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EventReport前編/「新しい学びのスタンダードをつくる」教育コーディネーターという仕事とは?

vol.068Report

NPOカタリバは、どんな環境に生まれ育った10代も意欲と創造性を育める未来を目指して、全国各地で地域ごとの課題やニーズと向き合い活動しています。そんなカタリバの活動現場の最前線について、実際に働くスタッフからやりがいや具体的なチャレンジについてお伝えするイベント企画「シゴト場」をスタートしました。

カタリバの採用にエントリーしようか迷っている方はもちろん、いつか社会課題を解決する仕事に挑戦したい方や、どんな仕事なのか興味があるという方まで、幅広くご参加いただけるイベントです。

第1回は、「地方が抱える課題に教育から挑む、教育コーディネーターという仕事」。ビジネスセクターからカタリバに転職し地方の教育現場でコーディネーターとして活躍している、鈴木隆太(雲南市高校魅力化プロジェクト担当)と本田詩織(ふたば未来学園担当)が登場しました。

注目を浴びつつある「教育コーディネーター」という仕事。そのリアルな現場感とは…?

明治維新後最大の変革期を迎える日本の教育

鈴木隆太(以下、鈴木):みなさんこんばんは。金曜日の夜にお忙しい中お集まりいただきありがとうございます。このイベント会場にいらっしゃる方以外にも、今日はオンラインでご参加いただいている方が22名いらっしゃいます。全部で45名くらいのみなさんに、社会や地域や高校で今何が起きているのか、コーディネーターという仕事は何をしているのか、ということを中心にお話していきたいと思っています。

雲南市でコーディネーターをしています、鈴木隆太と申します。今日はよろしくお願いします。

島根県雲南市高校魅力化プロジェクト担当 鈴木隆太 東京都出身。大学時代にNPOカタリバにインターンとして参画し、キャリア学習プログラムや「コラボ・スクール女川向学館」の立ち上げに関わる。株式会社LIFULLにて勤務後、2015年NPOカタリバへ転職、雲南拠点の立ち上げに従事。2017年より雲南市の「教育魅力化コーディネーター」として「雲南市教育魅力化」を推進中。

本田詩織(以下、本田):福島県のふたば未来学園に常駐している本田詩織です、よろしくお願いします。

鈴木:まず教育を取り巻く現状について簡単にお話しすることから始めたいと思います。

日本の教育は明治維新後最大の変革期を迎えていると言われています。今日は社会人の方に多く参加してただいているので、日々仕事をする中でリアリティをもっている方も多いと思いますが、社会がものすごいスピードで変化しています。情報社会に続く新たな社会、Society 5.0という社会がくるとも言われていて、全ての人とモノ、あらゆるものがサイバー空間でつながり、AIが解析したフィードバックを元に様々な知識や情報が共有され、今までにない新たな価値を創造していく社会がやってくると言われています。

また「VUCA時代」という言葉を聞いたことがある方も多いと思いますが、変動性があって不確実性があって複雑で曖昧な社会に突入し、変化しないと既存のものが通用しなくなるという時代ですね。皆さんご存知の通り、例えばタクシー配車アプリのUber、民泊のAirbnb、電気自動車のテスラなど、過去は考えられなかったサービスが生まれ、世界中に広がっています。

テクノロジーの発達によって社会が変わることはもちろん、例えば東日本大震災以降、僕たちの目の前の日常や価値観はかなり変わっていきました。テクノロジーだけでなく、災害によっても社会は変わっていきます。

鈴木:未来を予測しきれないことは明確になっている。生きることが単純ではなくなっている時代に、教育はどうあるべきなのか?

教育は、大きく変わろうとしています。2020年には大学入試センター試験が廃止になり、2022年には高校で新学習指導要領の実施が始まります。暗記をして知識をアウトプットしてく学びから、習得した知識をどう活用するのか、自分で考えまとめ表現する学びに変わっていきます。板書型の授業から、主体的で対話的で深く学ぶ、インタラクティブで、生徒同士が相互に学び合うような授業スタイルに転換していくことが求められています。

文部科学省だけでなく、内閣府や経済産業省も教育のアジェンダに乗り出し、国全体が教育を考えていく転換期にきています。そういう中で、私たちも、民間の教育関係企業も、行政も、先生たちはもちろん、日々悩みながら仕事をしているというのが現状です。

ここまでで何か質問とか感想とかあったら聞きたいのですが、どうでしょうか?

参加者:そもそもの質問なのですが、なぜ日本の子どもたちは自己肯定感が低いと思いますか?

鈴木:学術的な観点で回答できるわけではないんですが、僕が地域に入って個人的に感じていることとしては、目立つことがあまりいいことではないという空気とか、1対40という一斉授業の中でも失敗を許容されないような空気があることは影響しているんじゃないかと思っています。

本田:私も地方の現場にいるので、顔見知りで変わらないコミュティの中で育っている子たちが、違うことをして浮いてしまう不安感をすごくもっていると感じます。ちょっと地域活動とか国際交流イベントに参加するとか、そういうことをすると自分に何かネガティブなことがあるんじゃないか、と怯えている感じが…知り合いの濃度が濃いからこそ起こる、10代のコミュティの狭さが何か影響しているような、そんな空気を感じます。

ふたば未来学園高校支援担当 本田詩織 山口県出身。学生時代より地域の魅力や課題を教育に繋げる取り組みに関心を持つ。株式会社ベネッセコーポレーション、株式会社リクルートコミュニケーションズ勤務後、2018年にNPOカタリバへ転職。福島県立ふたば未来学園高等学校併設の「双葉みらいラボ」にて、みらいラボの企画・運営や、同高校の探究型学習コーディネーターに従事している。

鈴木:SNSが当たり前のものになって、正面切っては言われないけど実はSNSで色々言われているとか、そういうことも子どもたちに影響している気がしていますね。

本田:オンライン参加の方から、「自分で考え判断して決断していかなければいけない社会がやってくる。そこに正直自分がどう対応するかも、日々もんもんとしています」という感想ももらっています。

鈴木:そうですよね、僕ももんもんとしています…

参加者:教育改革は国の方針なので現場でも周知はされていると思うのですが、実際に改革に向けて取り組んでいる先生や学校はどのくらいいるんでしょうか?

鈴木:学校の温度感でいうと、まず先生たちはものすごく忙しいんですね。変われ変われっていうけど、一体どれを削れば変わるための時間がつくれるのか、という感覚は多くの方があるんじゃないかと思います。もちろん前向きな学校もあればそうじゃない学校もあると思いますが、県立高校だと先生は転勤もあって、先生が変わる中で学校や地域をどうつくっていくのかは、すごく難しい。一筋縄ではいかないし時間もない。取り組みたいけど取り組めないという先生や学校が多いんじゃないでしょうか。

そのあたりのことも現場の事例をもとにこの後紹介していきますね。

新しい学びのスタンダードをつくり
中高生のチャレンジを加速させる

鈴木:まずは雲南市のプロジェクトからご紹介します。僕はずっと東京で生まれ育ち、5年前にカタリバに転職してから島根に住み始めました。ちなみに先日greenzさんに取材してもらった記事で僕の想いを書いていただいたので、是非そちらもみていただけたら嬉しいです。
(greenz記事:日本最先端の教育を、人口4万のまちで創る。雲南市で「辺境からの教育改革」に挑むのは、ビジネスセクターからNPOに飛び込んだ”教育魅力化コーディネーター”たちだった

雲南市は島根県のちょうど真ん中にあるまちで、出雲空港から車で20分くらい、東京も飛行機を使えばアクセスはよくて、今日僕なんかはドアtoドアで3時間くらいでここに来ました。

平成の大合併で5町1村が合併してできた市なんですが、東京23区くらいの広さがあります。人口は4万人ほどで、すでに高齢化率36%の超高齢化社会、日本の25年先をいっていると言われています。中学生世代は約1,000人ほど、高校生は約800人ほどいます。

僕たちはその雲南市で、市内に3校ある高校に関わっています。ちなみにこの中で雲南市のことを知っている方とか行ったことがある方はいますか?あ、1人手があがりましたね、ちなみにどうしてですか?

参加者:父が雲南市出身です。

鈴木:!!!あとでゆっくり話しましょう!

雲南市は町の総合戦略に2本の柱をたてています。1つは定住基盤の整備。もう1つが人材育成です。色々な世代のチャレンジを応援することで、日本一チャレンジがうまれるまちを目指していて、僕たちカタリバはその中の中高生のチャレンジを加速させるための仕事をしています。行政はこの総合戦略の実現のために、いわゆる縦割りではなく、部署を横断した横串のプロジェクトチームをつくっていて、連携しながら取り組んできています。

雲南市のコンセプトと成果は1年ほど前に、安倍首相の所信表明演説でも取り上げられていて、

高齢化率36.5%。過疎化。限界集落。このピンチを、島根県雲南市は思い切って、若者たちに託しました。
「日本で一番、若者がチャレンジしやすい町を目指す」
空き家をシェアオフィスに利用する。耕作放棄地で育てた作物から新しい特産品を開発する。若者たちからは、社会的課題の解決につながる新しいアイデアが次々と生まれました。過疎地を訪問し、看護サービスを提供する。三人の若者たちが始めたチャレンジは、地方創生交付金を活用し、行政や地域の支えも受け、町の病院や診療所の新しいネットワークを作り上げることに成功しました。活動の輪は広がり、今、七人の若者たちが、中山間地域の医療を支える大きな力となっています。
ピンチもチャンスに変えることができる。
この4年間で、50件近いアイデアが起業につながりました。地方にこそチャンスがある。雲南市には、今、250人近い若者たちが移住し、地域の新しい活力となっています。
少子高齢化という我が国最大のピンチもまた、チャンスに変えることができるはずです。

と言ってもらいました。

鈴木:とはいえまだまだ道半ばであるのが現場の感覚です。日本一チャレンジがうまれるまちを目指して、教育委員会とともに、これからの学びの生態系をつくろうと日々奮闘しています。

具体的には、教育委員会の中と高校の中それぞれに席を持っています。

行政の方々とは雲南市の総合戦略やまちづくり戦略としての教育を、一緒に企画立案して政策に落とすということをしています。行政職員と僕たち民間と地元の人にも入ってもらって議論しながらつくっています。

高校の中では探究学習のカリキュラムをつくるために、先生たちと日々議論を重ねているんですが、最初は学校の理念を全教員でつくるワークショップを開いたり、それを元に探究学習のカリキュラムや教材づくり、実際の授業なども行っています。

高校の先生は改革に前向きに取り組んでいるのか?という質問がありました。マクロミルさんとカタリバが協働で実施した調査によると、38%の先生が学校外の取り組みをしたいと思っていて、できない理由は「時間がない・やり方が分からない・予算がない」がしめています。

鈴木:変えたくてもそのための余白やノウハウやお金がないというのが学校や先生の現状です。僕たちのような教員以外の立場で学校に関わる人材のニーズは今後も拡大するんじゃないかと思っています。

地方では特に、都会のように資源がたくさんあるわけではありません。例えば大学生に授業に関わってもらうことも難しい。地域の方々に学校に関わってもらうために研修やコーディネートを行っています。実際僕たちが関わるようになって、それ以前の3倍の地域の方々に高校に関わってもらえるようになりました。関わる大人が増えればふえるほど、生徒たちは変わっていくんです。

これからも、新しい学びのスタンダードをつくるために行政と高校とタッグを組んで取り組みを加速させていいきたいと思っています。

社会人経験5年を経て挑戦している
教育コーディネーターというシゴト

本田:改めまして、ふたば未来学園でコーディネーターをしている本田詩織です。よろしくお願いします。先ほど鈴木から雲南市の話がありましたが、私からはふたば未来学園でコーディネーターはどう地域の課題と向き合っているのか、どう新しい教育のかたちをつくっているのかをお話ししたいと思います。

本田:私がこういった仕事を意識して目指したきっかけなんですけど、出身が地方で、広島や山口で幼少期を送りました。人口6,000人とか2万人とか、雲南市よりも小さいまちで小中高と過ごし、大学で福岡に出ました。都市部で学ぶ中で、周りと自分の子ども時代を過ごしてきた経験の差を感じたんです。どっちがいいとか悪いではないんですけど、地方にいたから機会が少なかったんじゃないかと思うこともあったし、一方で地方だからこそあった人とのつながりが、かけがえのないものだったんじゃないかと思うようになって…

当時自分はそれが嫌で出てしまったけれど、もっと地域愛を持って、自分の育った地域に誇りを持って過ごしていたら、どんな選択をしていたんだろう?と考えた時期がありました。

元々教育には関心があったので、大学で教育系NPOでインターンもしました。でも既存の日本の教育を変えられるか?というと、いち大学生にできることはないように思えて。その時は国や行政がやる仕事だとも思っていたんですけど、NPOが草の根的に活動していく中で、ボトムアップで政策に反映していくやり方があるんだということも知って。いつかこういう道で働いてみたいと感じていました。

一方でNPOで活躍している人たちって、皆さん何かしらの武器を持っているなぁと感じていたので、1回民間に出て、社会人経験5年を経て、縁あってカタリバに転職して福島でコーディネーターをやることになり、今ここにいます。

ここから普段私が働いている福島の中高一貫の公立学校、ふたば未来学園でどういう仕事をしているか話せればと思います。雲南の活動と似通った部分はたくさんあるんですが、大きな違いは、雲南の場合はパートナーは行政で学校にも関わっていますが、私たちは学校自体がパートナーになっています。なので基本的には学校をフィールドに、学校で生徒たちがこれから不確実性の高い社会に出ていくにあたって、どう地域に教育に関わってもらい一緒にやっていけるか、という発想で活動しています。

ふたば未来学園ができたきっかけは東日本大震災です。直後に起きた福島第一原発の事故で多くの人がふるさとを失い、双葉郡も人が住めない状況になり、今も住めない場所が残っています。

双葉郡には5つの高校があったんですが、震災によってその場所で学ぶことはできなくなってしまい、サテライト校を近くのまちなどに設けましたが休校することになりました。その5校の意思を受け継いで新たに開校されたのがふたば未来学園です。

最初は高校だけが開校し、この春に中学も開校して、いよいよ中高一貫校として始動したところです。

後編につづく(後編はこちら

*現在カタリバで募集中のコーディネーターの仕事
 中途/雲南市高校魅力化プロジェクトの募集要項はこちら
 中途/ふたば未来学園高校支援の募集要項はこちら

Writer

青柳 望美 パートナー

1983年生まれ。群馬県前橋市出身。大学時代は英語ができないバックパッカー。人材系企業数社で営業・営業企画・Webマーケティング・Webデザインを担当。非営利セクターで働いてみたいと考え2014年4月にカタリバに転職。全国高校生マイプロジェクトの全国展開・雲南市プロジェクト・アダチベースなどの立上げを担当。現在は新規プロジェクトの企画や団体のブランディングなどを担当。カタリバmagazine初代編集長、現在はパートナー。

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