リアル×オンラインで広げるこれからの若者の居場所とは―こどもの居場所部会での議論と発表を通じて―
member_voice
中島 典子 Noriko Nakashima キッカケプログラム
1991年生まれ、京都府出身。創価大学卒業後、メガバンクに入行し、法人営業やM&Aのアドバイザリー業務に従事。第一子の育休中にNPOや企業でボランティア活動に参加、社会を見る視点が広がったことで復職後にITベンチャーへ転職。その後、教育に関わりたいという想いからカタリバへ。「キッカケプログラム」で事業開発・運営全般などを担当。現在は「キッカケプログラム」事業責任者。
こども家庭庁の「こどもの居場所部会」では、今年度から若者世代の居場所づくりが大きなテーマとなっています(居場所づくりの現在地は、こちらの記事をご覧ください)。
私は今年度よりカタリバを代表し委員として参加しています。今回は主に第18・19回の議論で感じたことについてまとめました。
若者が居場所を持つために大事な3つの観点とは
3名の有識者から若者の居場所づくりに関する事例共有が行われた第18回を通して、若者が居場所を持つためには 「人」「アクセス」「つながり」の3つの観点が欠かせないと感じました。
1.「人」が居場所をつくる
今回の事例共有のなかで、「投資すべきは箱ではなく人」との発信がありました。
子どもの居場所では、場所という「箱」以上にその場に関わる人の役割が重要ですが、現実は「人が採用できない」「いま利用している子どもの対応に手一杯」など、場はあっても人がいない/活かし切れていない状況も見られます。
若者は、その空間で誰かに受け入れられて初めて「自分の居場所」と感じます。
進学や就職で地元を離れる前にこの経験ができると、社会で困難に直面したときの支えになります。
一方で、多くの地域に「場」はあるのに、若者が居場所と感じられていない現状を耳にすることもあります。
カタリバでは図書館に着目し、10代の居場所を開設。運営の一部を司書や図書館員が担っていくことができないかという実証を行っています。
重要なのは今ある場を若者が“居たいと思える場”に変えること。そのために、今ある場に携わる方々の役割をどう再定義するかの視点が欠かせません。
2.誰ひとり取り残さないために ― 「アクセス」の壁を超える
交通の不便さや心理的なハードルから、若者は身近にない居場所へ足を運びにくいのが現状です。 「場をつくった」で終わらせず、その町に住む若者が通いやすいか、行きたいと思える場になっているかを常に問い続けることが重要です。
特に、「これまで居場所につながれなかった子が一人でもつながれたか」という視点こそが重要なのではないでしょうか。
自治体の働きかけで市営バスの停留所が居場所前にできたおんせんキャンパスや、町のあらゆる場所で居場所を設ける三宅町は、「誰ひとり取り残さない」の実践を進めています。オンラインの居場所づくりもそのひとつです(詳細は後段に記載)。
3.居場所は「つながり」を育む場である
「安心して過ごす」だけでなく、そこから人や地域との“つながり”を育むことこそが居場所の本質だと考えます。
居場所は終着点ではなく中継地点。安心して留まれると同時に、外の世界へ一歩踏み出せる“扉”。
若者が新しい価値観や関係性を得て、地域社会と再びつながるハブであることが求められます。
カタリバでは居場所で出会った若者たちが、地域社会に一歩踏み出して活動することを大事にしています。b-labでは地域での様々な挑戦をサポートしており、中高生が自主企画した活動の数は1年間で71件にのぼります。また、別の子どもの居場所では、地域のマルシェに参加したことで大きく成長した若者の様子を目の当たりにすることもできました。
オンラインが補う若者のための居場所づくりとは
第19回ではカタリバでのオンラインの居場所の取り組みを、事例として発表しました。
オンラインは、リアルだけではつながれない若者の「新たな居場所の選択肢」となり、その先のリアルにつながる“糸口”にもなります。
今までの居場所づくりに関する議論を踏まえて、オンラインの特徴を次の3点に整理しました。
- 補完的役割:リアルで届かない若者に届く
- 拡張的役割:地域を超え、多様なつながりを生む
- 固有の役割:匿名性や距離感が生む安心と気軽さ
ある高校生は、「同じオンラインでも、オンラインゲームでは相手が誰かわからず表面的な話しかできない。でもオンラインの居場所では顔が見えて安心できるから、大事なことも話せる」と話してくれました。
バスが1時間に1本しか走らない地域で暮らし、学校を辞めていた彼にとって、このつながりはかけがえのない支えでした。
“近すぎず遠すぎない関係性”が、オンラインならではのつながりやすさを生むのだと実感すると同時に、オンラインだからこそ、「地方で移動が難しい」「対人関係が苦手」「家族のケアで外出できない」といった若者に新たな選択肢を届けられることも再認識しました。
その他にも、
・時間や場所の制約を超えて、一人ひとりの話に耳を傾けやすい
・地域では出会いにくい仲間とつながり、多様な価値観に触れられることから、特定の興味や悩みを共有する“マイノリティなニーズ”にも応えやすい
・地域をまたぐ進学・転居で途切れがちだったつながりを保ちやすい
といった効果もあります。
オンラインは、心の揺らぎが大きい思春期世代の若者にとって、切れ目のない支援の一助になるのではないでしょうか。
「オンラインの価値を活かしきれているか」
私の中で残った問い
改めて、 「オンラインだからこそつながれている若者が確実にいる」と強く感じることができたと同時に、「もっと出会うべき若者がいるのではないか」「この価値を十分に活かせているのか」という問いも残りました。
また、同じくオンライン居場所に取り組むNPO法人第3の家族 奥村委員の発表では、「夜の公園のような開かれた場」というアプローチが紹介されました。
あえて対象を絞らず誰でも来て良い場としつつも、実際に来るのは悩みを抱えた若者たち。この「ゆるやかに開かれた場」には、私たちの実践にはない強みがあります。
どの役割(補完・拡張・固有)を重視するかで場の設計は大きく変わります。だからこそ、多様な実践が増えることで、より多くの若者をカバーできるのだと感じました。
まだまだ根強い「オンラインへの懸念」
部会全体を通じて感じたこと
議論の中では、オンラインに対して依然「リスクへの懸念」が強い現状も感じました。
同時に、オンラインが今の若者にとってどんな意味を持つのかを私も含めた大人が十分に理解できていないのではないかとも感じました。
リスクをゼロにするのではなく、リスクと向き合いながら良い側面を活かす。
そのために、社会の変化に合わせて大人がリテラシーを高め続け、その時々に合った居場所にアップデートする姿勢が重要なのではないでしょうか。
オンラインの居場所をどう位置付けていくべきか
私は、オンラインはリアルの代替ではなく相互補完の関係であり、オンラインも社会的インフラの一部として位置づけるべきだと考えています。
そのうえで、「オンラインならでは」のいくつかの観点があると感じています。ひとつは、オンラインの特性を理解したうえで若者に関わることのできる担い手を確保する・育成するという「人材」の観点です。
また、自治体単位でオンラインの居場所を運営しているケースでは、進学や転居を機につながりが途切れやすいため、国が知見と情報を集約し、共通の枠組みを整えることが必要です。
同時に、地域ごとに課題や文化が異なるからこそ、地域の実情に合わせた協働も欠かせません。オンラインとリアル双方の良さを生かし、「居場所を育む」という共通の目的でつながる仕組みも大切だと考えています。
カタリバでも、オンラインとリアルの双方の良さを活かしつつ地域と連携する実践を進めています。現在国が配置を進める居場所づくりコーディネーターが、オンライン活用の視点も持って地域全体をコーディネートできるかが今後重要な鍵になるのかもしれません。
どの子も「居場所がある」と感じられるように
居場所づくりとは、場所をつくることではなく「関係を育てること」。リアルでもオンラインでも、そこに人がいて、対話があり、つながりが生まれる。
リアルだけでは出会えない若者にオンラインで出会い、そこからその若者が再び地域社会につながっていく。これからの社会にはそんな仕組みが大事なのではないでしょうか。
第18・19回で、様々な居場所づくりの実践報告をもとに、若者の居場所づくりにおいて重要な論点を整理するための“種まき”を行ってきました。
そして、第20回以降の部会では、具体的な論点に沿って若者の居場所に関する議論をさらに深めていっています。
どんな環境に生まれ育っても、どの子も「自分の居場所がある」と感じられる社会へ。現場と政策の両面から、これからもその実現に向けて取り組んでいきたいと思います。
関連記事
・すべてのこども・若者に居場所を届けるーこどもの居場所づくりの現在地
・「子どもが夢をあきらめない世の中へ」新卒でメガバンクへ就職した彼女が、カタリバを選んだわけ/NEWFACE
カタリバで働くことに関心のある方はぜひ採用ページをご覧ください