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学校の当たり前を問い直す挑戦。全国30校以上が取り組む「みんなのルールメイキングプロジェクト」のいま

vol.229Report

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category #活動レポート

writer 編集部

2017年に生まれつき茶色い頭髪を黒髪に染めることを強要されたとして、元生徒が訴訟を起こした事件をきっかけに「ブラック校則」という言葉が広がり、今年6月には文部科学省から全国の教育委員会へ向けて、積極的に校則を見直すよう促す文書が示されました。メディアからの報道も増え、日本全国で「校則見直し」への関心が高まっています。

カタリバでは、2019年から生徒主体で対話を用いた校則見直し「みんなのルールメイキングプロジェクト」を行っています。

経済産業省「未来の教室」実証事業としても採択されている本プロジェクトは、生徒が主体となり、先生・保護者など関係者との対話を重ね、納得解を作ることを通して、課題発見・合意形成・意思決定をする力を高めていくことを目指しています。2019年度に2校から始まったこの取り組みですが、今年度は全国の学校や自治体に広がりを見せ、30校以上で校則見直しの取り組みが行われています。

去る2021年11月20日(土)には、校則見直しに取り組む全国の中高生や教師・サポーターらが「私たちのルールメイキング」を語るオンラインイベントを開催。

「学校の”当たり前”を問い直す 生徒と先生の挑戦~『この校則はなぜ必要?』身近な”ギモン”を学びに変える対話的ルールメイキングの現在地とこれから~」と題し、プロジェクトに関わる登壇者や生徒が登壇。346人もの方々が視聴する大きなイベントとなりました。

前半は生徒による実践報告などのトークセッション、後半はルールメイキングにおいて大切にしたいポイントをまとめた指針「みんなのルールメイキング宣言」の発表が行われました。今回は当日の様子をご紹介します。

オープニングトーク「なぜ今、ルールメイキングなのか?」

冒頭、「なぜ今、ルールメイキングなのか?」をテーマにしたオープニングトークが行われました。司会の若新雄純さんをはじめ、哲学者・教育学者の苫野一徳さん(熊本大学教育学部准教授)、経済産業省の浅野大介さん、ワークショップデザイナーの古瀬正也さん、カタリバ代表理の今村が登壇しました。

「ルールメイキングって何だろう?10代の若者たちにとってどんな学びの意味があるのだろう?」ということを軸に始まったトーク。

イベント後半で発表される「ルールメイキング宣言」の1ページを引き合いに出した、「僕はこのページにある、!(エクスクラメーションマーク)や?(クエスチョンマーク)が、人生で上から数えて何番目くらいかに好きなマーク。なぜなら疑問を持つ前に、その入り口となる『何コレ』『どうして』といった『!』があるからこそ、『?』である疑問が深まると思う」という、若新さんの投げかけからスタートしました。

それに対して哲学者・教育学者である苫野さんは、「明治以降の近代教育では、知識を注入するということが基本とされていた。一方で、!や?はルールメイキングの醍醐味。『なぜこんなルールがあるのかという疑問から考えていく』という意味ではルールメイキングは最高のプロジェクトで、まさに探究活動だと思う」とコメント。

また経済産業省の浅野さんはこう語ります。
私たちの周りは多くのことが契約で成り立っていて、その中で自分が生きやすい環境を作る必要があります。自分が生きやすい環境を誰かが作ってくれると思いがちですが、そんなことはありません。こういったことに子どもの頃から慣れるために、校則というのは最高の題材だと感じています」(浅野さん)

今村からは、「学校の先生をはじめ大人が、『子どもからの問いかけに対して正解を言わなきゃいけない』と思っているからこそ、子どもたちはその雰囲気を感じ取って『正解を出さないと』と考えるシステムになっているのではないか」という別の視点も。

ほかにも話はどんどん盛り上がり、時間はどんどん押し気味に……。予定時間たっぷり、登壇者の皆様たちによる熱いトークが繰り広げられました。

ルールメイキングに挑戦する生徒たちによる実践報告。
ゲストが注目した、校則見直しのプロセスとは

オープニングトークを受けて行われたのは、ルールメイキングに取り組む生徒たちによる実践報告。「みんなのルールメイキングプロジェクト」に取り組む全国約30校から代表して、大垣市立東中学校の小寺さん、千葉県立姉崎高等学校の田畑さんが登壇。また、ルールメイキング宣言の内容を検討する「みんなのルールメイキング委員会」の中高生メンバーの一人である藤田さん(千葉県の公立高校に在籍)も発表しました。

大垣市立東中学校では、靴下の色や長さの自由化、帽子の着用、女子の髪型(結ぶ位置に関する規定)といった校則に対する取り組みについて。千葉県立姉崎高等学校では女子のスカート丈の長さの規定と、男女の髪型の規定について。そして、藤田さんは「男子のむさ苦しい長髪は禁止」という男子生徒の身だしなみに関する校則の見直しと、複雑な校則改正の制度に対して、“ルールを変えるためのルールの在り方”について模索しているという発表が行われました。

大垣市立東中学校の小寺さんの発表資料

実践報告のあとは、登壇した生徒とゲスト、実践校の先生を交えたクロストークへ。

大垣市立東中学校の発表では、靴下の色を指定する校則の見直しにおいて「本格的な校則改訂の前に“試験的な実施”を行い、そのうえで校則改訂の是非を問う議決を行った」というプロセスが報告されましたが、これについて若新さんは「大人世代に特に注目してほしいと感じたポイントの一つだ」と指摘。

発表した小寺さんに対して、「なぜ結論を出す前に試験的にやろうと思ったのですか」(若新さん)という質問が投げかけられました。

これに対して小寺さんは、「生徒みんなが安心安全に生活していくために、本当に必要な校則なのか試してみたいという思いがあったから」と答えます。さらに、「生徒それぞれが自分で判断して靴下を決めてる様子も見られ、試験的にやって良かった」と振り返っていました。

生徒が示した「対話すること」の可能性

千葉県立姉崎高等学校の田畑さんは「先生とは、対立ではなく対話して一緒にプロジェクトをやっていきたい」という思いからったからこそ、「校則についての本音を聞くために、先生方との対話型ミーティングを開催した」と話してくれました。

千葉県立姉崎高等学校のルールメイキングで取り組んだことを説明する田畑さん

これに対して苫野さんは「試しに話してみることの大事さを、今日の発表から感じさせてもらった」と振り返ります。「人々の偏見や相互嫌悪が深まる最大の原因は、コミュニケーションがないこと、それに尽きると言われています。解決策はたったひとつ。対話と交流なんです」と話し、今回コミュニケーションを深めてプロジェクトを進める3人の発表に対して、「良い例」だとコメント。

また、千葉県の公立高校に通う藤田さんのプレゼンに対して、若新さんは「彼が話してくれたのは『変えるコスト』の話だった」と話したうえで「校則改訂がたとえコストがかかることだとしても、自分の中でやる意味をみつけたところが面白い」と評価。

教員からの言葉を通して、「校則改訂はとてもコストが高い」という壁にぶつかったと語る藤田さん

藤田さんからは「僕は将来、出る杭同士で尊重し合える、パワーを活かせる社会を作りたいと思っています。学校は社会の縮図なので、まず学校の中で目指す社会をつくることに挑戦してみようと考えたんです」と、たとえ校則改訂がコストがかかることでも、それに取り組むことに対する自分の中で見つけた価値を話していました。

このエピソードを聞き、実践校の一つ駒場学園高等学校の星野先生からは、「これまでは授業をする側が『これを学ぶよ』と提示していました。でも、『あなたは、この学校での3年間で何を学びたい?』みたいな、個々の目標や学びたいことに寄り添える存在であった方が、お互い楽しくなりそうですよね」とのコメントもありました。

「ルールは自由を守り合うためにあるもの」
校則見直しの指針「ルールメイキング宣言」の発表も

クロストーク後は、「ルールメイキング宣言」の発表と説明も行われました。「ルールメイキング宣言」とは、ルールメイキングに関わるすべての人が立ち帰れるような”指針”をまとめた宣言です。校則見直しに携わる生徒や先生、一般公募で集まった中高生有志メンバー、さまざまな専門分野の有識者らとともに約半年にわたり検討をつづけ、宣言文を完成させました。

この宣言を監修した苫野さんは、宣言の前文の紹介に加え、前文に対する思いとしてこう語ります。

「ルールには、“自分たちの自由を奪うもの”、“上から押し付けられるもの”というイメージがついていますが、実は逆。ルールの本質は、私達がより自由になるために、お互いの自由を守り合うためにあるのです。

そしてそれは上から与えられるものではなく、自ら作り合っていくもの。これがは民主主義の大原則です。そういったルールの本質に沿ったルールメイキングをやっていきたいという思いが、前文に込められています」(苫野さん)

「ルールメイキング宣言」の全文と3つの原則を解説する苫野さん

また、校則・ルールの規定や見直しを進める上で前提にしたい原則として挙げられたのが、こちらの3点でした。

「一人ひとりの尊厳を大切に」
「『そもそも何のための学校か』を最上位に」
「学校はその校則を公開し、その制定・改廃への生徒の参画を保障する」

憲法や教育基本法、児童の権利に関する条約。これらに整合しないルールというものをつくるということは、あってはならないこと。だからこそ、大前提としてみんなで共有しておきましょう、という思いを込めて3つの原則を提示しました」(苫野さん)

「ルールメイキング宣言」の全文は「みんなのルールメイキングプロジェクト ホームページ」から、ぜひご覧ください。


 

2時間という長時間にわたり開催された今回のイベントでは、多くの意見が交わされました。現在ルールメイキングに取り組んでいる人にとっても、これから取り組みたい人にとっても、新しいきっかけに繋がったのではないかと期待しています。

現在「みんなのルールメイキングプロジェクト」は、対話的な校則見直しに取り組みたい学校からのパートナーを募集しています。

プロジェクトでは引き続き、校則・ルールの対話的な見直しを通じて、みんなが主体的に関われる学校をつくっていく取り組みを進めていきます。

ーTEXT:ミノシマ タカコ

Writer

編集部 編集部

KATARIBAMagazine編集部が担当した記事です。

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