だけに限定しないマイプロジェクトの価値を語っていく必要がある。現在、各所と連携して、高校時代にマイプロジェクトに取り組んだ卒業生に対する調査を進めているところです。

もう1つは、マイプロジェクトに取り組んだ卒業生が社会でさらなるチャレンジに取り組んでいけるようなコミュニティ立上げを企画しています。共感してそのコミュニティを一緒に盛り上げてくださる企業や自治体さんとパートナーシップを組むことで、「わたしからはじめる社会へのアクション」の総量が増えていくような未来も目指していければと思います。

 


 

マイプロジェクトを全国に広げる活動に携わって約10年。

「広がってきたからこそ見えてきた可能性がある。その可能性を形にする挑戦をしていきたい。」と山田は言う。

高校生だけでなく、社会人、そして社会全体をも巻き込み始めたマイプロジェクトの、新たな章に期待が膨らむ。


 

【オンラインイベント】マイプロジェクトAWARD応援企画 〜 事務局長が語るマイプロジェクトの「今」と「未来」
取り組み開始から11年を経た現在捉えている「全国の高校生や教育の現場を取り巻く環境の変化」「直面している課題」、そして「事務局の今後の支援の在り方」について、事務局長の山田将平より、お話させていただきます。
開催日:2024年12月17日(火)19:00~21:00 @Zoom
詳細・お申込み:Peatixページ作成中です。準備が整いましたら、マイプロジェクトの公式WEBや各種SNSにてお知らせいたします。
申込締切:2024年12月16日(月) 17:00まで

※本イベントはFacebookコミュニティ「全国高校生マイプロジェクト応援コミュニティ」にご参加の方または過去マイプロジェクト参加者の方が対象となります。コミュニティ参加がまだの方は、当イベントにお申込み後、こちらよりコミュニティ参加申請(無料)をお願いいたします。詳細はお申込みページにてご確認ください。

【観覧申込受付中】全国高校生マイプロジェクトアワード2024
一般の方々にも地域Summit・全国Summitをご観覧いただけます(一部地域Summitを除く)。
地域Summit
全17都道府県にて開催。その地域に在住・在学の高校生によるマイプロジェクトの発表と、参加者同士や大人との対話の様子をご覧いただけます。
開催期間:2024年12月~2025年2月
詳細・お申込みhttps://myprojects.jp/article/info/summit_chiiki2024_viewinginfo/

全国Summit
各地域の代表48プロジェクトによる発表と各領域の一線で活躍する大人との対話、そしてマイプロジェクトのロールモデルを選出・表彰する様子をご覧いただけます。
開催日:2025年3月28日(金)~30日(日) @東京大学
詳細・お申し込みhttps://myprojects.jp/award/zenkoku/
※申込受付開始は2025年1月頃を予定しております。

【予告】全国高校生マイプロジェクトアワード2024 全国Summit 応援クラウドファンディング企画
現在、全国Summit参加高校生を応援するクラウドファンディングの実施を検討しております。詳細が決まり次第、マイプロジェクトの公式WEBや各種SNSにて改めてお知らせいたします。

【上記すべての問合わせ】
summit-mypro@katariba.net

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Writer

田中 嘉人 ライター

ライター/作家 1983年生まれ。静岡県出身。静岡文化芸術大学大学院修了後、2008年にエン・ジャパンへ入社。求人広告のコピーライター、Webメディア編集などを経て、2017年5月1日独立。キャリアハック、ジモコロ、SPOT、TVブロス、ケトルなどを担当しながら、ラジオドラマ脚本も執筆。

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