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KATARIBA マガジン

EventReport後編/「学校発信で地域をよりよく変えていく」子どもの挑戦が大人を動かす未来を目指す

vol.069Report

カタリバの活動現場の最前線について、実際に働くスタッフからやりがいや具体的なチャレンジについてお伝えするイベント企画「シゴト場」。

第1回は、「地方が抱える課題に教育から挑む、教育コーディネーターという仕事」。ビジネスセクターからカタリバに転職し地方の教育現場でコーディネーターとして活躍している、鈴木隆太(雲南市高校魅力化プロジェクト担当)と本田詩織(ふたば未来学園担当)が登場しました。

注目を浴びつつある「教育コーディネーター」という仕事。そのリアルな現場感とは…?

前編はこちら

教員もコーディネーターも、
実践しながら模索を続ける新しい学び

本田:ふたば未来学園の生徒たちは、初年度は8割くらいが双葉郡にルーツのある生徒でした。原子力災害によって引っ越しを繰り返して町をいくつも転々とする中で、学力が追いつかなくなっていたり、いじめにあってしまったり…生活の急変でなんらかのハンディを背負った子たちが多くいました。

学校としては、原子力災害という今までない災害に見舞われた生徒たちはとても困難な課題に直面してるけれども、それをポジティブに変換すれば、課題先進地であるここで育ち、課題解決のスキルを学べた生徒たちは、これからの社会にきっと適応していけるはずだと。そういうポジティブな変換を行って、学校は「自らを変革し、地域を変革し、社会を変革していく『変革者』を育成する」という目標をたてています。

一方で先ほど話したように、色々なハンディを背負った子たちも多くいて、開校してすぐの学校だったうえに新しいことにどんどん取り組む中で、課題もたくさんありました。

例えば、点々と引っ越しをしてきた経験や震災のトラウマから、自己肯定感が低く自信のない生徒が多かったり。総合学科なので3つのコースに分かれていて、大学受験を目指したいわゆる進学校のようなコースと、商業とか農業とか工業とか専門性を学ぶコースと、スポーツをやる子たちのコースの3つに分かれていて、その子たちが1クラスに集まっていたので、学力なども本当に様々で。生徒が多様な分、先生たちは日々の教科学習を教えることも大変で、新しい教育をやりましょうといっても現実的には困難でした。

それで公立高校単独で頑張るのではなく、外部の力も使おうということで、声がかかったのがカタリバでした。2017年からカタリバが高校の中に入って、パートナーとしてやってきています。

ふたば未来学園高校支援担当 本田詩織 山口県出身。学生時代より、地域の魅力や課題を教育に繋げる取り組みに関心を持つ。株式会社ベネッセコーポレーション、株式会社リクルートコミュニケーションズ勤務後、2018年にNPOカタリバへ転職。福島県立ふたば未来学園高等学校併設の「双葉みらいラボ」にて、みらいラボの企画・運営や、同高校の探究型学習コーディネーターに従事している。

本田:私たちがやっている仕事は、1つは未来創造探究という探究的な学びの、授業設計の支援と協働です。もう1つが学校の中に放課後の居場所をつくっていて、イメージとしては児童館の中高生版のような感じです。居場所でもあるけど、勉強の遅れを取り戻すために頑張る子たちの学習支援もしていたり。大学生など若いスタッフが入っているので、先生や親といったタテの関係とは違ったナナメの関係を活かした対話を日々行っています。そういった対話の中から生徒の本音を引き出して、生徒自身のやりたいことを言葉として紡ぎ出し、行動に移していくことを支援したりしています。

未来創造探究という授業では、ふたば未来学園では3年間かけて総合的な学習の時間を使って学んでいます。1年ではまず地域のことを知ることから始めて、2年からは自分が取り組みたいこと、自分が課題だと感じるものに合わせて6つのゼミに分かれて、2年間を通して活動し、最後に論文にまとめていきます。

・・・と聞くと、なんだかすごい大学みたいな学びをしているんじゃないか?と質問や感想をもらうこともあるんですけど。従来の教科指導は先生が前に立って知識をインプットしていましたが、この授業は生徒に自分で行動することを促す時間なので、授業のつくり方も生徒との関わり方も違うということで、本当に先生方も模索していて。そこに私たちも入って、どうすればよりよい生徒の学びを生み出していけるのか?を一緒に模索しています。なので今正解があるのではなく、実践しながら最善のプロセスを探しているという感じです。

決まった形がないので、生徒たちの状況や躓いているところを見つけては、次の授業をどう設計すれば生徒が先のステップに進んでいけるのか考え、毎回の授業をつくっています。

とはいえどこに向かっていくか全く分からなければ授業を組み立てることができないので、校務分掌の中で未来創造探究を担当する先生方がいて、年間カリキュラムをつくったり、教材作成や人材のコーディネートをしたりしています。私はその「企画研究開発部」という部署に一緒に所属させてもらいながら、先生たちと一緒に探究の時間を磨いていっています。

机上の空論では決してつかめない、
アクションして初めて分かる学び

本田:実際に生徒たちがどんなプロジェクトに取り組んでいるのか、1つ事例を持ってきました。

今高校2年生の彼女は、将来管理栄養士になりたいと思っているんですね。それで地域でお買い物をしていたら、お年寄りがお惣菜ばかり買っていることに気付くんです。これじゃあ栄養が偏ってしまうし、自分でつくったり動いたりしなくなってしまうと、外に出なくなってしまうのではないかと、彼女はそう感じました。

なので若い人と高齢者の方々が、一緒に野菜をつくる機会があれば、外に出るきっかけにもなるし、畑のちょっとした作業が運動になり健康にも繋がるし、畑の知識を若者に教えることが生きがいにもなるじゃないか?さらにつくった野菜で料理をするようにもなって、栄養バランスのとれた食事をとることにも繋がるのでは?と考えたんです。

本田:で、彼女は高齢者の方々と一緒に野菜をつくるイベントを実行しました。このイベント、何人くらい集まったと思うか、ちょっと予想してみてもらってもいいですか?

参加者:30人とか…?

本田:30人ですね…結果は、0人だったんです。

(会場驚き)

本田:正確には、彼女たちが広報をして集まったのは0人で、畑を貸してくれた地域の人が声をかけてくれて、数名の方々は集まってくれました。彼女たちは近くの家にポスティングしたりして、人を呼ぼうとして頑張ったんですが、その結果は0人でした。あとから地域の人に何がだめだったのか聞いたところ、やっぱり地域というのは顔と顔が見えるコミュニケーションで成り立っていると。だから知らない人からのポスティングだけではあんまり行かないんだよ、というのを教えてもらったんです。

この事例で言いたかったのは、生徒が見えている、「こうすればゴールに辿り着く」という公式やイメージ、例えば5分自転車をこげばゴールに行けると思っていたものが、実際には自転車では行けないような谷や山があって、実は5時間かかるルートなんだとか。やっぱりやってみないと見えないこと、やってみたからこそ分かる次の攻略方法みたいなものがあるんですよね。

これって社会で働くこととか、社会で何らかの問題に取り組んでいくことに近い、本当のリアルな経験だと思うんです。理想通りにいかないという体験含めて、実体験として自分の学びに変えていくということを、授業をつくっていく私たちも先生たちもやりながら学んでいる状況です。

放課後の居場所は、先ほど話したような居場所や学習支援ということに加え、未来創造探究でやっていることを、生徒が放課後の時間を使って取り組む場としても機能しています。未来創造探究でやっている内容は、授業だけで完結することばかりではないので。放課後に実践することもたくさんあるので、カタリバのスタッフや先生が、生徒たちをサポートをしています。

そんな感じで学校をパートナーとしてコーディネーターの仕事をしています。

自分たちでプロセスを生み出していくとか、やりながら模索していくというのはしんどい一方で、新しい教育の形を現場でつくっているという感覚と、自分で仕事をつくりだしている感覚があります。それは企業にいた時とは違うなと思っていて、やりがいを感じながらやっているところです。

最後になるんですが、すべての生徒が先ほどの事例の彼女にように、こうしたら地域がよくなるんじゃないか?という観点で課題に取り組んでいくようになれば、きっと、地域の大人もそれに感化されて、自分の身近なところから自分が感じている課題をいい方向に持っていこうと動き出すんじゃないかと思っていて。

学校発信で地域をよりよく変えていく、という次の挑戦に進んでいきたいと思っています。

立場や価値観が違っても、
たくさんの失敗を繰り返しながら
信頼関係を濃く強く積み上げていく

鈴木隆太(以下、鈴木):それではまた質問や感想があれば聞いていきたいと思うのですが、オンライン参加の皆さんどうでしょうか?

島根県雲南市高校魅力化プロジェクト担当 鈴木隆太 東京都出身。大学時代にNPOカタリバにてインターンとして、キャリア学習プログラムや「コラボ・スクール女川向学館」の立ち上げに関わる。株式会社LIFULLにて勤務後、2015年NPOカタリバへ転職、雲南拠点の立ち上げに従事。2017年より雲南市の「教育魅力化コーディネーター」として「雲南市教育魅力化」を推進中。

オンライン参加者:同様のプロジェクト展開は他にもあるんですか?

鈴木:カタリバではこの春から岩手県大槌高校でも始まったので、3ヶ所でコーディネーターの取り組みをしています。

オンライン参加者:この仕事をしている人は全国で何人くらいいるんですか?

鈴木:カタリバ以外のコーディネーターの方を全て合わせると、全国で100人以上いますね。

オンライン参加者:高校生と中学生の交流はあるんでしょうか?

本田:ふたば未来学園では、先ほど話した放課後の居場所では高校生と中学生が自然と同じ場所には集まってきます。ただまだ中学生は入学して3ヶ月。中学生も高校生もお互いに遠慮しあっているところがあって。

初めのころは中学生は図書館にいて、みらいラボ(放課後の居場所の名称)には高校生しかいないという状況だったんです…今は空間を共有するようになったので、交流はこれからかなと思っています。

鈴木:雲南では社会教育の中では中高生が交流する機会は意図的につくっていますが、数はまだまだ少ないですね。中高連携って言われてるけど、結構難しいというのが現場感です。

オンライン参加者:高校教員です。ふたばの話を聞いて、総合の時間をカタリバがデザインされているのが、とてもうらやましいです。担任一人で総合の時間を有益なものにすることは大変な苦労がかかります。

本田:そうですよね…でも最近は増えてきてますよね、探究授業をつくっていこうとされている先生方が。相談をうける機会も増えてきています。

ただ仰っていただいたように、自分たちも自覚的にならないといけないのが、やっぱりリソースをリッチに投入している環境であるということです。私たちカタリバも、大学生含めると9名が常駐しています。ここでやっていることを言語化というか、パッケージというかにして、他の学校の多忙な先生方が限られた時間でも授業を設計できるようにするための、何かを開発していかなければとは思っています。

鈴木:全国どこでもできるものになっているかというとまだまだですね、政策にもなっていないし、予算がつけられるかどうかでも全く変わってしまうので…

今オンラインの方々からの質問を受けていたんですが、会場のみなさんからはいかがでしょうか?

参加者:話を聞いていて1つ思ったのが、学校現場の人たちと行政の人たちとカタリバの人たちだったり民間の人たちだったりが、一緒に何かやるのがすごく難しいんじゃないかなというのがあって。というのも、教育現場からみた人たちの観点と民間の人たちの観点って結構違うじゃないですか。

それを1年間のカリキュラムに携わって、話し合ってサポートしていくって話を聞いて。絶対にそこで、考え方の違いだったりとか、「いやいやいや」みたいなことってあるんじゃないかと思ったんですけど、そういうことってなかったんですか?

鈴木:過去じゃないですね、今、ありますね。

(会場笑い)

鈴木:今あるってことが、もう本当にほんとうの正直なところで。全然違う立場やバックグランドを持っているので、全員同じベクトルで同じ方向に向いていこうとするのは非常に難しくて、企画力とか調整力とかはすごく問われるなと日々思っていることです。

でもその努力は絶対にやらなきゃいけない。それを大変だからと目を背けたり、面倒臭がったりしてはいけないと思っています。同じ方向を向くための場をつくって、こっちに向かっているよねとゴールや現在地を確認して、お互いにすり合わせて走っていくことが何よりも大事です。僕たちはそのために日々奔走して、日々悩んでいるというのがリアルな現場感です。

本田:先生たちからすると、私たちが入ってきたことでなにか新しいことを始めて面倒なことを起こすんじゃないか?仕事を増やすんじゃないか?とやっぱり感じられる部分があると思うんです。過去にそういう、よかれと思って外から人が入ったことで色々あったとか、そういう経験から思う先生もいると思いますし。

私たちは2017年からふたば未来での常駐を始めたんですが、その半年前から、カタリバ職員が通いながら、ちょっとずつ関係構築をしていく期間がありました。年々、先生との距離は縮まっているなと感じます。やっぱり時間とともに関係が濃くなっていくというか、お互いが理解できていくというか。

私たちも先生のことをすごくよく分かって入ったわけではなかったので、先生たちがやってほしくないことは何なのか。例えば授業中に私たちがよかれと思って生徒に声をかけたことが、先生にとっては授業を壊すことになってしまうからやめてほしいことだった、とあとからフィードバックをもらったり。

たくさんの失敗をしながら、何がお互いにとっていいパートナーシップなのかを、少しづつ解像度をあげて付き合っていくということを繰り返してるかなと思います。

*現在カタリバで募集中のコーディネーターの仕事
 中途/雲南市高校魅力化プロジェクトの募集要項はこちら
 中途/ふたば未来学園高校支援の募集要項はこちら

Writer

青柳 望美 パートナー

1983年生まれ。群馬県前橋市出身。大学時代は英語ができないバックパッカー。人材系企業数社で営業・営業企画・Webマーケティング・Webデザインを担当。非営利セクターで働いてみたいと考え2014年4月にカタリバに転職。全国高校生マイプロジェクトの全国展開・雲南市プロジェクト・アダチベースなどの立上げを担当。現在は新規プロジェクトの企画や団体のブランディングなどを担当。カタリバmagazine初代編集長、現在はパートナー。

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