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KATARIBA マガジン

運頼みの探究学習から脱却! 共通の興味関心を持つ高校生と大人をつなぐ、カタリバオンラインの新たな試みとは?

vol.242Report

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category #活動レポート

writer 編集部

2022年から高校で本格的に始まる、「総合的な探究の時間」。この時間では「生徒一人一人の興味関心に応じた、個別最適な学び」が重視されています。すでに段階的に探究学習に取り組むなかで、生徒はもちろん学びの場を提供する先生方も「自ら問いを立て、学び、自分なりの考えを深めていく」力が伸びていると実感しているのではないでしょうか?

一方で探究学習は、高校生一人ひとりのテーマに合った環境や人材を十分に揃えられないといった理由で、最適な学びにつながらない課題も指摘されています。そのため、すべての生徒の学びのニーズに応えられていないジレンマを抱えている学校現場も多いようです。

そんな、生徒一人ひとりの興味関心からくる学びの手助けとなる試みが始まろうとしています。その名も、「ディスカバセッション」。対象生徒と同じ興味関心を持ち、それを地域や社会で生かしたり仕事にしたりしている大人とオンラインで対話することができ、自身の探究をさらに深めるきっかけをつくることができるカタリバのひとつのプロジェクトです。

このプロジェクトに挑むのは、すべての中高生に探究学習の面白さを実感してもらえるオンラインの学び場を作り続けている「カタリバオンライン for Teens(以下、Teens)」。多様なプログラムを実施するにあたって築いてきたTeensの「興味関心を社会に生かす大人」との繋がりをつくるノウハウを、さらにたくさんの高校生の探究学習のために広げられないかと、新たな取り組みとしてはじめることにしました。

今回はこの試みに取り組んだ大槌高校(岩手県)の高校生2人と、探究学習のコーディネートを担当するカタリバの三浦、そして高校生の探究活動に伴走する羽生、高木に、ディスカバセッションを取り入れた背景と生徒に起きた変化、さらに教育現場で活用できるかどうか、率直な意見を聞きました。

「学校や地域では出会える人に限りがある」
個別の探究に応えたくても叶わない現状

三浦:「大槌高校ではこれまで、地域の方々と接点をつくりながら、高校生たちの探究活動をサポートしてきました。今年も49人の高校生が、大槌町内やオンラインなど19カ所でフィールドワークを実施。地域の方々の協力を得ながら、一人ひとりの興味関心を土台としたテーマを設定し、探究を深めています。しかし大槌町は人口1万人の小さな町です。高校生一人ひとりの探究テーマに沿ったフィールドワークなどの学習機会を作りたくても、難しい現状があります」

大槌高校で探究学習のコーディネーターを務める三浦

こう語るのは大槌高校で、「総合的な探究の時間」のカリキュラム作りなど、高校生の探究活動のコーディネーターを担う三浦です。東日本大震災津波の影響で人口が減少し、統廃合の危機にあった大槌高校を誰もが入学したくなる魅力的な学校とするため、「魅力化推進員」として同校に常駐して約3年。生徒や先生はもちろん行政や地域住民と一体となって、新しいまちづくりのモデルに挑んできたこともあり、地域との連携基盤は整えられてきています。

しかし、高校生が感じた問いやテーマのヒントとなる取り組みをしている人が地域にいないことも珍しくありませんでした。そのため高校生一人ひとりの本当の興味関心にあった学習機会を作る難しさを感じていたそうです。

また、高校生の探究活動に伴走した羽生も、同様の課題を抱えていました。

国際×医療を探究テーマにした高校生に伴走した羽生。自分の力だけでのサポートの難しさを感じていたという

羽生:「私は、なぜ医療機関を受診しない人がいるのかという問いから『医療×国際』をテーマにした高校生Kさんを担当しました。このテーマにおいて重要なアクションがアンケートだったのですが、海外の人の医療事情を調査するとなると難易度がグッとあがります。幸い私が国際系の大学に通っていたこともあり、人脈をたどってある程度の大陸、国に住む方々の回答は得られました。しかしオセアニアエリアだけは十分な回答が得られず、高校生と一緒にどう進めていくべきか頭を悩ませていたんです」

高校生の力だけでは進めることが難しい探究活動も、教師をはじめとする大人の伴走者の人脈でサポートできることはあります。しかし高校生のそばにいる大人の人脈にも限りがあります。

専門性を持った人と高校生をつなげられるかどうかは、住んでいる場所、通っている学校、出会う大人によって左右される――。そんな「運頼み」という側面を持っているのが、「総合的な探究の時間」の現状だと言えそうです。

同じ興味関心を持つ大人との出会いが
「やりたいこと」の解像度を上げる

探究学習をさらに深めるために必要な「同じ興味関心を持つ人とのつながり」を、運に頼らずにすべての高校生と学校現場に届けたい――。ディスカバセッションはこの思いから、専門性を持った大人との出会いをオンラインを活用して届けようと始まったプロジェクトです。そして今回そのモニターに選ばれたのが、大槌高校でした。

大槌高校は「大槌町を舞台とした探究的なカリキュラム」を魅力化の柱の1つに掲げる学校です。「三陸みらい探究」という独自科目を設置し、カリキュラムを主導するコーディネーターだけでなく、学年の先生全員が生徒たちの探究学習に伴走します。さらに放課後も生徒の個別サポートをするため、同校に併設されている大槌臨学舎(カタリバ運営)のスタッフによる協力体制も整備。なかでも2年生はこの科目内で、マイプロジェクトに1年かけて取り組んでいます。

今回そのなかでディスカバセッションを活用してくれたのは、先述の羽生が担当した『医療×国際』をテーマにしたKさん。そして『大槌町の人にオシャレに興味を持ってもらうには?』という問いから、オリジナルネイルチップ製作に取り組むことになったYさんです。

アンケートが取れずに困っていたKさんにとってディスカバセッションは、オーストラリア在住の方に「現地の人の医療に対する価値観」を直接ヒアリングする機会になったそう。

国際×医療をテーマに探究学習を進めていたKさん。オーストラリアの情報をどうやって集めればいいか頭を悩ませていた

Kさん:「今回私はオーストラリア在住の方に、現地の医療精度や医療に関する価値観について聞けたらと思っていました。実際に話を伺う中で、講師の方の周りにいるオーストラリアの人々は、すぐに手術や薬に頼らない自然治療を尊重しているのだと教えてもらったんです。私は将来医療職を目指しているのですが、『自然治癒』という考え方をこの時はじめて知ることができました」

また大槌町の人々に気軽なオシャレを楽しむ方法を提案するべくネイルチップ製作に取り組もうとしていたYさんも、セッションについてこう振り返ります。

趣味のネイルチップでのオシャレを地域の人に楽しんでもらいたいと探究学習を進め始めたYさん

Yさん:「私は、ネイルチップのデザインとフリーマーケットに出す際の値付けの考え方について相談しました。自分ひとりで作るとどうしてもデザインに偏りが出てしまう課題に対して講師の方が教えてくれたのは、おすすめのデザインアイデアアプリ。セッションが終わったあとも、自分の中になかったデザインと出会うきっかけとなっています。また値付けも、材料費だけでなく自分の作業時間を含めた価格にすることが大切だと学びました」

さらにYさんは、セッション前後に起こった自身の変化についてこう語ってくれました。

Yさん:「実は、探究学習にあまり積極的になれなかったんです。しかしいざその時間になってみると、私から質問するだけでなく、講師の方から逆に質問してもらえたんです。その内容から取り組みたいことが見えてきたため、以前よりも自分から動けるようになったと思います」

このYさんの変化の様子は、伴走を担当していた高木の目にもとまっていました。

Yさんの探究学習に伴走した高木。セッション後のYさんの変化に驚いたそう

高木:「Yさんは、したいことは頭のなかにあるけれども口に出すのが苦手なタイプだと思います。探究学習のテーマ設定にも少し時間がかかりました。そのためディスカバセッションの話がきた時も、何を相談すればいいのかとピンときていないようでした。しかしセッションの後日、講師の方のアドバイスを受けて、フリーマーケット出店用のロゴを作ってきたんです」

高校生2人と伴走者の話を聞くと、自分のテーマについてとことん語り合える大人とのつながりは、探究を深める突破口となるだけでなく、自分のプロジェクトを進める上での大きなモチベーションとなったようです。

真の“MYの追求”につながる、
探究テーマ×大人とのマッチング

三浦:「学校現場や地域の人だけではサポートできない高校生の興味関心からくる学びは、間違いなくあります。またそもそもの話ですが、『自分が興味関心を持つテーマで探究活動を進めて』といっても、案外“やりたいこと”がない高校生も多いんです。そのためテーマを立てても、その理解度が低いことも少なくありません。だからこそ今回ディスカバセッションのような、全国各地にいる『共通の興味関心を持つ大人』とのつながりを持てる機会は、すべての高校生にとって『本当にやりたいこと』を追求するチャンスになりえると感じました」

今回この試みを実践したことで、さまざまな地域で共通の興味関心をいかして活躍している大人との出会いが、高校生一人ひとりの「マイの追求」につながる可能性を持っているのだと、改めて認識できたように思います。

今回ご協力いただいた講師の方々。講師や現場での伴走者のみなさんの協力を得ながら、サービスをよりよいものにしていきます

高校生自身の探究学習の深化だけでなく、サポートする教育現場の方々の負担も軽減できるようにと始まった、ディスカバセッション。高校生の興味関心を武器に地域や社会で活動されている方々の力をお借りしながら、この試みを「より多くの高校生が本当に取り組みたい探究テーマに挑戦できるサービス」に成長させるために取り組んでいきます。


■ディスカバセッションの活動に関心、興味ある学校、先生がおられましたら、下記までご連絡ください。
katariba-teens@katariba.net(担当:堀井、吉田、立野)

Writer

編集部 編集部

KATARIBAMagazine編集部が担当した記事です。

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