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悔しさを知った僕だからこそ、 生み出せる学びを求めて[マイプロ高校生のいま]

vol.129Interview

地域や身の回りの課題など、高校生が自分の関心を軸にプロジェクトを立ち上げ、実行する経験を通じて学ぶ「マイプロジェクト」。高校生自身の主体性と、実践を両立しながら探究するプロジェクト型学習だ。マイプロジェクトに取り組む高校生が、少しずつ増えている。しかしその経験がどんな効果や影響があるのか、数字などでは簡単に語ることはできない。人の成長には様々な経験、出会いが複雑に影響し合うからだ。

それならば、一人ひとりの経験と“いま”から、マイプロジェクト経験がもたらすものは何なのかを考えてみたい。

特集「マイプロ高校生のいま」は、マイプロ高校生だった、彼らへのインタビュー。

進学校でのやりきれなさ、
マイプロジェクトとの出会い

大学2年生の上地さんは今、マイプロジェクト事務局のインターンとして全国を駆け回っている。マイプロジェクトアワードが開催される2月は、関東、北陸、中部。1月には、彼の故郷である沖縄でもアワードを運営した。

4年前、彼はマイプロジェクトに取り組む高校生だった。

「高校時代は興味関心がたくさんあって、面白いやつに出会えるかも、と思って猛勉強して進学校に合格したのに、実際は勉強ばかりの日々だった」という。そんなとき、たまたま目にしたのがスタートアップキャンプ「九州カイギ」の広告だった。マイプロジェクトを始めたい高校生が、合宿型で自分のプロジェクトプランを考えるイベントである。

2015年、当時高校1年生の彼がこのイベントで出会った高校生たちの存在は、大きな刺激となった。

上地:「社会や地域のために、何かをしたいと思っている高校生がこんなにいるんだと思いました」

一番の収穫は、同世代との出会い、と言い切る。今でもその時の参加者とは交流が続いている。

2015年度に参加した九州カイギでの上地さん(当時高校1年生)当時の仲間とは、今も交流が続く

しかし沖縄に戻った彼は、日常とのギャップに気づく。

上地:「スタートアップキャンプで考えたのは、出会うことって面白いなということ。でもそれはまだ僕にとっては非日常。だから、もっと日常的に、できるだけ気楽な形で、いろんな学校の同世代と自由に話せる場をつくれないかと思いました」

そこで生まれたのが、彼のマイプロジェクトである「おしゃべり会」だった。

上地:「友だちが友だちを連れてくるような感じで、最初は小さくはじめました。毎回テーマを変えていて、興味関心があるときだけ参加してね、と伝えていました。そのうち、そのときのテーマからアクションを始めるような参加者も出てきて、それを手伝ったりもしていました」

奇しくも、彼が始めたマイプロジェクトは「日常のスタートアップキャンプ」だった。

異なるスタンスで臨んだ
2度のマイプロジェクトアワード

毎年開催される、マイプロジェクトに取り組んだ高校生が、その中で学んだことを発表する『全国高校生マイプロジェクトアワード』。地域での発表会で選ばれた数十組だけが、全国Summitへの参加権を得られる。彼は2度、マイプロジェクトアワードに参加している。

上地:「1度目は、アクションがまだほとんどできていない状態で。それでも自分はやれていると思っていたし、スタートアップキャンプで出会った友だちが参加するというのもあって、軽い気持ちで参加しました。全国への代表には選ばれませんでしたが、そこまで悔しくはなかった。それよりも、自分以上に活動をしている高校生たちに会えたことで視野が拡がったことが、参加して一番よかったことでした」

その後、高校2年生でもプロジェクトを継続。

上地:「最終的には、おしゃべり会を開かなくても、そこでつながった人たちがアクションを起こすようになりました」

いつの間にか、境目がわからないほどにおしゃべり会は日常化していく。開催回数は、のべ80回以上。「おしゃべり会」をきっかけにマイプロジェクトを見つけ、実行した仲間もいたという。

上地:「自分がやりたい、と思ったことを応援できる環境を沖縄につくりたかった。その意味では、自分のできる範囲で、もともと理想としていたものはつくれたと思います」

全国高校生マイプロジェクトアワード九州大会2016で発表をする上地さん(当時高校2年生)

前回とは比べられないほどのプロジェクトへの思い入れを持って臨んだ、2度目のマイプロジェクトアワード。しかし、彼は大きな失敗をしてしまう。

上地:「アクションに集中するあまり、リフレクションが全然できていなかったんです。言語化もできていないのに原稿さえ用意せず、本番では頭が真っ白になりました」

選ばれたいと思っていた全国代表には、選ばれなかった。彼はその日、人目もはばからずに泣いた。悔しくて悔しくて、何も得られなかったような感覚を覚えた彼は、当時のスタッフに伝えた。

「全国Summitを、見に行きたい」

半分以上は見栄とやけっぱちだったが、気持ちに嘘はなかった。自分には何が足りないのか。それをしっかりと自分の目で確かめたいと思った。

悔しさのあまり涙は止まらなかった
「全国を見に行きたい」と泣きながらスタッフに訴えた

「負け」の先に生まれた
新たな決意

彼の想いは通じた。高校生スタッフとして、マイプロジェクトアワードに参加することになったのだ。スタッフとして備品管理の仕事をしながら、全国Summitに出場したプロジェクトの発表を見た。

上地:「見ながら、苦しかったですよ。羨ましいし、複雑な心境で見ていました。でも一緒にスタッフとして参加していた高校生がいて…彼がいたから救われた部分もあります。一緒に感想を共有したり、振り返りもできたので、得られた学びは大きかった」

全国Summit2016で一緒に高校生スタッフに参加した仲間と
(手前から2番目が当時高校2年生の上地さん)

全国Summitの終盤、彼は他の高校生スタッフと共に、出場高校生向けのプログラムに参加することになった。そこで語ったのは、前向きな決意だったという。

上地:「アワードにはこんなに、自分のやりたいことをやっている高校生がいて。自分もその中で、自分のやりたいことって何なのかをじっくりと考えたんです。当時は両立なんてできないと思っていた夢を、どちらも実現すればいいんだと思いました。自分の夢を人前で話したのは、そのときが初めてでした」

「パティシエになりたい。弁護士にもなりたい。」このときの宣言は、今も変わらない彼の目標になっている。

全国Summitに選ばれた高校生たち全員の前で、初めて自分の夢を宣言した

勝負を超えて
創り出したい「学び」

今年は全国代表に選ばれなかった高校生が、それでも学びを得たいという気持ちで全国Summitに参加するプログラムが実現した。実際に30名ほどの高校生が、全国Summitへ学びに来る予定だ。

言うなれば、彼はその先駆者である。自らの意志で全国Summitへと足を運び、悔しさをこらえながらも発表を見届け、自分だけの学びを見出した。勝負を超えた先にある学び。彼は、自分と同じように思うような結果を得られなかった高校生にこそ、価値を届けたいのだという。

上地:「高校3年生のときにもアワードに出て、全国Summitに出てやろうということは考えました。でも、もしかするとアワードで「負け」続けているこの気持ちを持っているからこそ、わかることもあるのかなと思って。アワードでは悔しい思いをする高校生が必ずいるんですよ。なのであえてこのまま、この悔しさを覚えておこうと思いました」

今、マイプロジェクトは日本全国に拡がっている。今年度は、2,900プロジェクト9,000人もの高校生が、マイプロジェクトアワードに参加している。

上地:「勝ち負けは劇薬。勝負があるからこそ、より深まる学びはある。一方で気になるのは、勝負があるせいで、学びが深まらない高校生たちのこと。勝負のあとにどうするのか、それを考えたいと思っています。参加者も増えて、プロジェクトの質もどんどん上がってくるなら、僕のような思いをする高校生も増えるはずなので」

どんな高校生にも、最大限の学びを生み出したい。
そう願う、彼のマイプロジェクトは続いていく。

※2020年2月インタビュー当時

この連載の記事
人に言われたからじゃない。周りと同じじゃなくてもいい。自分の意志でやりたいことに全力で取り組む。
たくさん立ち止まってもいい。自分の生き方を見つけるのが今のマイプロジェクト。
「知る」ことで道が拓けた。マイプロがそのまま自分の仕事になった社会人1年目の19歳。


 

探究・マイプロジェクトに取り組む
パートナー校・パートナー団体を募集中

上地さんも参加した全国高校生マイプロジェクトアワードは、2020年度も全国各地で開催予定です。

現在、探究・マイプロジェクトに学校や地域で取り組み、来年度のアワードへご参加をお考えの教育関係者を対象に、パートナーを募集しています。

ご登録をいただきますと、教育関係者同士で学び合う勉強会にご参加いただけるコミュニティにご参加いただけるほか、無償にて教材・プログラムのご提供をいたします。

詳細ならびにお申し込みは下記をご覧ください。
https://myprojects.jp/partner/

Writer

吉田 愛美 全国高校生マイプロジェクト事務局

1991年福島県生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒。地元の力になりたいと、転職を経て地元選出の国会議員秘書を勤めた後、2016年1月より現職。コラボ・スクール大槌臨学舎で広報・事務・教務(中学校)を担当。現在は全国高校生マイプロジェクト事務局広報を担当。地域を巻き込んだ教育を通して、地域を元気にすることが目標。東北が大好きで、旅行はいつも東北と決めている。

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