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「なによりも、生徒と“一緒に”校則をつくっていくというプロセスに価値がある」先生たちに聞きました〜みんなのルールメイキング活動レポートvol.4〜

vol.196Report

date

category #活動レポート

writer 編集部

NPOカタリバでは、生徒が主体となって先生や保護者と話し合いを重ねながら校則やルールの見直しをする「ルールメイカー育成プロジェクト」を2019年よりスタートさせました。

また、カタリバスタッフも常駐する岩手県立大槌高等学校でも、昨年度より生徒が中心となって校則改訂を考えるルールメイキングプロジェクトに取り組んでいます。

今回は、校内で中心となって1年間プロジェクトを進められた、生徒指導課長の熊谷先生と前生徒会顧問の木村先生より、大槌高校のルールメイキングプロジェクトについて伺いました。

生徒に校則を守らせる一方通行の指導ではなく、
生徒と“一緒に”校則をつくっていく

ーーどのような経緯があってルールメイキングプロジェクトを始めることになりましたか。

熊谷:東日本大震災の影響で、大槌町の人口が減り続けている中、大槌高校の生徒数も減少してきています。そのような経緯があり「大槌高校魅力化プロジェクト」が始まりました。2019年4月より大槌町から派遣されたカタリバのみなさんが学校に常駐して、町内唯一の県立高校である大槌高校を再生させるための取り組みを行っています。

探究科目の制定やホームページのリニューアルなどが行われる中、プロジェクトの一つとして、これまでの校則を検討していくことになりました。

ーーこれまで大槌高校ではどのような生徒指導がなされてきたのでしょうか。

熊谷:これまで大槌高校では、服装や髪型について厳しい指導が行われてきました。その背景には、平成の初期頃まで校則を違反する生徒が大槌高校に多かったということがあります。そのような流れがあり、校則を徹底した指導がなされてきました。

その指導により、校則違反をする生徒はほとんど見当たらなくなりましたが、学校という組織として、これまでの流れを新しいものに変えることには難しさがありました。私だけではなく、どの教員も「もっと違う指導が良いのではないか」と考えていたと思うんです。でも、これまで取り組んできたことを大きく変えることは簡単なことではありません。

そんな中「大槌高校魅力化プロジェクト」が始まり、生徒指導の仕方や校則も見直さなくてはいけないのではないかという声が出てきました。それで校則を変えられる雰囲気になってきた経緯があると思います。

これまでは教員側の一方通行的な指導になっていたように感じます。既存の校則を教員側が守らせ、生徒は校則を守るべきだというものです。しかし、大槌高校の改革を推進していくうえで、生徒と一緒に校則を見直し、生徒自身がつくった校則を自分たちで守った方が良いのではないかということが決まりました。

これまで生徒は指導に従ってはいましたが、すべての校則に納得していたわけではなく「校則だから仕方ない」という気持ちでいたと思うんですね。でも、生徒の校則への納得感はあった方が絶対に良いに決まっています。

教員も、校則に納得して指導をしたい思いがある

ーールールメイキングプロジェクトが始まる前は、校則についてどのような印象を持っていましたか。

熊谷:我々教員自身も、校則を見直すことによって、納得感のある指導がしたいという思いがありました。校則の背景にちゃんとした理由がなく、校則として決まっているからという理由だけで生徒に校則を守らせるというのは、良い指導にはならない。そう感じている先生たちは多かったんじゃないかなと。

例えば、髪に関する校則でいうと「眉毛に髪がかかってはいけない」「ツーブロックは禁止」などといったものがあり、これまで厳しく指導を行ってきました。しかし、実社会に照らし合わせてみたときに、この程度は良いのではないかという思いもありました。

木村:大槌高校に赴任したとき、生徒指導の在り方に衝撃を受けました。前に赴任していた学校では大槌高校が行っているような指導は行っていなかったからです。「こんなに厳しく点検をしているんだ」と驚きました。ただ教員経験が浅いため、何が正しいかを考えたときに、ルールに従えば安心だという気持ちもありました。

実際に過去には大槌高校が荒れていた時期もあり、先生たちの指導によって生徒の身だしなみが良くなってきたという事実もあります。そのような成功体験があるからこそ、今まで従来の指導が続いていたんだろうなと思います。

ただ、「生徒をよくするための指導ではなく、指導のための指導になっているのではないか」「手段が目的になってしまっているのではないか」という違和感もあり、いろんな感情を持ちながら指導していました。

どうして大人の髪型を高校生はしたらダメ?
生徒の“違和感”が校則改定を後押しした

ーールールメイキングの中心となった生徒はどのような思いを持たれていたのでしょうか。

木村:現在3年生の生徒会長が1年生だった頃、校則を変えていきたいと話していたんです。これまでの指導を受けて、「周りの大人はツーブロックの人もいるのに、どうして高校生はダメなのだろう」と疑問に感じたそうです。それで、「ツーブロックを許可してほしい」という相談を教員にしていたんです。

また、髪を整えるためにその都度美容院に行くことにお金がかかるという話もしていました。校則が「眉毛に髪がかかってはいけない」というものだったので、頻繁に美容院に行かなければならず大変だと話していました。

ーー具体的にどのような流れでプロジェクトを進めていかれましたか。

木村:昨年度から本格的に校則を見直していきました。まずは生徒会で校則を決めるに当たり、その拠り所となる理念を制定することになりました。法律でいうところの憲法に該当するものをつくることになったんです。

理想の学校はどういう場なのかを生徒会で考え「大槌高校生徒宣言」の原案を作成し、それが生徒総会で採択されました。その後、生徒会のメンバーと有志の生徒たちが集まって「校則検討委員会」を立ち上げました。このような流れで、校則の議論が始まりました。

生徒と教員だけでなく、
保護者や地域の企業とも一緒に見直す

ーールールメイキングのプロセスに、保護者や地域の方々も関わったそうですね。

木村:3社の企業に生徒がヒアリングを行いました。人事担当の方々に「ツーブロックについてどう思いますか」といった髪型の印象などの質問をしました。また、全校生徒にアンケートも実施し、ツーブロックなどの写真を実際に載せて生徒の印象を聞きました。保護者や学校評議員の方々にもアンケートを行いました。

企業3社ともツーブロックについての印象が悪いという意見はありませんでした。その意見も受けて、最終的にツーブロックが校則で認められることになりました。また「眉毛に髪がかかってはいけない」という部分がなくなり、髪型は「高校生として清潔感や節度のあるもの」という表記に変わりました。

ーープロジェクトを進める中で、どのようなところに難しさを感じましたか。

熊谷:一つ目は、時間をつくることへの難しさです。教員は多忙化していて、多くの業務があります。その中で、新しいプロジェクトを行う時間を確保するのは大変でした。校則検討委員会の活動のために、放課後時間をつくって生徒と話し合いをしたり、その前に教員と打ち合わせをしたりと、プロジェクトを進めるうえで多くの時間が必要でした。

二つ目は、生徒と話し合いを進めていくときの方向性の難しさです。授業はどのような方向に持っていきたいかを教員があらかじめ決めることができます。しかし、ルールメイキングプロジェクトは生徒と意見が異なる場合もあり、どの方向に話が進んでいくかわからないわけです。教員が思ったような方向に話が進むとは限らないところに難しさがあったと思います。

木村:他の業務を行う中で、新たに時間をつくるということに私も難しさを感じました。また、髪型の校則一つを考えても、どこまでを校則として認めるかは手探りな部分がありました。ヒアリングを行った企業では「悪い印象がない」という話が出ていても、全部の企業が同じ意見とは限らないという思いが出てきたり…。「どこまでを良しとするか」の線引きを決めることに難しさを感じました。

一緒に校則をつくっていく中で、
生徒が自分で考える学校へ

ーー生徒との関わりで、印象に残っているエピソードはありますか。

熊谷:ある生徒が言った言葉が印象的でした。大槌高校では、いつ面接に行っても大丈夫な服装と髪型をするように指導をしていました。でも、ある生徒が「自分たちはそんな馬鹿じゃない。面接に行くときは自分でちゃんと服装と髪型を考えられる」と言ったんです。

その通りだと思いました。生徒はきちんとできるという前提のもとに指導をしないといけないのではないか、生徒をもっと信頼しても良いのではないかと思いました。とても印象的な言葉でしたね。

木村:カタリバのみなさんに手伝ってもらいながら一緒に企業に行ってもらったりしていたのですが、ヒアリング内容をまとめてプレゼンするところまで生徒が全部やっていたんです。いろんな人の意見を聞いて発表するところまで生徒自身の力で行っていたことが印象的でした。

ーー最後に一言メッセージをお願いします。

熊谷:昨年度から校則検討を行い、今年も新たな校則検討委員会を立ち上げ、プロジェクトを続けていくことになりました。生徒と一緒に校則を検討していったとき、学校がどんなふうに変わっていくかを見てみたいですし、学校が良くなっていくのではないかという期待感があります。なによりも、生徒と“一緒に”校則をつくっていくというプロセスに価値があるのではないかと考えてます。

木村:このプロジェクトを通して、生徒が自分自身で考えて行動する機会が多くなるのは、すごくいいことかなと思います。校則をつくっていく過程の中で、「これはさすがに違うかな」「これはセーフだよね」と生徒も私たちも考えていきます。与えられたルールに従うばかりでなく、生徒が自分で考える学校になっていくのではないかと思っています。

ーー熊谷先生、木村先生、ありがとうございました。



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編集部 編集部

KATARIBAMagazine編集部が担当した記事です。

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