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「えびの市の温泉をPRする」プロジェクトに取り組んだ高校生が経験した挫折と成功[マイプロ高校生のいま]

vol.289Interview

地域や身の回りの課題など、高校生が自分の関心を軸にプロジェクトを立ち上げ、実行する経験を通じて学ぶ「マイプロジェクト」。これまで「在来種のタンポポの生態を探究する」や「ウーバーイーツを学校内で実現する」など、高校生たちによってさまざまなユニークなプロジェクトが立ち上げられてきました。

カタリバでマイプロジェクトの取り組みが始まってから10年。この節目に、過去にマイプロジェクトに取り組んだ先輩たちのインタビュー連載「マイプロ高校生のいま」が始まりました。

高校時代のあの日の経験は、 “いま” どのような影響を与えているのかー。

マイプロジェクトや探究学習を通じて “過去” 得たもの、また、 “いま” に活きていることについて聞いていきます。

第三弾では、宮崎県立飯野高校で「えびの市の温泉をPRする」というマイプロジェクトに取り組んだ川野七海(かわの・ななみ)さんが登場。最初は探究学習に積極的になれなかったものの、最終的にはマイプロジェクトでの学びを活かし、社会課題の解決に取り組む大学・学部に進学しました。

この春、新社会人として新たな一歩を踏み出した川野さん。マイプロジェクトに没頭し、実りのある時間を過ごした高校生時代や、その後の大学進学について話を伺いました。

“やらされている感”で進めた結果、
探究活動で挫折する

えびの市の温泉PRに取り組む川野さん

――マイプロジェクトに取り組むに至った経緯を教えてください。

私が通っていた宮崎県立飯野高校には、「地域探究活動」という独自の探究学習カリキュラムがありました。そこでは生徒全員が各班に分かれ、「えびの市の温泉をPRする」というテーマでえびの市長にプレゼンを行います。

地域探究活動に取り組むのは、高校2年生の頭から高校3年生の夏頃まで。その後も探究学習を続けたい生徒のみ、「マイプロジェクト」として続ける流れです。

――川野さんは、自主的にマイプロジェクトに取り組まれたのですか?

実を言うと、最初はマイプロジェクトに対して消極的でした。

私はもともと人と一緒に何かをすることが苦手で、地域探究活動で班になって学習を進めることにも抵抗があったのです。そのため、当時は言葉を選ばずに言うと“やらされている感”がありました。

考えに変化が訪れたのは、地域探究活動でえびの市長へのプレゼンを終えたとき。当時抱いた「不完全燃焼感」から、マイプロジェクトで探究活動を続けてリベンジしたいと思ったのです。

――不完全燃焼、と言いますと?

プレゼンでは「えびの市の食材で大きなパフェを作り、SNS上で流行らせることで温泉のPRにつながる」という提案をしました。すると市長から、「この企画が温泉にどう結びつくのか?」とご意見をいただき、いかに私たちの考えが短絡的であったかを痛感しました。

今思い返せば、地域探究活動に積極的でなかったゆえに、関係者へのヒアリングなど能動的な行動が足りなかったことが原因です。私がチームのまとめ役を担っていたこともあり、本当に悔しい思いをしましたね。

「高校生」ではなく、
一緒にえびの市を盛り上げる「仲間」として向き合う

――悔しい思いをした結果、マイプロジェクトに本格的に取り組むことにした川野さん。どのように進めていったのでしょうか。

実は、マイプロジェクトに本格的に取り組む前に台湾へ約1か月間、留学に行きました。もともと国際関係に興味があったのもありますし、海外ではどのように温泉をPRしているのか見てみたいと思ったのです。

その結果、温泉街で有名な台湾ではマイプロジェクトに活かせる学びを多く得られました。例えば台湾では、古い施設をリノベーションした持続可能な観光スポットが特徴的。また、温泉が密集している地域ごとの統一感のある雰囲気作りやPRにも力を入れています。

えびの市も「京町温泉郷」という形で温泉が密集しているので、台湾のPR手法を活かせるのではないかと考えました。そんな考えをもった状態で帰国。地域探究活動から学習を進めていた他の班へ新たに私が加わり、マイプロジェクトがスタートしました。

マイプロジェクトの地域Summitに出場している様子

――マイプロジェクトを進める中で、大変だったことはありますか?

チームメンバーと意見がぶつかったときの合意形成です。

他のメンバーは地域探究活動の頃から関係者へのヒアリングを重ねており、そこで得た学びをもとに意見を出してくれました。一方、私は台湾留学での学びをもとにした提案が多く、バックグラウンドの違いから意見がたびたび衝突してしまったのです。

――どのように乗り越えたのでしょうか。

正直、私の意見に周りが譲歩してくれた場面もたくさんあります。でも、私も自分の意見を押し通すばかりではなく、まずは相手の意見に耳を傾け、最適解を探るように心がけました。

マイプロジェクトに限らず、今後自分がチームで物事を進めるうえでのコミュニケーションを改めるきっかけにもなりました。

――他にマイプロジェクトに取り組んでいて印象的だった出来事はありますか?

関係者から「このままでは難しいから、他にこういう方法を考えた方が良いよ」と、企画に対する率直なご意見をいただいたことです。

私たちを高校生ではなく「一緒にえびの市を盛り上げる仲間」として見てくださっているのが伝わり、よりいっそう身が引き締まりました。

――最終的に、どのような企画を提案したのでしょうか。

京町温泉郷の各温泉がPR用の提灯を制作して駅に飾り、京町温泉郷としての統一感のあるPRを行う企画です。また、温泉水を使った水鉄砲を楽しめる「えびのスプラッシュフェス」を企画し、高校卒業後、大学1年生の夏に開催しました。

いずれもえびの市の温泉の女将さんが集まる「京町温泉みなほ会(以下、みなほ会)」の方々や地元の住民とも話し合いを重ね、実現した企画です。

――マイプロジェクトに取り組んで成長したと思える点はありますか?

論理的に物事を考える力が身についたことです。

地域探究活動では、「もっと関係者の話に耳を傾けるべきだった」「より温泉に結びついたPR方法が必要」など多くの学びを得ました。その後取り組んだマイプロジェクトでは地域探究活動での失敗を踏まえ、メンバーやみなほ会の方々と何度も話し合い、納得のいく形で終えられました。

地域探究活動やマイプロジェクトに取り組んだことで、議論ではただ闇雲に発言するのではなく、これまでの経験・学びをもとに、筋の通った意見を出せるようになりましたね。

プライドを捨て、
わからないことは「わからない」と言えるように

――続いて、川野さんの進路選択についてのお話を聞かせてください。

マイプロジェクトでの経験を通して、課題解決に興味を持ちました。将来はさまざまなバックグラウンドをもつ人の悩みを解消する、ソーシャルイノベーターになりたいと考えています。

そこで選んだのが、九州大学の共創学部。分野を問わず「地域・世界の社会課題を解決したい」という熱意をもった人が集まる学部です。マイプロジェクトにも通ずる要素があり、先生からAO入試をすすめていただきました

面接では、マイプロジェクトや留学の経験をもとに、自分のやりたいことをお話ししました。温泉郷のPRという「課題」に向き合った経験があるからこそ、説得力のある話ができたと思います。面接官の方にも熱意を褒めていただき、晴れて入学が決まりました。

――実際に入学してみて、いかがでしたか?

同級生のレベルが高く、自分の力不足を痛感しました。

マイプロジェクトや留学などの経験から、学びには自信をもって入学したつもりです。でも、同級生は学問に秀でている人ばかり。グループワークでは、話についていけないことも多々ありました。

そこから過去の自信やプライドを捨て、わからないことは「わからない」と素直に相談するように。周囲の助けもあり、少しずつ乗り越えられました。

――グループワークでは、チームメンバーとの衝突はありましたか?

マイプロジェクトの頃とは異なり、メンバー同士が衝突する姿を見る立場になる機会が増えました。その際、私は彼らの仲介役を担い、双方の意見の共通点を見つけて折衷案を提案していました。

マイプロジェクトで学んだチーム内でコミュニケーションを取る術を活かし、グループワークを円滑に進められたのではないかと思います。

答えがないから、考える。
生徒たちを見守ってほしい。

マイプロジェクトの全国Summitで発表する川野さん

――マイプロジェクトでの経験を経て、探究学習に関わる先生方に伝えたいことはありますか?

答えそのものではなく、アプローチの方法のヒントを導いてほしいです。

私がマイプロジェクトで行き詰まったとき、先生に「どうしたらいいですか?」と質問しても答えを教えてくれませんでした。当時は納得がいきませんでしたが、結果として「温泉郷の活性化」という答えのない問いに対して考え続け、自分たちなりの答えを導き出せたのです。

生徒が悩んでいる姿を見ると、先生は思わず手を差し伸べたくなるかもしれません。そこをグッと堪えて見守ることで、生徒の大きな成長につながるはずです。

――続いて、これからマイプロジェクトに取り組む高校生へメッセージをお願いします。

マイプロジェクトを通して感じる、「楽しい」を大切にしてください。

探究学習が必修化されたことで、かつての私のように、必ずしも学習に積極的になれない人もいるでしょう。

でも探究学習を進めるにつれて、少なからず「楽しい」と思えるポイントがあるはずです。「議論が楽しい」「地域の人と話すことが楽しい」など、どんな些細なことでも大丈夫。「楽しい」を突き詰めていけば、マイプロジェクトはきっと意味のある時間になります

今年の春、女性の支援を行うIT企業に就職した川野さん。「地方出身ということもあり、女性への偏見には以前から課題を感じていました。今後は女性や夫婦が生きやすくなるサービスの提供に携わりたいです」と明るく語ってくれました。

彼女がマイプロジェクトを通して抱いた「課題解決をしたい」という熱意は、社会人として新たな一歩を踏み出した“いま”にも活きづつけています。


 

■2023年度マイプロジェクトパートナー登録を受付中

マイプロジェクト事務局では、高校生の探究・プロジェクトに伴走される先生方・教育関係者の方に無料でご利用いただける「パートナー登録制度」を用意しています。主体性を重視して「総合的な探究の時間」を推進している高校さんの事例を、勉強会やアーカイブ動画でご紹介しているのでぜひご検討ください。

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Writer

大島 彩花 ライター

ライター/エンジニア 1996年生まれ。栃木県出身。首都大学東京(現:東京都立大学)にて都市政策を専攻。卒業後はSIerとして生命保険会社のシステム設計・開発に従事。その後、個人事業主としてライターのキャリアを本格的にスタート。現在は独立し、IT系・教育系メディアにて、取材記事やイベントレポートを中心に執筆。

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