CLOSE

認定NPO法人カタリバ (認定特定非営利活動法人カタリバ)

〒166-0003 東京都杉並区高円寺南3-66-3
高円寺コモンズ2F

お問い合わせ

※「KATARIBA」は 認定NPO法人カタリバの登録商標です(登録5293617)

Copyright © KATARIBA All Rights Reserved.

KATARIBA マガジン

事前連携で「子どもたちファースト」の支援体制作りを目指す、災害時子ども支援アライアンス「sonaeru」を設立

vol.091Report

date

category #活動レポート

writer 上村 彰子

事前の連携体制で、
災害時の子ども支援をスピードアップ

カタリバは2019年8月、災害時子ども支援アライアンス「sonaeru」を設立した。日本国内の災害発生時に迅速で適切な教育支援を一刻も早く届けるため、平時から自治体、企業、NPO等の間で災害時の連携内容についてアライアンスを組んでおくことが設立の目的だ。

災害時子ども支援アライアンスsonaeru全体スキーム

カタリバはこれまでの経験から、被災状況は異なっても、子どもたちに起こる課題・子どもたちを支える行政や民間の間で起こる課題には、共通性があることを感じてきた。共通性があって事前予測が立てられるということは、平時からその課題への対応方法を決めておくことで、有事には迅速な子ども支援ができるのではないか。そう考えたことで、「sonaeru」の構想がスタートした。

設立の背景は、大きく分けて2つ。まずひとつ目は、「災害時の思春期世代への支援の必要性」だ。カタリバはこれまで、東日本大震災・熊本地震・西日本豪雨災害において、主に中高生の心のケアと居場所づくりに取り組んできた。被災した子どもたちには、避難生活によって起こる孤立、学校へのアクセス遮断、学習環境の欠如、精神が不安定になる、といった課題が発生する。

災害支援に初めて取り組んだのは、2011年3月東日本大震災を受けてだった。

例えば2016年4月に発生した熊本地震では震災当初、多くの子どもたちが「やる気が出ない」「ひとりになるのが不安」「怒りっぽくなった」と訴えており、落ち着いて、安心して勉強できる場所と時間を確保すること、そして震災や避難生活でストレスを溜めた心のケアをしていくことが課題となった。また、2018年6~7月にかけて発生した西日本豪雨発生時、カタリバが訪れた避難所では、「スマホ」に依存する子どもたちの姿を目にした。心が不安定になっており、行動が制限される状況の中、寝る時間以外スマホを手放していなかった。「もう18時間くらい使ってる」と話す中学生もいた。

西日本豪雨災害時、避難所でスマホを手放さない子どもたち

ただでさえ、心が不安定になりがちな思春期世代。日常を突然奪われ、心身ともに疲弊する。また復興が進んでも、心のケアは長期的に必要となってくる。災害時、彼らにこそ迅速かつ長期的な支援が必要だが、その支援体制は十分とは言えないのが現状だ。子どもたちへの支援スピードを上げるために、災害時子ども支援アライアンスが必要であると考えた。

また、もうひとつの背景に、「迅速に教育支援活動に取り組めない構造的問題の解消」がある。災害時の教育行政には、子どもの安否・所在確認、学校再開準備(仮設校舎建設、校舎移転等)、学校へのアクセス確保、保護者への説明、教職員への指導など、膨大な公教育の再建業務がのしかかる。加えて支援に必要なリソースを集め体制を整えるためには、関係各所との膨大なコミュニケーションコストも発生する。そんな中、民間から多数押し寄せる支援の申し出を、現地のニーズとマッチングさせていくことは、困難を極める。そこで、カタリバが平時から民間パートナーを集め、災害時に提供してもらえるリソースについて事前にアライアンスを組んでおく。そして被災した自治体との間に入って必要なリソースをコーディネートすることで、スムーズな連携を実現していくことができるのではないかと考えた。

どうしても「子どもたちが後回し」
となってしまう、被災地の現実

今回の「sonaeru」設立にあたっての想いを、代表の今村久美はこう語る。

今村:「これまで私たちは、大きな災害が発生する度に、現地に駆けつけ、子どもたちの状況を把握し、企業や地元の学習塾、教育委員会や学校などと連携しながら、支援活動に取り組んできました。その都度、『初めまして』から、関係作りを始めなければならない時間的ロスがあって、口惜しい思いをしてきました。『sonaeru』 のアライアンスにより、我々はいつ何時も、危機にさらされているということを念頭に置きながら、事前にできるだけたくさんの人たちや組織と、即座に動ける体制を作っておきたいと考えています」

認定NPO法人カタリバ 代表理事 今村久美 79年生まれ。慶應義塾大学卒。2001年にNPOカタリバを設立し、高校生のためのキャリア学習プログラム「カタリ場」を開始。2011年の東日本大震災以降は子どもたちに学びの場と居場所を提供するなど、社会の変化に応じてさまざまな教育活動に取り組む。「ナナメの関係」と「本音の対話」を軸に、思春期世代の「学びの意欲」を引き出し、大学生など若者の参画機会の創出に力を入れる。ハタチ基金 代表理事。地域・教育魅力化プラットフォーム理事。中央教育審議会 委員。東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会 文化・教育委員会委員。

このインタビューを行った時今村はちょうど、2019年9月5日に発生した台風15号が甚大な被害をもたらした千葉県南部の館山市、鋸南町(きょなんまち)訪問から戻ったばかりだった。

これまで日本で起きた災害の被災地支援の経験から、「日々刻々と状況が変わり続ける被災地の状況は、現地に行かないとニーズが見えてこない」と考え今村は、現地の児童養護施設、教育委員会、母親、子どもたちが居場所に使う公共施設、学校などを訪問し、ヒアリング調査を行ってきた。行政だけでなく、母親や子どもたちという「生活者」の意見を聴くことで、被災地のリアリティが見えてきたと言う。今村は今回も、今まで訪れた被災地と同様、「子どもたち対応が後回し」になってしまう現実を感じた。

今村:「震災後、被災地は混乱し、まずは、インフラ整備、食事供給、トイレの整備など、生活再建が第一の課題になり、子どもたちへの取り組みはその後。今回のヒアリング調査でも、『電気の通っていない真っ暗な家で、ひとりぼっちで過ごす小学校低学年児童』といった状況に置かれている子どもたちが散見されました。特に、経済力や教育力の弱い家庭の場合、子どもたちが被災による更なる困難な状況下でどう過ごしているのか、行政も民間も把握し切れておらず、それが心配です」

千葉県で台風15号の被害状況のヒアリング調査を行う今村(2019年9月18日撮影)

今村によると、今まで訪れた被災地では、地元の方々からは必ずと言っていいほど「まさかうちが被災地になるとは・・」「日頃から備えていれば・・」といった声が聞かれたと言う。

日々、多くの災害が起こるにも関わらず、被災直後の教育現場の知見や経験は、なかなか他自治体には共有されていない。「sonaeru」のような支援アライアンスでカタリバとパートナーシップを組むことにより、参加自治体は情報共有もでき、横の結びつきを事前に持った上で有事の支援ができることはメリットになるのではないだろうか。「sonaeru」は「行政パートナー」を募集し、災害発生時の会議体の設置、情報共有の協力、子どもの活動場所の確保協力などについて合意を得てアライアンスを締結していく。

災害で未来の希望が閉ざされる
子どもを、ひとりも生み出さない

また同時に、「民間パートナー」も募集している。民間パートナーとは事前の寄付、災害発生時寄付の確約、その他独自リソースの提供などについて協議の上、アライアンスを締結する。そしてアライアンス締結後は、災害時の具体的対応について平時から連携・協議を重ね、いざという時にスムーズに支援を行うための備えを実施していく。

カタリバは今までの被災地支援で、現地拠点の確保にその都度奔走してきた。そのため、民間パートナーの支援リソース利用が可能になること、支援活動拠点として全国の事業所などのオフィス提供や、営業車などの移動手段確保などの協力を仰げるということは支援活動にとって大きな後ろ盾となるだろう。

そんな民間パートナー第1号として、2019年8月1日に株式会社ウィルグループとのアライアンスを締結した。その参画への想いについて、ウィルグループ 有志社員によるボランティア団体「WILLハート会」理事長 土肥貞之氏は下記のようなメッセージを寄せてくれた。

WILLハート会がカタリバ支援を始めてから7年間。その間には東日本大震災だけではなく熊本地震や西日本豪雨などいくつもの災害がありました。被災地には、十分とは言えないかもしれないですが、お金や物資、炊出しスタッフやがれき処理スタッフなどたくさんの支援が行われています。ただそんな現場で唯一、すっぽりと抜けてしまっている支援があるとうかがいました。それが子供たちへの心のケア、教育のケアです。その状況を打破するために立ち上がったカタリバに深く共感したため、今回、アライアンスへの参画を決意いたしました

今後、ウィルグループのようなアライアンスパートナーの、多くの参画が待たれる中、今村は、「sonaeru」への意気込みを、こう結んだ。

今村:「私たちの子ども支援活動は、『つながり』からひとつひとつ物を運んでいくしかありません。今後も、自然災害は必ず起きます。それは誰にも予測できませんが、何も起きていない平常時にこそ全国的なつながりを作っておくことが、災害発生時に強みとなります。被災のしわ寄せは、子どもたちの未来にも影響します。災害後、少しでも早く適切な子どもたちの支援を行っていきたい。『sonaeru』によって、『災害によって未来の希望が閉ざされる、そんな子どもを一人も生み出さない』という志を、現実のものとしていきたいと考えています。是非『sonaeru』 にご参画いだたけますよう、よろしくお願いします」

関連ページ
・「sonaeru」プレスリリース
災害発生時の10代と教育行政の支援に特化した民間主導の災害時子ども支援アライアンス「sonaeru」を設立

・活動紹介ページ
災害時子ども支援アライアンスsonaeru

・職員募集
Sonaeruでは現在正職員を募集しています。興味のある方は是非募集要項をご覧ください。
https://www.katariba.or.jp/recruit/job/sonaeru/

・千葉県台風15号ヒアリング調査レポート
#01/【千葉県台風15号】甚大な被害を受けた千葉県館山市、鋸南町でヒアリング調査を行いました。
#02/【千葉県台風15号】追加調査の結果、被災した子どもたちの情報支援と継続調査を続けることに

Writer

上村 彰子 ライター

東京都出身。2006年よりフリーランスでライター・翻訳業。人物インタビューや企業マーケティング・コピーライティング、音楽・映画関連の翻訳業務に携わる。現在、カタリバ発行のメルマガや各種コンテンツライティングを担当。

このライターが書いた記事をもっと読む