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「オンライン活用の手応え、そして難しさ」 あの子にまなびをつなぐプロジェクトReport #02

vol.169Report

日本国内に最初のCOVID-19感染者が出てから9ヶ月。2学期に入り、学校行事を縮小するなどして感染軽減対策を行いながら、子ども達が通学する姿が各地で見られるようになっています。しかし、まだまだ以前の日常が戻ってきたわけではなく、見えないところで生きづらさを抱えて苦しむ子どもたちや家庭が多くいます。

厚生労働省によると、今年8月の小学生から高校生までの自殺者数は59人(『自殺の統計:地域における自殺の基礎資料』)。昨年8月の28人から倍増し、命を絶つ子どもが増えていることがわかっています。また総務省によると、コロナ以前は2.4%ほどだった完全失業率は8月に3.0%に悪化。特に女性の非正規雇用者がダメージを受けており、完全失業者は200万人を超えました。

カタリバでは、少しでも私たちにできることをやろうと、「あの子にまなびをつなぐ」プロジェクトとして、生活困窮世帯の子どもたちに向けた支援を3月から始めました。6月から8月にかけて実施したクラウドファンディングでは、想いに共感してくださった累計2014人の方より、合計3250万円を超えるご寄付をいただきました。

その資金をもとに、今どんな支援を届けているのか、今後の展望は何なのかをレポートしていけたらと思います。

*あの子にまなびをつなぐプロジェクトの概要を詳しく知りたい方はこちら

プログラムに少しずつ
慣れてきた子どもたち

3月の全国一斉休校中にカタリバが立ち上げた、オンライン上の子どもたちの居場所「カタリバオンライン」。その中で、”無料のオンラインプログラムがどんなにたくさんあっても、PCやWifiがなくて参加できない”という家庭がたくさんあることに気付きました。

経済的な理由で子どもたちを取り残したくない。そんな想いを持って、全国の生活困窮世帯の学齢期の子どもたちに無償でPCとWifiを貸与し、学びの機会を届ける「カタリバオンライン・キッカケプログラム」を始めました。

最初は困っている家庭に情報を届けることに苦労したものの、メディア等で紹介いただくことも増え、全国各地から応募が相次ぐように。現在は就学援助等の公的経済支援を受給している小学校1年生~高校3年生に、機器を貸与しています。

子ども達に学びを楽しいものだと思ってもらえるよう、パソコンをギフト包装して自宅に発送しています

子ども達がオンラインで活用する学びのプログラムは、株式会社COMPASSのAIドリル「Qubena(キュビナ)」、株式会社すららネットのオンライン教材「すらら」、株式会社ワクワーク・イングリッシュの世界とつながるオンライン英会話「WAKU WORK ENGLISH」などを、各社が無償で提供くださいました。

最初は「パソコンってどう使うの?」「電源が入らない、壊しちゃったかも」という質問が家庭から相次いでいましたが、だんだんとパソコンの使用に慣れてきた子どもたち。「勉強の習慣がなかったけれど、放課後に兄妹で毎日10分ずつQubenaを使うのが習慣になりました」という保護者からの声や、「すららを使って復習することで、数学のテストで100点がとれた」という声も届いています。

*以前にカタリバマガジンの”代表のつぶやき”で紹介した、学年トップの成績になったアイちゃんも、テスト前にすららを活用していると話してくれました。

「奨学パソコン」を借りて、中1長女の成績が学年トップに。複数の困難を抱える「ひとり親家庭」の希望[代表のつぶやき]

また、ただ学習プログラムを提供するだけでなく、メンターが子どもたちに定期的に伴走していくのが、キッカケプログラムの1番の特徴。現在、利用者の半数以上に伴走を開始しており、来年には貸与者全員への伴走を開始するため準備を進めています。最初は「何を話せばいいんだろう」とメンターとの面談に緊張していた子どもたちとも、だんだん信頼関係が生まれてきています。

「人との関わりで大事なことを伝えたい」
子どもたちに伴走するメンター

子どもたちと定期的に面談し、オンライン越しにナナメの関係をつくるのが、小学生対象のキッズメンターや、中高生を対象とするユースメンターです。現在では25人のキッズ・ユースメンターが参加しています。

ユースメンターは、週1回、定期的に1対1で面談。1週間どのように過ごしたか、学校はどうだったか、来週一週間の目標は何にするか、興味あることややってみたいことなどを、zoom上で対話します。

ユースメンターの1人が、大学生の友莉さん。大学では社会福祉を専攻しており、コロナ流行以前は、カタリバが高校で実施する”出張授業カタリ場”に1年半ほどインターンで関わっていました。今年8月からメンターとして活動しています。

友莉:「現在は、5人の中学生を担当しています。最初は質問したことにだけ答える感じだった子が、2ヶ月間面談を重ねていく中で、だんだん質問以外のことも話してくれたり、心を開いてくれるのが嬉しいです」

不登校で学校に行っていない、昼夜ダブルワークで保護者が不在がちなど、いろんな背景の子どもが居ると話す友莉さん。気持ちを話すことが苦手で、面談の時間になっても子どもが現れなかったり、連絡がつかなくなることもあります。

友莉:「自分から主体的に取り組んでもらうのは難しいこともあり、さぐりさぐり工夫しています。メンター側がムリに子どものすることを決めすぎないよう、少しずつ相手の意見を待ちながら、関わっています。リアルの場で得られた非言語的な様子が画面越しには汲みとりづらい時もありますが、チャットなども活用しながらコミュニケーションを取っています」自宅でパソコンを使う子どもの様子。対面で話すのが苦手な子も、チャットではたくさん話してくれることも

オンラインプログラムなので、近くには保護者がいることが多く、なかなか子どもだけの居場所は作りづらいのも、難しさの1つ。ヘッドホンをかぶりながら、家族に聞かれないように小さな声で、気持ちを話してくれる子もいると話します。

「子ども達に関わりの中で目指していることはありますか?」と聞くと、こんな風に友莉さんは話しました。

友莉:「『週1回ちゃんと面談する約束を守ろうね』『もし約束に遅れたら相手に謝ろうね』とか、人との関わりにおいてこういうことが大事なんだよってことを、わかってもらえたら嬉しいですね。勉強をちゃんとやるとか学習面のことだけじゃなくて、社会の中で生きていく上で大事なことを伝えていけるといいなと思います」

「子どもだけじゃなく、自分にも居場所ができた」
保護者支援に手応えも

また、保護者にもメンターをつけているのが、キッカケプログラムの特徴の1つ。現在は35人のペアレントメンターがおり、各家庭と月1での面談を進めていっています。

ペアレントメンター達とやりとりするなど、保護者支援を中心となって担当しているのが、カタリバ職員の富永みずき。富永は、自身にも親との関係に悩んだ時期があり、「親子での愛着形成が子どもの人生に大きな影響を与えるんじゃないか」と考えていたそう。教育系の民間企業から転職して、8月からキッカケプログラムに関わっています。

高円寺のカタリバ事務所でペアレントメンターたちとミーティングする職員・富永

富永:「9月初頭は、コロナで収入が減ったという保護者からの相談が多くありました。シングルのご家庭や非正規で働かれている方も多いため、コロナによる影響はとても大きいようでした。最近は、子どもがどんどんパソコンに慣れていくがゆえに、付き合い方に悩むご家庭がある印象です」

これまでパソコンを持っていなかったご家庭に新しいパソコンが届くと、「どれくらいの時間なら使っていいの?」「学校の紙の宿題よりパソコンをやってしまう」などの悩みを持つこともあります。子どもや希望する保護者へはデジタルシチズンシップ研修を行い、それでも不安やわからないことがある方へは、個別にサポートをしています。

また、ペアレントメンターとキッズメンター・ユースメンターは情報を共有し、家庭内がうまく行くように橋渡しを行うようなこともあります。

富永:「先日、『子どもが頑張ってるのを褒めたいけど、1対1だとなかなかうまくできない』と相談してきたお母さんがいました。それをペアレントメンターからキッズメンターへと共有して、『お母さん、こんなところを褒めてたよ』と子どもに伝えて。第三者から言われると素直に聞ける部分もあるのか、子どもも嬉しそうでした」

ペアレントメンターには、多様な経歴の人たちが関わっており、定期的に情報共有を行っている。保護者にも”ナナメの関係”をつくるのは、カタリバとしても初めての取り組み

子どもとうまく関われないという保護者にも、叱ったりはせずに「とにかくあなたの味方ですよ」と伝えることを大切にしているというペアレントメンター。ただ、中には、仕事を失ったり病気が悪化したりと、メンターが話をきいて伴走するだけでは解決しない困り事が起きる場合もあります。

富永:「大きな困り事を抱えた保護者へは、専門家や専門機関をご紹介することもあります。悩んでいた親御さんから『子育てに対する見方が変わって、関わり方が改善されました』『不登校だった娘が学校に通いたいと話すようになりました』と報告をいただくと、ほっとします」

最初は面談を億劫に感じていた保護者もいましたが、10月に行った保護者アンケートでは、保護者面談の満足度は10点満点中平均8.9。「まわりに話せる人がいなかったけど、話を丁寧に聞いてくれてすごく助かっています」「面談が月1回じゃなくて月2回あればいいのに」「子どもだけじゃなく、自分にも居場所ができたように思います」という言葉が、保護者からは届きました。

富永:「まだ関わり始めて2ヶ月ほどですが、保護者への伴走支援に手応えを感じています。保護者と関係性をつくることで、子どもとの関係性の悩みや保護者の困り事をいちはやく知ることができる。保護者の困り事が解決されて1人で抱えている荷物を降ろすことで、子どもとの向き合い方もよくなっていく。こうした支援の形がもっと多くの困っているご家庭に広がったらいいなと思っています」

より多くの子どもたちに、
支援を届けられる未来を目指して

保護者にはペアレントメンターが伴走し、子どもにはキッズメンターやユースメンターが伴走する。そして必要に応じてメンター同士が情報を共有し、場合によっては専門機関とも連携する。

カタリバはこれまで各拠点を運営しながら子どもへの学習支援や伴走を担ってきましたが、保護者も含めての定期的な伴走を行っていくことは初めてのチャレンジでした。もしコロナ以前の社会の中で、同じことを対面でやるとなると、移動コストなどがあって難しかったかもしれません。

オンラインを活用することで、これまではなかなかアプローチが難しかった地方在住の家庭へも支援を届けられる。保護者と子ども双方にアプローチして面的な伴走支援を行うという新たな学習支援とソーシャルワークの可能性が、ここから生まれ始めています。

「まなびをつなぐプロジェクト」を支えるスタッフやパートナー。コロナ禍以降に、「なにかしたい」と新しく参画したメンバーも多い

ただ、難しさや今後の課題を感じている部分もあります。1つは、やはり自分たちだけでは支援できる家庭の数は限られてしまうこと。キッカケプログラムには500件を超える応募がありましたが、困っている家庭全員の声に応えることができてはいません(現在では新規募集は停止しております)。

現在は、私たちがやっている手法を他の自治体や団体などでも導入できるよう、複雑になっている業務フローを見直しています。

また、困難度の大きい子どもや保護者への対応も、難しさの1つです。被虐待経験のある子や、DV被害の経験があり男性への不信感があるお母さんなど、さまざまな事情の家庭があります。リアルの現場だったら気づけることも、顔の表情や会話から状況を汲み取らねばならず、これまでの現場とは違う難しさがあります。

自分たちだけでは対応が難しいケースに関しては、専門家や専門機関とつないでいるものの、カタリバスタッフ自身も困難なケースの子ども達の対応をもっと学んでいく必要があります。

今後は、私たちの取り組みをきちんと効果検証したり、支援の業務フローを整えたりしながら、より多くの子ども達にサポートを届けていくことを目指しています。この取り組みが各地の自治体や団体にも導入され、”「あの子にまなびをつなぐ」を多くの地域につなぐ”ような未来に向けて、みなさんと力を合わせながら取り組んでいけたらと思います。

*あの子にまなびをつなぐプロジェクトの概要を詳しく知りたい方はこちら

*パソコン機材のご寄付のお申しでをありがたくも複数いただいておりますが、子どもたちのオンライン上の安全や遠隔で技術面サポートをすることができる、Chromebookを選定しておりますこと、ご了承いただけますと幸いです。



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「生活困窮世帯へのあたらしい支援」あの子にまなびをつなぐプロジェクトReport #01

Writer

編集部 編集部

KATARIBAMagazine編集部が担当した記事です。

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