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イベントレポート – 前編 – 第7回シゴト場@ONLINE「誰ひとり取り残さずに、まなびにつなぐ仕事」

vol.174Report

NPOカタリバは、どんな環境に生まれ育った10代も意欲と創造性を育める未来を目指して、全国各地で地域ごとの課題やニーズと向き合い活動しています。そんなカタリバの活動現場の最前線について、実際に働くスタッフからやりがいや具体的なチャレンジについてお伝えするイベント企画「シゴト場」を定期開催しています。

カタリバの採用にエントリーしようか迷っている方はもちろん、いつか社会課題を解決する仕事に挑戦したい方や、どんな仕事なのか興味があるという方まで、幅広くご参加いただけるイベントです。

12月9日(水)に開催された第7回シゴト場のテーマは、「誰ひとり取り残さずに、まなびにつなぐ仕事」。このテーマのもとに3つの事業で活躍する、加賀大資(アダチベース ディレクター)、野倉優紀(アダチベース Central 拠点長)、戸田寛明(災害時子ども支援sonaeru)、富永みずき(キッカケプログラム)の4名が登壇しました。

オンライン開催となった今回、約130名の方にご参加いただき、みなさんの関心の高さを感じました。そのイベントの様子をご紹介します。

「たまたま」によって、
子どもたちの未来が左右されない日本に

はじめに、アダチベースのディレクターを務める加賀大資から、「誰ひとり取り残さずにまなびにつなぐ」というテーマについて、自らの原体験も踏まえた紹介がありました。

加賀大資 東京都の私立中高一貫校にて英語の教員として働いた後、オーストラリアへ英語教授法TESOLを学びに留学。帰国後、東日本大震災により甚大な被害を受けた岩手県大槌町にコラボ・スクール大槌臨学舎を立ち上げるため、カタリバへ転職。立ち上げから2016年までの4年間運営し、現在は東京都足立区にて貧困、孤独、発達の課題など様々な困難を抱える子どもたち向けの居場所兼学習支援拠点、アダチベースを立ち上げ運営する責任者

加賀大資:アダチベースや外国ルーツの高校生支援などの事業に関わるほどに、自分の置かれてきた環境を振り返ることが多くなりました。私自身は、小学校5年生まで団地で暮らしており、両親ともに高卒ですが、教育に関心がある親のもとで生まれ育ったため、多くの習い事の機会を提供してくれました。また、小学生の頃に阪神・淡路大震災が起こりましたが、自分の住んでいた埼玉県では大きな地震は起こっていません。私が生まれ育った家庭や地域における環境は、ポジティブな「たまたま」なものでした。

一方で、生まれ育つ家庭環境に困難を抱えていたり、住んでいる地域が被災することで、希望を失い、将来を描きにくくなる子どもがいます。自分ではなかなかどうすることもできない「たまたま」によって、子どもたちの未来にネガティブな影響を及ぼす社会になってほしくない。そんな想いを「誰ひとり取り残さずにまなびにつなぐ」という言葉に込めています。ぜひ、本日は私たちのお話を聞いていただき、気軽にご質問いただければと思います。また、私たちと一緒にこうした事業をつくっていきたい方と出会えると嬉しいなと思っています。

周囲を取り巻く困難な環境に負けず、
子どもたちを支え続けることの大切さ

野倉優紀 1991年生まれ。筑波大学人文・文化学群卒。大学卒業後、EY Japanにて2年半勤務し、大規模システム改修プロジェクトでの業務改善などに従事する。「自分のもつ可能性を最大限に発揮できる人を増やす」ことを人生の目標に活動している。新潟の片田舎で生まれ育ち、お米とご飯のお供全般が大好き。趣味はウクレレ、玄米食、感動し心が動く映画を観ること。NPOカタリバ「アダチベース」Central 拠点長

野倉優紀:私の活動しているアダチベースが位置する東京都足立区は、子どもたちを取り巻く厳しい環境を改善し、自立した大人に成長してもらえるよう、いち早く対策に取り組んできました。対応すべき課題には、経済的な困難さ、それ故の家庭が抱える難しさ、子どもたちの進学・就職率など、多様なテーマがあります。そうした状況を変えるために足立区が展開する「未来へつなぐあだちプロジェクト」のうち、「居場所を兼ねた学習支援事業」として、アダチベースの運営をカタリバが受託しています。ただ金銭的にサポートしたり進学実績をあげたりするだけでは、将来、子どもたちの「生き抜く力」を育むことはできません。そこで、アダチベースは「文化資本・社会関係資本・経済資本、三つのうちいずれかが欠けると将来的に貧困状態に陥ってしまう可能性が高くなる」というP・ブルデューの理論に立脚して運営に工夫を重ねています。

取り組んでいることは、大別すると3つです。1つ目に、学習支援。学校の授業についていけなくなった子ども、外国にルーツを持つ子ども、学校に通っていない子どもなど、ニーズがそれぞれ異なる子どもたちに個別の支援を行っています。2つ目に、体験企画。本来家庭で得られる経験ができない子どもたちに、ワークショップや課外活動の機会を提供し、日常生活では得られないつながりを生んで資本形成につなげています。3つ目に、子ども食堂。みんなで一緒に鍋をつつく、という経験をしたことがない子どもも多くいます。単に、栄養ある食事を摂ってもらうだけでなく、みんなで一緒に食事を取りながら、マナーなども学んでもらえる場づくりをしています。

私がアダチベースで働いていて感じていることが3つあります。1つ目に、子どもたちとの時間と事業開発の時間のバランスを取ることの大切さ。カタリバでは、職員一人ひとりが裁量を持っており、子どもたちとの時間を通して取り組むべきと感じたことを全体に提案し、事業を磨いていく働き方が推奨されています。そのために、両方の時間をバランスよく取ることが大切だと感じています。2つ目に、探究的学習に取り組むためのベースとなる基礎学力の大切さ。新しい学びを届けるだけでもなく、基礎学力だけでもない、両軸を意識して届けていかなければいけないことを現場で感じています。3つ目に、子どもたちに何を届けたいかを見失わないことの大切さ。子どもたちが育ってきた環境が与える影響は想像以上に大きく、彼らの中には「どうせ自分にはできないから(頑張っても仕方ない)」という考えを刷り込まれていることもあります。そのなかでいかに自分たちが希望を捨てず、子どもたちを支え続けられるかどうかが大切だと考えています。

迅速な緊急支援によって、
被災した子どもたちを未来につなぐ

戸田寛明 1991年生まれ。大学卒業後、アニメーション映画の制作に従事。スタジオジブリの「思い出のマーニー」などの作品に演出助手として参加したのち、2018年NPOカタリバに転職。災害時子ども支援「sonaeru」のスタッフとして、民間パートナーと共に令和元年台風19号の被災による長野県の支援を担当。熊本豪雨では、カタリバとして初めてとなるコロナ禍における災害支援を担当した(写真 右)

戸田寛明:災害時子ども支援sonaeru(以下、sonaeru)は、代表理事の今村久美直轄の事業で、災害など子どもたちに何か危機が訪れたときにいち早く動くチームです。実は、カタリバオンラインやキッカケプログラムの立ち上げも担当しました。主に10代をターゲットとしているカタリバにおいて、sonaeruは、未就学児から高校生まで幅広い年代を支援対象としています。災害によって子どもの未来が閉ざされてしまうことを防ぎ、そして、災害の悲しみを強さに変える、ということをテーマに活動しています。

災害時に行う支援は大きく分けると3つあります。子どもを預かる、学習支援をする、居場所をつくって心のケアをする、の3つです。被災地ではまず、小さな子どもを中心に遊び場がなくなり、その結果ストレスが溜まり夜寝付けなくなることがあります。また、そんな小さな子どもを抱えての復旧・復興活動は困難を極め、保護者の足かせになってしまうことも少なくありません。それに対してsonaeruチームは、子どもを預かり、安心安全な環境で自由に遊べるよう支援を行います。また、勉強する場所を失ってしまう子どもや、壮絶な被災体験から精神的に不安定になってしまう子どもが現れる場合もあります。そうした子どもたちには、安心して過ごせる居場所をつくり、落ち着いて勉強できる環境を届けます。

次に、業務の流れを説明します。まず災害が起きると、被災地に調査へ入るかどうか判断するために、様々な伝手を使って事前調査を行います。その後、被災地に入り、支援ニーズの調査、活動場所の確保、ボランティアスタッフの募集をはじめます。準備が整い次第、拠点(子どもの居場所)運営を開始。子どもの預かりや、学習支援などをスタートします。そのまま緊急支援フェーズが終わる1〜3ヶ月程度現地に常駐して支援活動を継続した後、最後は、現地の団体に支援活動を引き継ぎます。カタリバの本部に戻ってからは、引き継いだ団体が自立して支援活動を継続できるよう伴走を行い、一連の支援活動のひと区切りとなります。現地の団体に引き継ぐ理由は、毎年のように起きる災害に持続的に対応していくためであり、教育支援をしたいと思っている地域の方々をサポートすることで、その地域の教育資源を増やしていくことができると考えているためです。

平時に取り組むテーマは3つあります。1つ目は、日本中どこで災害が起きても迅速に支援できる体制を整えること。2つ目は、緊急支援フェーズの最適な居場所と学習支援、遊びと学びのプログラムを開発すること。3つ目は、持続可能な支援のために、現地パートナーに運営拠点を移管し、自立して支援活動を続けられるようにサポートしていくことです。7月の熊本豪雨の支援活動は、11月に現地パートナーへと運営を引き継ぎましたが、現在も伴走を続けています。

このようにsonaeruでは、平時は災害への備えを充実させ、有事の際は迅速な緊急支援を行うことによって、被災した子どもたちを未来へつないでいきます。

ただの「いいこと」ではなく、
エビデンスのあるものとして世に広める

富永みずき 神奈川県出身。都内大学を卒業後、2017年に株式会社トモノカイへ入社。中高生向けの学習支援を担う事業部にてHR・マーケティングチームを立ち上げ、年間数百名規模の難関大学生講師の採用をはじめとするHR領域を設計から運営まで一貫して担当。2020年8月よりNPOカタリバへ入職。キッカケプログラムにて、かねてより目標としていた保護者支援領域に従事

富永みずき:キッカケプログラムは、生活困窮家庭の子どもたちにPCやWi-Fiを無償で貸出し、機会格差を縮めていくことを目指した支援プログラムです。現在、約280家庭にキッカケPCと呼ばれるデバイスを提供しています。

プログラムの始まりは、コロナ休校をきっかけにはじまったカタリバオンラインでした。休校によって居場所がなくなってしまう子どもたちに、オンライン上の居場所を作ろうとはじまったこのプログラムは、開始から4ヶ月の間に約2000人ほどの子どもたちとつながり、新しい支援として有効性を感じることができました。一方で、カタリバオンラインに参加するためには、デバイスやネット環境、保護者サポートの有無などといった条件があり、全ての条件が揃う家庭は限られていることも分かりました。特に、経済的困難を抱える家庭や、コロナ禍の失業など新たな問題に直面している家庭にとっては、子どものことを考えていられないと抱え込んでいる状況もありました。

そこでキッカケプログラムでは、PCやWi-Fiの貸与だけではなく、子どもたちの学習機会ややり抜く力などを含む非認知能力(※)の向上を支える子ども伴走(週1回のプログラム)や、保護者を支援しながら子どもの成長を一緒に見守る保護者伴走(月1回の面談)、オンライン環境での挑戦を支える問い合わせ対応(CS)や技術サポートという、3つの柱を強みとして取り組んでいます。そして、この取り組みをただの「いいこと」として行うのではなく、エビデンスのあるものとして世の中に広めていくため、慶應義塾大学の中室教授や東京大学の山口教授と協力し、オンライン伴走の効果を検証しています。

機会格差を取り除き、どんな環境に生まれ育った子どもたちにもまなびを届けることを目指しているのがキッカケプログラムです。まだまだ手も目も届いていない家庭がいるなかで、対象家庭だけに寄り添うプログラムで終わらせるのではなく、より多くの子どもたちや家庭を想ったプログラムにしていきたいと思っています。

(※)非認知能力:非認知能力とは、学力テストのように明確にスコアで測れないが人生を豊かにする一連の能力、例えば、やり抜く力、自制・自律性、自己肯定感、他者へ配慮などのことを指します

後編につづく…>

 

現在カタリバで募集中の関連ポジション

■アダチベース(正職員)
首都圏の中高生に居場所を届けるユースセンター職員
■アダチベース(パート職員)
困難さを抱える子どものための居場所運営・学習支援スタッフ
■災害時子ども支援「sonaeru」
災害時の子ども支援を最前線でリードする「sonaeru」運営スタッフ

Writer

編集部 編集部

KATARIBAMagazine編集部が担当した記事です。

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