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偏差値には現れない“その子の力”が発揮される子どもの居場所「ひみりべ。」ってどんな場所?

vol.329Report

2023年12月にこども家庭庁が「こどもの居場所づくりに関する指針」を閣議決定するなど、今、子どもが安心して過ごせる居場所の必要性が認識されるようになっています。

これまでカタリバは、10代の意欲と創造性を育む居場所「ユースセンター」を運営するほか、2022年からは全国各地でユースセンターを運営する・運営したいという団体・個人を支援する「ユースセンター起業塾」としての活動を行ってきました。

今回はユースセンター起業塾の二期生で、富山県氷見市で活動している、一般社団法人D-live(以下、D-live)代表の西田朱里さんにインタビュー。西田さんは2020年、地域おこし協力隊として氷見に移住し、県立氷見高校の探究学習をプロデュースする地域魅力化コーディネーターに。2021年にはD-liveを設立し、2023年4月にユースセンター「ひみりべ。」を正式オープンしました。

中高生がイベントやプロジェクトの企画、運営に積極的に関わっている「ひみりべ。」。その設立の経緯や現在の活動、中高生たちとどのように関わってきたかなどをお伺いしました。

将来にモヤモヤしている子どもたちが
「やりたいこと」と出会える場を

——西田さんが「ひみりべ。」を始めることになった経緯を教えてください。

2020年に東京の人材会社を辞めて地域おこし協力隊として氷見市へ移り、探究学習プロデューサーとして氷見高校に着任しました。この仕事に就いたのは、進学や就職を控えた高校生の視野を広げるサポートをしたいという想いがあったからです。その背景には、学生時代の進路選択に対する後悔がありました。

私は神奈川県横浜市で生まれ育ち、高校時代は部活に打ち込んでいました。しかし3年生になっても自分の将来の夢を明確に描けず、不安を抱えながら、とりあえず文系の大学を受験し、合格した中で最も偏差値の高い大学に進むことに。社会人になってから「中高時代にもっと社会のこと、自分のことを知る機会があったら」と感じ、高校生たちに同じ思いをさせたくないという想いから高校での活動を始めました。

授業の中で地域社会とつながる機会をつくることにやりがいを感じていたのですが、「もっと探究したい」「もっといろんな人と話したい」といった子のための場所があったら良いなと感じるようになって。そこで、「ひみりべ。」を立ち上げることにしました。

——「ひみりべ。」で実現したいことはなんですか?

将来にモヤモヤしている氷見の子どもたちに、自分のやりたいことについて本音で楽しく語り合える場、社会や自己について考える機会を提供したいと考えています。そして、納得して進路や将来を選択してほしい、と。

氷見は公共交通機関が少ないため移動には保護者の送迎が必要ですし、安心できるサードプレイスもないため、子どもたちは普段、家庭と学校という2つの世界だけで生活しているように感じていました。情報源も限られるので、自分の「やりたいこと」を見つけるのが難しく、「偏差値の高い学校」「安定した仕事」という基準で将来を考えがちです。

氷見高校では毎年 “とりあえず” で看護師を志望する子が少なくないのですが、その姿にはかつての自分が重なります。看護師や教師は生活の中で出会う機会が多いため、選択肢に入りやすいのでしょう。

——納得した進路選択を実現するための形がユースセンターだったのでしょうか。

リノベーションをしながらイベントなどを開催していたが、2023年4月に「コミュニティ・スペースひみりべ。」として正式オープンした

家庭と学校以外の「いつ来てもいい、子どもが自由に過ごせるスペース」をつくりたいと考えていたら、その形がユースセンターだった、というのが正しいかもしれません。島根県隠岐島前にある公営塾「隠岐國学習センター」のような場所をイメージしていたのと、私自身もそんな場所があったら楽しそうだなと感じていました。

団体としての活動を始めた2021年に、氷見駅前の空き家を借りてリノベーションし、そこを活動拠点としました。その後2023年4月に「コミュニティ・スペースひみりべ。」として再スタートした形です。

「ひみりべ。」は子どもたちに“違和感” を提供する居場所

——現在の活動について教えてください。

「ひみりべ。」をコミュニティ・スペースとして週に3~4日開室しているほか、不定期でのイベントや英語塾などを開催しています。私以外にも近隣大学の学生がスタッフとして関わってくれています。

利用者は中高生ですが、高校生が多いですね。スタッフとおしゃべりやボードゲームをしにくる子、勉強を教わりに来る子、自分のプロジェクトの活動をしている子、駅前なので電車待ちをしている子、親が迎えに来るまで時間をつぶしている子、イベントのときだけ遊びに来る子など、過ごし方はさまざまです。

——ユークワークの中では、どんなことを大切にしていますか?

日常的な会話から、子どもの好きなこと、得意なことを拾い上げるよう意識しています。魚釣りが好きな子と魚を釣ってみんなで調理したこともありますし、よく暇つぶしに来る子に棚づくりなどをお願いしていたら本人がDIYに目覚めたなんてこともありました。

進路の相談を受けることもしばしば。偏差値だけにとらわれず、子どもの興味関心や価値観を深掘りして聞くように心がけています。子どもたちの「自分はこうしたい」という気持ちを大事にする存在でいたいと思っています。

建築を学ぶ大学生と企画した「リノベ部」では、小上がり・階段・収納を兼ね合わせる木箱をつくった

地域の方々や近隣大学の学生、スタッフの知人など多様な人たちとつながりを持ち、中高生が家と学校の往復では出会えない大人と気軽に話せる場にすることも大切にしています。先日、スタッフと「『ひみりべ。』は違和感を提供する場所だよね」と話していたんですよ。日常生活にはない時間や経験に触れて、中高生の視野が広がったら嬉しいですね。

——不定期のイベントにはどんなものがあるのでしょう?

中高生との会話からこちらが発案することもあれば、中高生が主体となって企画・運営してくれるものもあります。

例えば「志望校の進学はこのままだと難しいから途中編入のルートを考えよう」と、ある子どもと話していたら、別のスタッフが全く同じ選択をした友人を紹介してくれて、進路座談会に発展したことがありました。

進路座談会の様子

——中高生主体のイベントにはどんなものがありますか?

大人たちで企画した、氷見で頑張る大人に会いに行く「氷見ツアー」に参加した高校生たちが、そこで気づいた氷見の魅力を伝えるマルシェを、自分たちで企画・開催したことがありました。その経験がきっかけとなり、参加者の一人は「まちづくりを学びたい」という夢を持ち、大学にも進学しました。

学生団体と開催した氷見まちづくりワークショップ

現在進行中のものでいうと、「ひみりべ。」の2階にレンタルスペースを作るプロジェクトが動き出しています。高校生が企画から実行まで自分たちで進めていて、今は協賛金を募っているところです。勉強はそんなに好きではないけれど、思考力や企画力、やり遂げる力が高い子たちが活躍する姿を見ることもできます。

学校とは違うキャラクターを見られるのが、ユースセンターのいいところですよね。偏差値には現れないその子の力が発揮されている場面を見ると、「いいぞ!」と思います。

「ひみりべ。」で過ごした中高生が
いつか “仲間” として戻ってきたら

——中高生と一緒にユースセンターをつくることは、初めから意識していたのですか?

はい。物件のリノベーションをするときから、一緒にやろうと周囲の高校生に声をかけていました。ただ、正式オープン後に定期的に高校生が通ってくれるようになるまでには苦労もありました。学校では一民間団体が大々的に広報することはできなかったので、私が仲良くなった子たちに声をかけるのが、唯一の手段で……。

また、来てくれた中高生もすぐに積極的に関わってくれるわけではありません。まずは「安心安全な場所」だと思ってもらえるように楽しく話しかけることに徹して、少しずつ心を開いてくれるのを待ちました。

だんだん関係性ができてくると、定期的に来てくれるようになったり、友達を連れてきてくれたりする子が増えていきました。

——一回一回の出会いを大切にしてきたからこそ、信頼関係が築けたのですね。

2024年3月に行われた活動報告会で報告をする西田さん

昨年度末に、中高生や地域の方々、行政関係の方、市や県の議員の方などを招待して活動報告会をしたのですが、そこで中高生が「ひみりべ。」について話してくれた言葉が印象的で。

「やってみたいことをやらせてくれる環境があってよかった」「親や学校の先生とは違う意見を言ってくれる」「親身になって話を聞いてくれる」「友達じゃないけど先生でもない、その中間みたいな感じが心地良い」といった言葉を聞いて、報われた気持ちになりました。

——これから「ひみりべ。」をどんな場所にしていきたいですか?

利用者の数を増やし、子どもたちの活動の幅を広げるためにも、もっと多様な使い方ができる場にしたいです。今すくいきれていない子や、何もしないで過ごしたい子、静かに勉強したい子たちの居場所にもなりたい。今年度からは氷見高校の探究学習もより本格化しますし、学校外で相談したいときの受け皿にもなれればと思っています。

さらに今年度は、高校生が企画する小中学生向けの自然教室も予定しています。年下の子と遊ぶのが好きな高校生が多いですし、他県にある「ジュニアリーダー」のような文化が氷見にも根付くと良いな、と。

——最後に、今後の目標について教えてください。

経営的には、資金面・人材面で持続性を担保すること。私が「ひみりべ。」を卒業して、ユースセンター起業塾からの助成がなくなっても運営が続けられるようにしたいです。

学校・地域・自治体などとも、より深く関わっていきたいですね。氷見高校の探究学習には地域起こし協力隊として関わってきましたが、私の協力隊としての任期は今年度までなので、来年度はD-liveとして探究活動の支援に携わることを目標としたいです。

地域の方々とは、3月の活動報告会で中高生とこれからどんなことができるかを話し合えたので、そのアイデアを一緒に形にしていくつもりです。そして将来的には、ここに通っていた中高生が大学卒業後に「『ひみりべ。』で働きたい」「地域に関わりたい」と戻ってきてくれる日が来たら、すごく嬉しいですね。


 

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Writer

有馬 ゆえ ライター

ライター。1978年東京生まれ。大学、大学院では近代国文学を専攻。2007年からコンテンツメーカーで雑誌やウェブメディア、広告などの制作に携わり、2012年に独立。現在は、家族、女性の生き方、ジェンダー、教育、不登校などのテーマで執筆している。人の自我形成と人間関係構築に強い関心がある。妻で母でフェミニストです。

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