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「持続可能な地域振興のカギは、若者たちにキッカケを与えること」大学教員の彼が挑む、高大連携と地域経営とは /「PARTNER」#06

vol.237Interview

date

category #インタビュー

writer 編集部

Profile

井上 丹 Akashi Inoue 全国高校生マイプロジェクト青森県パートナー/八戸学院大学 地域経営学部 講師

青森県青森市浅虫出身。北海道大学大学院修了。2008年株式会社リクルート入社、10年間教育関係の営業職を務め、高校生のキャリア教育講演も担当。2018年より八戸学院大学にて大学と地域企業・自治体等と連携して、地域活性化事業を企画・運営。地域経営学部でキャリアデザインの講義やフィールドワークを中心とした研究活動を展開。学長特別補佐。また地元では「浅虫まちおこし応援団がっちゃんこ」代表として観光地域づくりを実践中。

2013年にスタートした実践型探究学習「マイプロジェクト」。年に一度、全国の高校生たちが集い、自分たちのプロジェクトを発表する学びの祭典「全国高校生マイプロジェクトアワード」を開催していますが、現在では参加者が1.3万人を超え、全国で「地域Summit」が開催されるほど規模、内容ともに大きく成長しています。

青森県Summitでは、地域への想いを持ったプレイヤーが集い「マイプロジェクト青森実行委員会」を組織しSummitの運営を担っています。その中心にいるのが八戸学院大学講師の井上丹さん。大学教員として地域経営やキャリア教育を専門とするる井上さんは、出身地の浅虫温泉でまちづくりの活動も行っています。地元・青森にさまざまな側面から関わる井上さんが、なぜ「地域パートナー」になったのか。その想いについてお話を伺いました。

連載「PARTNER」では、「地域パートナー」のように、カタリバのパートナーとして各地で活躍する人物に焦点を当ててご紹介していきます。

きっかけは母校の閉校。
「地元をなんとかしたい」とUターン

ー 井上さんご自身も青森県のご出身と伺いました。

青森市の浅虫という温泉街で生まれ育ち、浅虫の小中学校を卒業、高校も浅虫から通いました。大学進学とともに北海道へ移り住み、10年間を過ごしました。新卒でリクルートに入社し途中から仙台東北支社の勤務に。高校生に対して進路の情報を伝える部署で5年間働いていました。

ー 青森にUターンされたのはいつですか?

2016年です。実は2015年に母校の浅虫中学校が閉校してしまったんですよ。盆・正月としょっちゅう浅虫には帰っていたんですが、戻るたびに寂れていく地元、減っていく子どもの数…。そんな話ばかりを聞いていました。ちょうどその頃“地方消滅”がホットトピックになっていたこともあり、「このまま地元がなくなるんじゃないか」と焦りにも似た気持ちを感じていましたね。

また一方で、同級生の何人かが浅虫の温泉街で商売をやったり、子どもが生まれたりと地域に根ざして暮らしていたんです。その仲間たちと「なんとかしたい」と盛り上がって。じゃあ戻ってくるかとUターンを決めました。

ー 浅虫ではどのような活動を?

浅虫まちおこし応援団がっちゃんこ」という団体を同級生と立ち上げ、浅虫を元気にするための活動を行っています。私たちが目指すのは「浅虫の活動を応援し、浅虫に関わる人と人、組織と組織を、つなぐ」集団。いずれは法人化も目指して仲間を集めているところです。

「浅虫まちおこし応援団がっちゃんこ」での活動の一コマ。中央が井上さん

ー 現在のお仕事について教えてください。

浅虫に暮らしながら、八戸市にある八戸学院大学に勤務しています。専門分野は「地域経営」と「キャリア教育」。まちづくりや地域活性化を研究していまして、その研究のフィールドが浅虫です。「浅虫がっちゃんこ」もフィールドワークの一環になりますかね。私のまちづくり活動を、学生にリアルタイムで伝えたり、活動に参加してもらったりということもしています。

ー 「地域経営」とはどのようなことを学ぶのでしょうか。

地域経営って、一般の人には聞き馴染みのない言葉だと思います。

地域を活性化しようとした時に、これまでは一瞬だけ盛り上がる単発的なイベントをやることが多かったと思います。しかしこれからの時代は、長い目で考え“経営”する視点が必要になります。

本学には「地元を元気にしたい」「まちづくりに関わる仕事がしたい」という学生が多くいます。机上では学べないことを青森や八戸、浅虫などの地域で、実際に体験しながら学び、将来に役立つ経験を身につけて欲しいと思っています。

高校時代にしかできない活動に
生徒の成長はある

ー 井上さんは、マイプロジェクトとどのように出会われたのでしょうか。

リクルートで働いていた時に、カタリバ職員の渡邊洸から「マイプロジェクトというものがあって…」と聞いたのが最初だったと記憶しています。

実は渡邊は大学院の同級生。お互い東北出身で「それぞれ違う分野に進んで修行をしたら、東北に戻って来よう」なんて毎日のように語り合っていたんです。そんな彼が東京から東北に戻って来る、しかもカタリバという組織が運営する女川向学館(宮城県)で仕事をすると聞いて。当時は私も高校生向けの進路教材の仕事をしていましたから、そこからまた付き合いが濃くなっていったんです。

渡邊との再会から、山形県の東北芸術工科大学で行われた「東北カイギ」というマイプロジェクトのスタートアップキャンプに参加したり、2016年からは東北Summitにサポーターとして参加したりという関わりが増えていきました。

ー 印象に残っている高校生の姿はありますか?

「東北カイギ」では、様々なモヤモヤを抱える高校生が、20-30代の社会人と対話しながらどんどん成長していく姿が見られたんですね。最後に自分のやりたいプロジェクトを発表したのですが、みんなキラキラしていたのが印象的で。今でも鮮明に記憶に残っています。

そういった様子を見て、高校での勉強や学びは、ただ単にテストでいい点を取ることだけではないのかもしれないと感じたんです。高校生の、その時にしかできない活動で、生徒は成長できるんだと分かったような気がします。

ー ご自身の高校時代とも繋がったのでしょうか。

私は高校時代、勉強しかしてこなかったような人間なんですよね。私に限らず田舎の高校ってそういうところがあるんじゃないかと思います。とりあえずテストでいい点数を取って、いい大学に行けばなんとかなる、みたいな。でも、そういうのが“当たり前”とか“普通”ではなくて、他にも選択肢があるんだと、そういう可能性を見せられたような気がします。

今の高校生って、大人に変に気を使っていることも多いんじゃないかと思うんです。「先生がこう言っているから先生のためにやろう」とか「親がこうしろと言っているから、それには応えておくか」みたいな。でも本当は、高校生だっていろんな情報を手にしているし「自分は全然違うことをやりたい」とか「何かモヤモヤして不安だ」とかいろんな価値観や感情を持っていると思うんです。

でもそれを相談できる相手がいない。カタリバの言う“ナナメの関係”、そういう取り組みが地域の中にあるのは、重要なポイントなんだろうと感じましたね。

東北カイギで高校生とサポーター(左)がワークに取り組む様子

大学教員として
生徒と先生の「探究学習」をサポート

ー 井上さんが、全国マイプロジェクト青森県パートナーになった経緯を教えてください。

青森県summit運営は、昨年もボランティアとして関わっていました。今年度から、マイプロジェクト事務局と業務委託関係を結び、地域で探究的な学びを根付かせていく「地域パートナー」という仕組みができると聞いて、これまでのボランティア的な関わりから委託という形でしっかりコミットしていきたいということで手を挙げたんです。

昨年度行われた、青森県Summit2020の様子

マイプロジェクト青森実行委員会のメンバーには、私と同じように古くからマイプロジェクトに関わっている人が多く、県内の小学校の先生やNPO的な活動をしている人、大学の仲間などがいます。特徴を挙げるとすれば、年齢層は高めです(笑)県内にはNPO的な活動があまり浸透しておらず、新しいことにチャレンジする若者も少ない印象です。もっと若い人に関わってほしいと思っているのですが…。それは、これからです。

理想としては、高校生のキラキラした様子を見てもらうことで「一緒にやりたい」と運営に携わってくれる人が増えていくこと。教育委員会や行政の方にも、実際の活動の様子を見ていただけたらと思っています。

ー 高校に出向いた活動もされていると伺いました。

今年度から高校の探究学習に八戸学院大学の大学教員が入って、学習を支援する取り組みを始めています。これには、地域パートナーとしてマイプロジェクトを県内の高校に推進していく狙いもありますね。私個人として動ける範囲は限られていますが、大学組織として動くことができれば、より多くの学校に、長期的に携わることができますから。

現在4-5校での取り組みがスタートしていますが、難しいことも多いです。マイプロジェクトという仕組みはありますが、実際にやるのは生徒たちですし、先生からの声かけも必要です。「考えることが苦手」という生徒も多く、プロジェクトの課題やテーマが見つけられないという状態もあります。

ー 新たな課題が見えてきたのですね。

そういった現状が見えてきたので、探究学習に取り組む高校の先生に対しても何かしらの支援ができないかと、大学のリソースを使ったサポートを考えているところです。総合的な探究の時間は、大学の研究活動、論文、ゼミなどに近い活動なので、大学が持つそういったノウハウも提供できればと、試行錯誤しながらプログラムを作っています。

探究活動に取り組んだ高校生たちの発表会

ー 大学教員としてのミッションと、マイプロジェクトの活動がリンクする部分もあるのでしょうか?

そうですね、結構リンクしているのかなと感じています。
大学では「キャリア教育」も担当しており、「地域でどう生きて、働いて、暮らしていくか」をテーマに、大学生だけでなく、高校生にもこれらを考え、見つけてもらいたいと思いながら活動しています。

高校生のなかには「進学で県外に出たい」とか「よく分かんないけれどとにかく県外に出たい」という生徒もいっぱいいます。理由を聞くと「都会の方が仕事がある」「遊ぶところがある」みたいな話が多いんですよね。それって、多分地域のことをほとんど知らないで、漠然と都会に行きたいと思っているのだろうなと。

だからこそ、高校時代にマイプロジェクトや探究学習を通して地域に関わることで、地元でのキャリアを描いたり、一度都市部に出ても将来的に地元に戻ってきたり、という流れに繋がっていくのではないかと思っています。これは、私の研究テーマの一つにもなっています。

さらに「地域経営」という視点とも、リンクしている部分があります。地域経営を考えるうえで大切な観点の一つは、「地域に人材をどう残していくか」ということです。Uターンや移住での人材集めとなると、かなりハードルが高いですから、青森に縁やゆかりのある若い人たちが、その地域でどうすれば自己実現できるかを追究していくことは重要です。

青森に、高校生・大学生がチャレンジできる
機会・場所・環境を生み出したい

ー 今後の展望について教えてください。
「地域で、自分らしく幸せに過ごせる」、そういう未来を作っていきたいと考えています。それはものの豊かさやお金の話ではなく、「いかにその人自身が幸せと感じられる時間を、その地域で作っていけるか」ということです。

人それぞれの幸せが尊重されるような、多様性に対応した地域になっていくと、結果としていろんな人が集まり、交流が生まれ、地域が良くなっていくと思います。浅虫はこのビジョンを実現できる可能性が非常に高い場所だと感じています。まずは浅虫で実現させて、他の地域でも応用できるモデルを作っていきたいですね。

ー 井上さんの描く未来に、マイプロジェクトはどのように関わっていくのでしょうか。

短期的な話でいうと「東北カイギ」の青森県版、「青森カイギ」のようなスタートアップキャンプを浅虫でやりたいんです。非日常の中で高校生が自分自身を見つめ直し「将来どんなことがやりたいのか?」を考え、プロジェクト化していく。違う高校の生徒と発表しあったり、大人と対話したりすることで、教室の中だけでは出会えない何かしらのきっかけに出会えると思います。

これからさらに、どこかに“正解”がある時代ではなくなります。だからこそ高校生には「自分らしさって何だろう?」と考えてもらいたいですし、そのきっかけがマイプロジェクトや探究学習になっていくのかなと思います。これからもそういう場を作っていきたいですね。

ー これからの青森をどんな地域にしていきたいですか?

Summitに参加したサポーターの大人たちが、生徒の発表を聞いて「自分も成長できた気がする」と言うんですよ。まちづくりの活動でも、大人同士が議論しても聞き入れてもらえないことも、大学生や高校生が純粋な気持ちで「それってなんかおかしくないですか?」と言うと動き出したりする(笑)大学生や高校生には、大人や地域を動かすパワーがあると思います。

フィールドワークに取り組む大学生たち

高校・大学の時期に、まちづくりに肌感を持って取り組めるチャンスがあればいいと思いますし、そういう機会・場所・環境を作っていくのが私たちの仕事です。高校生にはただの授業や教材として受けてもらうのではなくて、メンバーの一員として、活動や企画に参加してもらいたいですね。場合によっては報酬を渡してもいいと思いますよ。

むしろそれくらい本気でやらないと、実際の“まちづくり”や“働く”は見えてこないと思います。若者が本気でチャレンジできる地域・世の中にしていきたいですね。

-文:宮木 慧美
-写真:井上さん提供(3,4枚目以外)


 

●全国高校生マイプロジェクトでは、本記事でご紹介した「やまぐち若者MY PROJECT運営チーム」をはじめとする全国の17団体/個人の皆様と「地域パートナー」としてパートナーシップを結び、マイプロジェクトの学びを全国に広げる活動を行なっています。
地域パートナーとの協働や現場視察を希望される方は、こちらのフォームからご相談ください。

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#01/「生き生きした若者が育つ環境をつくりたい」 その思いから自衛官を辞め、地域パートナーに転身。 彼が目指す「日常的な学びの場と未来の形」とは
#02/「若者が自分の思いを大切にできる社会にしたい」という想いで立ち上がった青年二人が、 ものすごいスピードで進化させている、長野県の探究学習プロジェクトとは
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#04/「地元の高校生が、いつか地域のプレイヤーとして戻ってきて、未来の高校生を刺激する。そんな循環をつくりたい」彼がマイプロジェクトのパートナーになったわけ
#05/「学生、会社員、大学職員、教育委員会……年齢も状況も異なる4人が、山口県の探究学習プロジェクトに取り組むわけ

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編集部 編集部

KATARIBAMagazine編集部が担当した記事です。

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