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被災地、福島に生まれた未来の学校。コラボレーションによって、生徒の学びはさらに豊かになる

vol.132Report

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category #活動レポート

writer 本田 詩織

今年ももうすぐ、あの日がやってくる。
――3月11日。

2011年の東日本大震災から、丸9年の日を迎えようとしている。

福島県沿岸部では、地震・津波による大規模な被害に加え、原発事故により多くの人がふるさとを失った。この9年で、帰還が可能となっているエリアも徐々に広がっている。その一方で、旧避難区域の居住率は3割未満(2019年3月時点)と少なく、また帰還者の内訳も高齢者が多く若者が少ないなど、復興に向けての課題は多い。

双葉郡の一番南に位置する広野町には、2015年4月に開校した福島県立ふたば未来学園中学校・高等学校がある。

建学の精神は「変革者たれ」。この地域を取り巻く厳しい現実を前に、既存の社会システムの形にとらわれず新しい価値観を見出していこうと、「未来創造探究」という独自の探究学習をカリキュラムの柱に置くなど、特色のある教育活動を行っている学校である。

福島県広野町にある福島県立ふたば未来学園中学校・高等学校

ふたば未来学園とカタリバは2016年末頃から協働の形を模索し始めた。2017年度から職員が常駐し、探究学習への伴走、生徒の放課後の居場所として学校近くに「コラボ・スクール双葉みらいラボ」を開設するなど本格的なスタートを切り今に至る。

現在では、双葉みらいラボは校舎内に設置され、生徒の生活の中心にある。また、カタリバスタッフが学校内の会議に同席する光景も、当たり前のものとして受け入れられている。

学校が単独で生徒の学びや進路実現を担うという従来の形にとらわれない、公立高校とNPOのコラボレーション。新しい教育の形に挑戦する、その最前線からお伝えしていく。

本音の対話が
協働関係を強くした

互いに手探り。最初は距離感のあるところからのスタートでした。先生からは、『カタリバが来たからといって何が変わるのか?』、『連携と言いつつすぐにいなくなるのではないか?』など、ストレートな声をもらうこともありました」と語るのは、NPOカタリバ職員でふたば未来学園高校支援の責任者である長谷川勇紀。

彼はふたば未来学園とカタリバが連携を始めた当初から携わっており、教員が所属する校内部署の1つである企画研究開発部にも籍を置いて探究学習等のカリキュラムづくりに参画している。

ふたば未来学園高校支援 責任者 長谷川 勇紀 新潟県出身。教育学部卒業後、企業内人材育成に取り組む民間企業を経て、2014年にNPOカタリバへ転職。首都圏を中心とした高校生向けキャリア学習プログラム「カタリ場」の事業責任者を経て、2016年に「コラボ・スクール双葉みらいラボ」立ち上げ責任者として福島県広野町へ。学校が推し進める未来創造型教育を推進している。

ふたば未来学園は、被災地に開校する高校としてのみならず、高校教育改革の最先端校としての期待とともに華々しく開校した。そのような背景や、秋元康氏をはじめとした応援団の存在などから、常に注目を集めてきた。

一方で、入学してくる生徒たちは各々が厳しい避難体験を持っていた。「復興を支えたい」と志を持って入学する生徒もいる一方で、心には深い傷を負っていて思うように勉強や部活に向き合えずに苦しむ生徒たちも見受けられた。そのような状況の中で先生たちは、生徒たちの心を支えることで精一杯という状況でありながら、探究学習という新しい取り組みを開発することも求められている状態だった。

不安から来る「よその者」に対する厳しい視線。それはある意味、必然でもあった。そこで長谷川は先生たちと1対1で対話する機会を設け、課題感などをヒアリングしながら、連携の形を検討するとともに、関係構築に取り組んだ。そんな長谷川の姿を見ながら、ふたば未来学園側も、前述の企画研究開発部の組織内に長谷川の役割を位置づけ、協働しやすい体制を整えていった。

先生たちと対話を通じて関係性をつくっていた(写真右端が授業中の長谷川)

長谷川:「特に意識的に行ったのは、先生の願いや想いを聞くことでした。風当たりが強いなかでも、先生たちの生徒への想いの強さを感じていたんです。だから、まずは聞くことに徹して、先生の想いや願いに近づけるようサポートすることを意識しました。カタリバスタッフは立場上、生徒と接する機会が多く様々な声を聞きます。生徒を主語にしながら先生と話をしていくなかで、先生たちの方から『こういうことがやりたい』『こんなことを相談したい』という本音が聞けるようになりました」

2017年9月に開所した「コラボ・スクール双葉みらいラボ」は、ふたば未来学園に通う生徒であれば誰でも通うことのできる放課後の居場所。常時数名の大学生スタッフが生徒たちを出迎え、教科や探究学習のサポート、進路や日常における悩みの相談などに応じており、多い日には100名を超える生徒が来館する。人間関係の悩みや進路に関する相談など、学校生活や進路指導に関わる生徒の本音が大学生スタッフに伝えられることも多い。それらを、必要に応じてカタリバスタッフから担任や養護教諭に共有をする。

「コラボ・スクール双葉みらいラボ」では放課後になると、生徒たちが代わる代わる来館する

当初は一方的に情報提供するだけだった状態から、徐々に担任など先生側からも意識的に見守ってほしい生徒などの情報が共有されるようになり、学校とカタリバが一枚岩で生徒を見守り成長を支援していく体制が築かれた。2019年4月には中学校も開校し、双葉みらいラボは、高校生に加え中学生も訪れる場所となっている。

こういった連携の結果、先生たちからも「生徒のつまずきにいち早く気づき、伸び悩んでいるところを解消させてくれる声掛けやアドバイスに、とても助かっている」「生徒に対する関わり方が重層的になる」などの声をもらう機会も増えている。

教員とカタリバスタッフ
チームで磨き上げていく探究学習

探究学習の時間は、先生とカタリバスタッフがチームを組んで取り組んでいる。

新学習指導要領の一つの柱でもある「総合的な探究の時間」を先んじて取り入れたことで多くの注目を集めたが、探究学習を作っていくことは先生にとって初めての取り組みだった。一方でカタリバにとっても、学校に入り先生たちと一緒に探究学習を一緒に作っていくのは、初めての試みである。

連携当初から協働の形づくりに取り組んできた、ふたば未来学園高校の副校長の南郷市兵副校長はこう語る。

南郷副校長:「カタリバスタッフはまず初めに、毎週ミーティングを行うことを提案してくれました。生徒の状態や授業の進め方などを議論する場をつくってくれた意味は大きかったと思います。また、ワークシートなど授業のサポートツールも提案してくれました。先生たちも『どう進めていったらいいかわからない』と感じていた中、一緒に走ってくれる仲間が増えたことは先生たちの安心にも繋がりました」

未来創造探究の授業
教員とカタリバスタッフが一緒にプロジェクト伴走にあたっている

放課後などを使って探究学習に取り組もうとする生徒のサポートをカタリバスタッフが行う。一方で先生は、その専門性や自分自身が持っている地域や企業とのネットワークを活かして生徒を学校外に送り出すなど、カタリバスタッフと教員の役割分担も見られる。まさに「チーム」で取り組むからこそ生まれた形だ。

探究学習5年目を迎えた今年度、ふたば未来学園高校には100を超える生徒たちの「探究プロジェクト」が生まれている。

また先生方の多くが、コーディネーター(カタリバスタッフ)の配置により「生徒の意欲」や「学びの質」にポジティブな変化があったと回答している。

■ふたば未来学園高校 コーディネーターの配置で起きた変化
(教員アンケートより)

Q.生徒の学びが促進されたと思いますか
そう思う・・・100%
とてもそう思う:100%、そう思う:0%)

Q.生徒の学校生活における意欲は向上したと思いますか
そう思う・・・90%
とてもそう思う:45%、そう思う:45%)

Q.生徒の学習意欲は向上したと思いますか
そう思う・・・80%
とてもそう思う:40%、そう思う:40%)

Q.総合的な探究の時間」の授業の質が向上したと思いますか
そう思う・・・95%
とてもそう思う:75%、そう思う:20%)

*2019年12月実施のコーディネーターと関わりのある教員へのアンケートより
*回答者数:20名

企画研究開発部の主任として、ふたば未来学園の探究学習の推進において中心的な役割を担っている橋爪清成先生はこのように話してくれた。

ふたば未来学園高校 企画研究開発部主任の橋爪先生

橋爪先生:「私の担当教科は化学ですが、これまでは授業で見る姿だけで、その生徒を捉えてしまう部分がありました。昨年度は3年生の再生可能エネルギーゼミの担当を受け持ちましたが、例えば授業では寝ているような生徒が、探究の時間になると生き生きと活動している。探究学習での関わりを通して、教科学力は生徒の一側面でしかなく、教科学力とは関係なしに生徒の資質が発揮されたり、能力が開花したりすることがあるということに気づかされましたね。

昨年度からは、学力テストだけでは測れない“生徒が探究学習や学校生活全体を通してどのような力を身に着けてきたのか”ということを、生徒が担当の先生とともに振り返る面談を始めました。参考となる前例も少なく、検討段階では行き詰まることもありましたが、企画研究開発部の先生や探究学習を担当する先生、カタリバスタッフと議論しながら、形を作ってきました。

赴任当初はカタリバとはどのような存在なのだろうかと少し離れて見ていた部分もありましたが、今ではこの学校を、生徒をどう成長させるかを一緒に考えていけるパートナーなのだと感じています」

生徒たちが探究学習の相談を行っている様子
生徒の活動をサポートする教員、地域の伴走者、カタリバスタッフが同席
(右奥が企画研究開発部主任の橋爪清成先生)

逆境をプラスに変えていく
協働の先に描く未来

2019年12月。初の試みとして1泊2日の企画研究開発部の合宿が行われ、カタリバのスタッフも部メンバーの一員として参加した。

開校から5年。これまでの取り組みを振り返りながら、学校として掲げる「人材育成要件・ルーブリック」の更なるブラッシュアップに向けて議論をした。お互いの役割を超えて、ふたば未来学園の目指す生徒像を教員とカタリバスタッフが共に考えるという光景がそこにはあった。

企画研究開発部合宿では、夜遅くまで白熱した議論が続いた

合宿に参加した、ふたば未来学園でコーディネーターとして活動するカタリバ職員の横山和毅はこう話す。

横山:「合宿は、結果として開校からの5年間を振り返る場にもなりました。私は2019年4月に異動してきましたが、それ以前の話も聞きつつ改めて、ふたば未来学園とカタリバの協働は二人三脚で進んできたのだと感じました。

協働には様々な形があると思いますが、学校と私たちのようなコーディネーターがいた時に、お互いにお見合いになってしまったり、一方が他方に仕事を丸投げたりするような形では上手くいきません。ふたば未来学園とカタリバは対話を繰り返し、取り組みにおける役割分担を丁寧に行ってきたことで、より良い協働関係を築くことができたのだと思います。

私はふたば未来学園で先生たちと一緒に働くなかで、先生たち自身が新しいことに対して楽しみながら取り組んでいる姿に感銘を受けました。大人がチャレンジしているからこそ、生徒もチャレンジできる。学びの土壌が育まれていると感じています」

最後に、来年度以降の展望を橋爪先生に聞いてみた。

橋爪先生:「ふたば未来学園の探究学習は、5年間の取り組みを経て少しずつ形になってきましたが、まだまだ課題はあると感じています。探究での学びと進路の接続事例を増やしていくことや、より深い課題設定を生み出すにはどう生徒に関わればよいのかなど、取り組んでいきたいことが色々ありますね」

学校とNPOのような外部リソースとのコラボレーション。10代が意欲と創造性を育める社会を実現するための一つの形が、ここで確かに生み出されている。

被災地という震災前と比較すれば失ったものがある環境にありながらも、目指す到達点はマイナスからゼロではない。マイナスからプラスへ。「創造的復興教育」という新しい教育の形を作っていこうとする、ふたば未来学園とカタリバの挑戦はこれからも続く。

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Writer

本田 詩織 ふたば未来学園高校支援

1990年生まれ。2013年九州大学理学部卒業。 地方で育った経験から、学生時代より地域の魅力や課題を教育に繋げる取り組みに関心を持つ。(株)ベネッセコーポレーション、(株)リクルートコミュニケーションズを経て、2018年よりカタリバに参画。福島県立ふたば未来学園高等学校併設の「コラボスクール・双葉みらいラボ」に勤務する。施設運営や、同高校の探究型学習にコーディネーターとして携わっている。

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