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NPOカタリバ2020年を振り返る9つのTOPICS

vol.176Report

date

category #活動レポート

writer 本田 詩織

2020年もたくさんの方々のご支援・ご協力のおかげで、10代に意欲と創造性を育むきっかけを届けることができました。本エントリーではそんなカタリバの2020年トピックスを、新しい取り組み中心にお伝えします。

1.コロナ禍から生まれた新たな取り組み

自宅で過ごす子どものためのオンライン広場「カタリバオンライン」
カタリバオンラインに集まった子どもたちと「キャスト」と呼ばれる大人たち

2020年3月2日、新型コロナウイルスの感染拡大の影響を受け、全国で一斉休校が開始。子どもたちの居場所と学びの場であった学校が突然無くなり、日本全国の子どもたちが一日中自宅で過ごさざるを得ない事態となりました。
その2日後、カタリバは新サービス「カタリバオンライン」をスタート。休校中も、子どもたちが安心して過ごせる場所や、興味関心を拡げる場としての役割を担いました。一斉休校期間終了後も、どのような環境に生まれ育っても、すべての子どもたちがクリック一つで多様なつながりや学びにアクセスできる機会を届けるべく、現在も運営を続けています。

経済的事情を抱える家庭へのPC・Wi-Fi無償貸与&学習支援「キッカケプログラム」
無償貸出のPCとWi-Fiは、職員たちが一つ一つラッピングして全国の家庭へ発送した

厚生労働省「2019年 国民生活基礎調査」のデータによると、子どもの貧困率(※)は13.5%。およそ7人に1人の子どもが貧困状態に陥っています。新型コロナウイルスの感染拡大に伴う休校の長期化は、学校と子どもたちをインターネットでつなぐオンライン学習を進める契機となりましたが、経済的事情を抱える家庭では、オンライン学習をするための環境すら整っていないケースも少なくありません。カタリバでは、そのような状況下にいる子どもたちに学びの機会を届けるために、PCとWi-Fiを無償で貸出し、オンラインでの学習支援を行う「キッカケプログラム」を立ち上げました。
ただ機器を渡すだけではなく、PCやWi-Fiを「どう活用するか」のサポートから行うことも重要だと考え、伴走準備が整い次第順次、保護者・子どもとの定期面談を通して、一人一人に合った学びの計画を作り、励ます、オンライン支援を行っています。

※一定基準を下回る所得の家庭で育つ子どもの割合のこと
*「キッカケプログラム」での取り組みを紹介した記事はこちら

「あの子にまなびをつなぐ」プロジェクトで3,000万円のクラウドファンディングを達成

これまでの教育や社会が取り残してきた、困窮世帯の子どもたち。 外からは見えにくかった格差や課題は、コロナ禍によってあらわになったとも言えます。「コロナで困窮する子どもを、誰ひとり取り残さない。」という想いから生まれた「あの子にまなびをつなぐ」プロジェクトでは、生活困窮世帯など、様々な困難を背負った家庭の子どもたちをオンラインで支援し、まなびのチカラで貧困の連鎖を断ち切れる社会の実現に向けて、クラウドファンディングを実施しました。
クラウドファンディングは2020年8月31日に終了を迎えましたが、企業、団体、個人、さまざまな方のご支援により、当初設定していたゴールの約2倍であったネクストゴール3000万円を達成し、「あの子にまなびをつなぐ」プロジェクト(上述の「カタリバオンライン」「キッカケプログラム」を含む)の取り組みを通じて子どもたちへの支援を行うことができました。

コロナ禍、困窮世帯の子どもたちのための放課後施設における食事・学習支援
オンラインアダチベースに取り組むスタッフ。画面越しに子どもたちとコミュニケーションを重ねた

カタリバが東京都足立区から委託を受け運営する、困窮世帯の子どもたちのための放課後の居場所「アダチベース」。緊急事態宣言下においては、原則閉館を余儀なくされましたが、ライフラインでもある食事について必要のある子どもたちには、弁当の配布を続けました。この取り組みに協力してくださった一つが、アダチベースの近くにお店を構える食堂。緊急事態宣言が解除されたその後の夏休みには、飲食業に関心のある高校生がこの食堂で職業体験に取り組むなどのつながりも生まれています。
また、閉館中は「オンラインアダチベース」の実施や電話を通じて、子どもたちとのコミュニケーションを積み重ねるとともに、平常時に実施していた学習支援を継続して行いました。

*緊急事態宣言下のアダチベースでの取り組みを紹介した記事はこちら

全国のカタリバ直営拠点、コロナ禍での運営体制における試行錯誤
緊急事態宣言下において、「b-labオンライン」を運営するスタッフの様子

コロナ禍は、カタリバの直営拠点での日常にも大きな変化をもたらしました。全国一斉休校、緊急事態宣言下においては、多くの拠点が閉館を決めましたが、オンラインを活用するなどして、子どもたちが安心して過ごせる場の運営に務めました。
緊急事態宣言解除等を受け、順次再開した各拠点の活動。コロナ以前の日常は戻れないものの、感染症対策を行いながらそれぞれの拠点で本来の役割を果たすため、知恵を絞りながらの運営が続いています。

2.カタリバ史上初。
保護者を支える、ペアレントメンターチームが誕生

ミーティングは、高円寺事務所だけでなく全国各地にいるペアレントメンターとオンラインで繋ぎながら行う

上述の「キッカケプログラム」の特長の一つが、保護者に対する伴走者「ペアレントメンター」の存在。届いたパソコンやWi-Fiの使い方や、子どものとの関わり方に関する悩みなど、時には孤立しがちな保護者に対して第三者的な立場で寄り添います。カタリバ20年の歴史において、保護者への支援に組織的に取り組むのは初めてのこと。ペアレントメンター同士が、定期的に知見を共有しながら、保護者に対する継続的な伴走支援に取り組んでいます。

3.生徒主体で校則やルールを考える
「ルールメイカー育成プロジェクト」が始動

モデル校で行われている「ルールメイカー育成プロジェクト」には、生徒・教員・専門家・カタリバスタッフなど多様な立場の人が関わっている

昨今、「ツーブロック禁止」や「下着の色は白」など、生徒の学校生活に影響を与える校則やルールについて、違和感の声が上がり、大きな話題になっています。
カタリバでは、既存の校則やルールに対して生徒が主体となり、先生・保護者などの関係者との対話を重ね納得解をつくることを通して、課題発⾒・合意形成・意思決定をする⼒(市⺠性=シティズンシップ)を高めていくプロジェクト型学習、「ルールメイカー育成プロジェクト」を立ち上げました。本事業は経済産業省「未来の教室実証事業」に選ばれており、現在は、広島県にある安田女子中学高等学校と東京都の新渡戸文化中学高等学校をモデル校として、実践に取り組んでいます。
プログラムには生徒に混ざって、弁護士やシティズンシップ教育専門家といった学校関係者以外も参加。多様な人材がそれぞれの専門性を活かしながら、生徒の学びに繋げていく取り組みでもあります。

*「ルールメイカー育成プロジェクト」での取り組みを紹介した記事はこちら

4.外国ルーツの高校生へのキャリア支援、
高校現場でのプログラムをスタート

公立学校に在籍する日本語指導が必要な児童生徒の数は、この10年間で1.5倍に増加し5万人を超えました(※)。カタリバでは、孤立しがちな外国ルーツの高校生が未来を描けるよう、2009年から外国ルーツの高校生の中退予防やキャリア支援に取り組んできた、一般社団法人kuriyaの代表海老原をパートナーとして迎え、昨年「外国ルーツの高校生支援」プロジェクトを起ち上げました。
2020年は、都内にある3つの高校と連携し授業時間を使った「多文化共生プログラム」を実施。このプログラムでは、弁護士による在留資格講座など、これからも安心して暮らしていくためのベースとなる支援の他に、生徒一人一人が身の回りの課題や関心を探究していく「マイプロジェクト」に取り組むこと等を通して、国籍関係なく学び合う環境づくりを行っています。また、放課後の時間にも高校生たちの個別相談や学習支援を行えるよう、放課後のオンライン支援「ルートオンライン」もスタートしています。

※文部科学省「日本語指導が必要な児童生徒の受入状況等に関する調査(平成30年度)」より

5.不登校の概念をなくし、どこにいても
「自分に合う学び」を選択できるまちへ

オンライン学習プログラムで、一人一人に応じた声掛けや解き方の指導を行うスタッフ

現在、日本国内には不登校ないしは不登校傾向にある中学生が44万人(※)いると言われています。カタリバが島根県雲南市と共に不登校支援を行う「おんせんキャンパス」(教育支援センター)では、「誰ひとり取りこぼさない学びのフィールド」を実現するため、市教育委員会と議論や取り組みを重ねています。ここでは、従来の通所型の不登校支援の枠を超え、別室登校・教育支援センター・自宅等で連携しながら、オンラインを活用した個別最適な学びを提供し、出席として認められる体制やプログラムの構築を目指しています。

(※)文部科学省「平成30年度児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査結果について」・日本財団「不登校傾向にある子供の実態調査報告書(2018年12月)」 より
*オンラインフリースクール構築への足がかりとなった、おんせんキャンパスでのコロナ禍のオンライン活用を紹介した記事はこちら

6.令和2年7月豪雨(熊本豪雨)支援と、
災害時子ども支援アライアンスの広がり

子どもたちが安心できる居場所となるよう、緊張をほぐすように語りかけるスタッフ

2020年7月4日未明に九州を襲った記録的な豪雨により、熊本県・鹿児島県を中心に各地で甚大な被害が出ました。カタリバでは人吉球磨地域を中心に現地調査を行い、子どもたちの居場所と遊び場を提供するための支援「みんなの遊び場・カタリバパーク」を3か所で開設。発災直後からスピード重視で支援体制を立ち上げ、日々改良を重ねながら子どもたちが安心して過ごせる環境を提供しました。

またカタリバは、医療機関をキャンピングカーなどで支援するプロジェクト「バンシェルター」と災害支援の包括連携協定を締結。熊本豪雨支援では、「みんなの遊び場・カタリバパーク」に、スタッフの宿泊・休憩・仮眠場所として、2台のキャンピングカーを貸し出していただきました。毎年のように自然災害が発生する昨今、災害発生時における子ども支援の輪が広がっています。

*「熊本災害支援」での取り組みを紹介した記事はこちら

7.「マイプロジェクトアワード」に、
高校生13,600人以上が参加。
全国に広がる探究学習の取り組み

探究学習の祭典「マイプロジェクトアワード」史上最大規模での開催へ
2020年3月に行われたマイプロジェクトアワード2019全国Summitでの集合写真。新型コロナウイルス感染拡大に伴い、オンラインで実施した

探究学習やマイプロジェクト(実践型探究学習プログラム)に取り組んできた高校生たちが集い、プレゼンテーションを行う年に一度の学びの祭典「マイプロジェクトアワード」。
現在開催中のマイプロジェクトアワード2020では、2019年度の2,654のプロジェクトを大きく上回り、4,800プロジェクト以上、13,600人以上のエントリーがありました。全国Summitを前に行われる地域Summitも、2020年度は16会場での実施となり、史上最大規模の学びの祭典に成長しています。

探究学習のカリキュラム開発に参画、高校常駐型支援「大槌高校魅力化プロジェクト」
大槌高校で、高校生たちに伴走するカタリバスタッフ

カタリバでは、岩手県大槌町と福島県双葉郡、島根県雲南市の高校にカタリバスタッフが籍をおき、全国の高校で2022年度入学生から実施される新学習指導要領の柱の一つでもある「総合的な探究の時間」を、教員とともに先んじて実践しています。
全校生徒が150名弱の小規模校である岩手県立大槌高等学校では、県外の小規模校と協働し、オンラインを活用した探究授業を実施。「総合的な探究の時間」でのプロジェクト型学習における生徒への伴走など、1校では不足するリソースを、複数の小規模校で補強する取り組みを実験的に行っています。

*「大槌高校魅力化プロジェクト」での、これまでの取り組みを紹介した記事はこちら

8.東日本大震災から10年。
子どもたちの放課後施設にも変化の時が

大槌高校内に移転した、コラボ・スクール「大槌臨学舎」

2021年3月11日に、東日本大震災から10年の節目を迎えます。震災直後から、カタリバが子どもたちのための放課後施設として運営する、コラボ・スクール「大槌臨学舎」(岩手県大槌町)と「女川向学館」(宮城県女川町)も次のフェーズを迎えようとしています。2020年6月に、大槌臨学舎は旧来のプレハブ校舎から、町内にある大槌高校内に移設。また、小学生向けの学習支援は、地域の方が中心となって運営を行っています。女川向学館では、女川町との連携をより強めていくため、校舎を町内の中心部に移転する計画を進めている最中です。

9.エントリー数最多 年間1,500件超!
新入職員41名がカタリバの新しい仲間に

オンラインで実施した新入職員同期会に集まったスタッフたち

カタリバには、2020年も多くの仲間が加わりました。1年間で41名が入職するのは、カタリバ史上最多のこと。また、採用募集に対するエントリー数も年間1,500件を超え、対昨年比300%超の方が、カタリバの門を叩いてくださりました。
コロナ禍により、社会全体として働き方の柔軟性が生まれた2020年。カタリバでもリモートワークの比率が増え、拠点のない地方に居住する職員も生まれています。また、研究者とともに取り組みの効果検証のプロジェクトを立ち上げるなど、多様な専門性をもつ方々とのコラボレーションも始まっています。

*職員へのインタビュー連載はこちら

2021年に向けて

2020年を振り返ると、コロナ禍によって現場で向き合う子どもたちの環境にも様々な変化がありました。
またオンライン活用が進み、カタリバが取り組む領域・事業内容も変化を見せてきています。

2021年、カタリバは創業20年の節目を迎えますが、現状に満足せず2020年に芽吹いた新たな取り組みをさらに深化させるべく、挑戦を続ける1年にしていきたいと考えています。

結びとなりますが、2020年も様々な形で応援してくださった皆様に、感謝申し上げます。
2021年のカタリバの活動も温かく見守ってくださいますよう、どうぞよろしくお願いいたします。

Writer

本田 詩織 カタリバマガジン編集担当

1990年生まれ。 地方で育った経験から、学生時代より地域の魅力や課題を教育に繋げる取り組みに関心を持つ。民間企業2社を経て、2018年よりカタリバに参画。福島県立ふたば未来学園高等学校併設の「コラボスクール・双葉みらいラボ」において学校支援コーディネーターとしての勤務。現在は広報チームでコーポレートサイト・カタリバマガジン・noteを担当する。

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