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島の高校と、ネットの高校。高校生をアクションへ導いた共通点とは[マイプロジェクトのドラマ#02]

vol.053Report

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category #活動レポート

writer 今村 亮

連載 マイプロジェクトのドラマ
考えたり調べたりにとどまらず、アクションに踏み出した高校生だけが挑戦できるマイプロジェクトアワード。文部科学大臣賞の栄冠をかけた熱戦が今年も決着しました。その舞台裏には、562プロジェクト2,713人の高校生を支えた全国192校のドラマがあります。高校生はどんなときに自ら動き始めるのか?そのヒントを探してみましょう。

高校生たちは動き出した

ひとたび探究心に火が灯った高校生たちは、自ら動き始めます。00年代後半、首都圏では「学生団体」ならぬ「高校生団体」という潮流が生まれ、スーパー高校生たちの活躍が目立ち始めました。そして今、走り出した高校生に追いつくかのように国が動き始めました。新しい学習指導要領の実施に向け探究を軸とした教科再編が進む中、主体的な学びを高校生全体に押し広げることが求められています。

果たして、授業から高校生主体のアクションは生まれるのでしょうか。

そのヒントを全国高校生マイプロジェクトアワードの7年間の足跡に探すことにしましょう。過去の表彰歴をさかのぼると、毎年のように入賞する「常連校」が現れつつあります。コンスタントに生徒をアクションに導く常連校の現場には、一体どんな仕掛けがあるのでしょうか?

中でも今回は、東京都立三宅高等学校と角川ドワンゴ学園N高等学校に注目することにします。

島に守られているから、生徒を送り出せた

太平洋にぽつりと浮かぶ三宅島。人口は2,489人。この島にひとつしかない高校が三宅高校です。

2018年現在、全校生徒は26人。生徒たちは農業科・家政科・普通科に分かれて学んでいるので、1クラス数人という環境です。バドミントン部のミユさんは、たった3人の学級で学ぶ2年生。総合学習の授業から始めた「島っ子ゆめプロジェクト」で全国へと進みました。伴走したのは末吉智典先生です。

さかのぼること2014年、末吉先生はいきなりの辞令で三宅高校への赴任が決まります。これも公立教員の役目だからしょうがない。2~3年を島でやり過ごそう、はじめはそう思っていた末吉先生を変えたのは、当時の校長先生でした。このまま生徒減が続くと統廃合は割けられない。危機感を持った校長は、教員たちを島根県立隠岐島前高等学校への視察に連れ出したのでした。隠岐島前高校といえば、全国屈指の教育先端校。島ぐるみで県立高校の魅力化を応援し、全国・全世界から新入生が押し寄せる個性的な人気校に転じたドラマは、今や「島前の奇跡」として語られています。三宅高校も隠岐島前高校を目指せるのではないか、校長はそう語りました。末吉先生が悪戦苦闘しながら立ち上げた総合学習から誕生したマイプロジェクトは、都会の高校生たちに競り勝ち、2年連続で全国大会へ進むことになります。

舞台裏を見てみましょう。三宅高校の場合、一年生のうちは先輩のプロジェクトにどっぷりと触れます。ミユさんは先輩の取組に参加したり、プレゼンを聞いたり、全国大会の土産話を聞いたりして期待感を募らせました。「やればやるほど楽しくなるよ」、先輩の言葉は輝いていました。

二年生になり総合学習が始まると、まずは自分自身のことをじっくりふりかえる時間が待っています。悩んだ末にたどり着いた、ミユさんのテーマは進路でした。三宅島には小中高校どれもひとつしかありません。島の子どもたちは学校選びを経験しないまま高校生になり、そして卒業後の進路に迷うことになります。ミユさんはまさに進路に迷う当事者でした。後輩たちにはこんな思いをさせたくない、ミユさんは島じゅうを駆けめぐり、多様な人生を歩む人を探します。島の大人たちはミユさんのことを小さなころから知っているので、協力者はどんどん増えました。ついに小中学生に向けた進路イベント「島っ子ゆめプロジェクト」の開催にこぎつけます。

三宅島で開催したミユさんの進路イベント(2018年9月)

「生徒の話を聴くことが、とにかく大事。生徒は勝手に答えを得て、また地域に飛び出していきます。」末吉先生はそう語ります。「地域とは常日頃からコミュニケーションしているので安心。島だからこそのやり方かもしれません。」学校と地域との信頼関係で生徒を支えているのが、三宅高校です。

顔を合わせなくても、ネットでつながっている

一方、その対極にある常連校がネットの高校・N高校です。

開校4年で急速に入学者を伸ばし、今や全国各地で全校生徒7,800人が学んでいます。たとえば東京23区に住むヨシダ君の場合、ベンチャー企業の創業に携わりながら高卒資格を取得するためにN高を選びました。大人っぽく見えますが16歳。大学生の兄からの紹介でビジネスの世界に出会ったのは中学時代。学校では得られない刺激と成長を実感し、ヨシダ君はどんどんのめりこんでいきます。しかし当時ヨシダ君が通っていた中学校は、中高一貫の名門私立校。ヨシダ君の意気込みが先生方に理解されることはありませんでした。ついに学校を去る決断をします。ネットの高校ならば、いくらでも時間があります。先生や同級生と顔を合わせる機会も年に数回。制約は最小限です。「ビジネスに没頭する自分にはN高がちょうどいい」ヨシダ君は言います。

ヨシダ君が在籍するN高ネットコースには、新入生から希望者が参加する「マイプロN」というプログラムが用意されています。それぞれ取り組みたいテーマを持ち寄り、各々のペースで企画・実行します。年末の最終発表会で学校代表に選ばれると、マイプロアワード地域ブロック大会へのチケットが授与されます。ヨシダ君はSNSの安全利用の開発に取り組みました。

一方、障がい者スポーツに取り組んだのはタケル君。2020年、東京オリンピック・パラリンピックに自分も参加してみたい。動機はそんな素朴な気持ち。チャレンジするためにN高を選んだのは、タケル君も同じでした。

N高の授業の様子

舞台裏を見てみましょう。金堂先生に尋ねてみると、入学して一年が経った時点でも、ヨシダ君・タケル君と実際に顔を合わせたことはないと言います。不安はないのでしょうか。

「チャットツールで常時つながっているので、つまずいたときはすぐにメッセージします。」なるほど、ネットの高校の学びを支えているのは、ネットでつながっている信頼関係でした。いつでも先生に相談できる安心感さえあれば、離れていても動き続けることができます。「ただしネット越しだと、ぐっとモチベーションを引き出すのは難しいんです」タケル君にとって、ターニングポイントは夏休みだったそう。プロジェクトを前に進められず行き詰まっていたころ、学校の薦めで参加したのが桜美林大学のサマープログラム。そこで他校の同世代、大学生、ロンドンパラリンピックを経験した専門家と出会うことで、行動へと踏み出すようになります。

そして始まったタケル君のマイプロ「2020意識改革」は、ブラインドサッカー選手に取材を申し入れるところから始まります。取材だけでは終わりません。横浜のブラインドサッカーチームに所属することを決め、一緒に練習し、小学校訪問のボランティアにも参加します。そこで学んだのは「目が見えなくても人生を楽しめる」ということ。かわいそう、と思っていたタケル君の気持ちが変わり始めます。今は「スポーツを通して障がい者のことを知ってほしい」と、健常者に向けたブラインドサッカーの体験会を企画し始めています。

ハーバード大が提唱する心理的安全性

島の高校とネットの高校、両極端のマイプロアワード常連校に共通しているのは高校生の安心感です。自分は応援されている、困ったときには受け止めてもらえるという安心感。

Google社ではハーバード大学で提唱されている心理的安全性という考え方が取り入れられていると言いますが、通じるものがあります。

探究学習とは、答えのない暗闇へ生徒たちを誘う営み。そこから光を見出すために、まずは学校や地域の心理的安全性をたしかめてみることは必ずや有効でしょう。

この連載の記事
#01/僕らがマイプロジェクトを始めたわけ
#03/「高校生団体」という新しいスタイル

*本連載はリクルート進学総研発行キャリアガイダンスで連載する「マイプロジェクトに学ぶ、探究が蒔いた未来の種」の転載記事です。

Writer

今村 亮 パートナー

1982年熊本市生まれ。東京都立大学卒。NPOカタリバ創業期からのディレクターとして、カタリ場事業、カタリバ大学、中高生の秘密基地b-lab、コラボ・スクールましき夢創塾、全国高校生マイプロジェクト事務局を手がける。文部科学省熟議協働員、岐阜県教育ビジョン検討委員会委員を歴任。2019年に独立し「ディスカバ!」立ち上げ中。NPOカタリバパートナー。慶應義塾大学にて非常勤講師を兼務。共著『本気の教育改革論』(学事出版)。

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