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「母の背中を押せたように、子どもたちの人生の選択を後押ししたい」複数業界を渡り歩いた彼女が、カタリバを選んだわけ/NEWFACE

vol.232Interview

date

category #インタビュー #スタッフ

writer 田中 嘉人

Profile

柳本 千種 Chie Yanagimoto アダチベース

1989年生まれ。大学を卒業後、web広告代理店、大学受験予備校などでの勤務を経て、2020年4月にカタリバに入職。「アダチベース」にて、高校生の学習・進学支援やインターン・ボランティアの採用担当を担う。国家資格キャリアコンサルタント保有。

ここ10年で、仕事のあり方・捉え方は、まったく違ったものになってきている。終身雇用は崩壊、転職は当たり前のものとなり、複業やフリーランスも一般化。テクノロジーの発達によって無くなる仕事予想も大きな話題となった。給料や肩書よりもやりがいや意味を重視する若者も増え、都会から地方にUIターンすることも珍しくなくなった。世界が一斉に経験したコロナ禍をへて、今後ますます働き方は多様に変化していくだろう。

そんな中カタリバには、元教員・ビジネスセクターからの転職・元公務員・元デザイナーなど、多様なバックグラウンドを持った人材が就職してきており、最近は複業としてカタリバを選ぶ人材もいる。その多くは20代・30代。彼らはなぜ、人生の大きな決断で、いまNPOを、いまカタリバを選んだのか?

連載「New Face」では、カタリバで働くことを選んだスタッフから、その選択の背景を探る。

大学の理系学部卒業後、Web広告代理店、予備校、資格取得…といった20代を過ごし、カタリバへ入職したのが柳本千種(やなぎもと・ちえ)だ。

現在、カタリバが足立区から委託を受けて運営する困難を抱える子どものための居場所「アダチベース」にて、高校生向けの学習・進学のサポートやインターンやボランティアの採用業務を担当する彼女。

複数の業界を経て今に至る彼女だが、それぞれのターニングポイントでの決断には明確な軸があった。この決断の原点にある、母親とのエピソードとは。

「お母さんは、どんな人生を送りたい?」

ー大学卒業後、Webの広告代理店、予備校とキャリアを積み、カタリバへご入職された柳本さん。どういう軸でキャリアを選んできたのでしょうか?

一見すると一貫性がないキャリアにように見えるかもしれませんが、私のなかでは明確な軸があります。一社目の広告代理店勤務時代は実家住まいだったのですが、家庭の事情もあり母に精神的な不調が出てしまって。大晦日に、ぽろっと「ここから飛び降りたらどうなるかな」と口にしたことがあったんです。私は母が大好きだし、兆候に気づいていたのに見過ごしてしまったら一生後悔することになる。なんとかしなければいけないと思い、ひとまずファミレスに連れていきました。

ファミレスではいろんな話をしました。もう必死に。そのなかで「お母さんは制限がないとしたらこの先どんな人生を送りたい?」と聞くと、「もう一回ピアノ教室をやりたい」と答えてきました。「いいね。やるんだったら、どんな教室にしたい?」「じゃあいつまでにやりたい?」と具体的に話を膨らませて、「じゃあ、今どうしたらいいかな?」と。ちゃんと母のなかに答えはあるんですよね。「家を出なきゃいけない」と。

幸いなことに、その後母は自分の周りの環境を変えることができました。あの時の私の行動は、今思えばカウンセリングですよね。そして、母との経験をきっかけに自分の人生を見つめ直すようになりました。「母は自分の人生を自分で選べたけど、私はちゃんと選べているのだろうか」と。

もともとは「一緒にいてワクワクできる人がいるところで働きたい」とWebの広告代理店へ入社したのですが、もっと違う価値観が自分のなかに生まれている気がして、転職を決意しました。

ー違う価値観?

昔から私と話すことで「聞いてくれるだけでスッキリした」「ウンウンと頷いてくれるだけで救われた」と言ってくれた人がいたことを思い出したんです。「もっと知識を身につけて、誰かの人生の選択を後押しするような人間になりたい」と思うようになって、転職エージェントに登録しました。エージェントが紹介してくれたところのひとつが予備校で。正直、全く候補に入れてなかったけれど、「もし10代の頃に、今の自分のような存在がそばにいてくれたら違う人生があったかもしれない」と思い、転職を決めました。

ー思い切りましたね。そこからカタリバへ入職するまでは、どういう経緯があるのでしょうか?

きっかけは、資格の取得です。

予備校勤務時代から「キャリア教育」にすごく関心がありました。もっとダイレクトに関われる環境で働きたい気持ちは持ち続けていたのですが、当時は求める環境に上手くたどり着けず、行動を起こすことができませんでした。でも、29歳のときに一念発起し、「もっと自分の人生と向き合おう」と予備校を退職。

派遣社員として働きながら、国家資格のキャリアコンサルタントを取得するために勉強しました。無事合格したのですが、資格取得の勉強を通じて、自己分析もはかどるだけではなく、情報収集力も上がっていて。それでカタリバと出会うことができました。

ーカタリバの第一印象を教えてください。

月並みな言い方ですが、Webサイトの情報から生徒一人ひとりと向き合っていることを感じられました。それまでに私が知っていたキャリア教育のサービスからは、商品としてパッケージ化された印象を受けていたのですが、カタリバの「生徒と一緒に時間を過ごし、成長を見守ることもキャリア教育の一環」というメッセージに感銘を受けて。

私自身「キャリア教育に携わりたい自分」と、「一人一人と向き合って自分の言葉で背中を押したい自分」を切り離して考えてしまっていたので、「この二つは地続きなものなんだ」と目が覚めたというか。

しかも、カタリバには「ナナメの関係」という共成長モデルがある。自分が憧れられる大人になれば、生徒の人生に新たな選択肢を提供できるかもしれない。それこそが私が思うキャリア教育の本質だと再確認し、カタリバへ転職することになりました。

真剣に人生について考えることの尊さを伝えたい

ー選考段階でアダチベースへの配属を希望されていたと聞きました。その理由は?

さまざまな事情で予備校に通うことが難しい生徒たちの力になりたかったからです。予備校勤務時代、年間1〜2組の親子が家庭の事情で受験をあきらめる姿を見てきて、彼らはあくまでも一角に過ぎないのだろうなと感じていました。だからこそ、予備校で働いていたことで培った受験対策に関するノウハウを、ここで生かしたいと思いました。

アダチベース。勉強やおしゃべりなど、子どもたちは思い思いに時間を過ごす。

ー現在はどういった業務を担当しているのでしょうか。

主に2つの業務を担当しています。1つはインターンとボランティアの採用、もう1つは高校生の学習・進学サポートです。

採用業務では、結構幅広く担当していますね。ご応募いただいた方向けの説明会の開催、選考、責任者との面接時間の調整、インターンやボランティアへの応募に繋がる可能性の高い大学生が通う大学での情報発信、SNS広告の手配などです。

ー高校生の学習・進学サポートは、2021年にスタートしたばかりのプロジェクトと聞きました。そもそもどういう経緯でこちらのプロジェクトがスタートしたのでしょうか。

もともとは現場スタッフの課題感からスタートしました。せっかく第一志望の高校に入学できたのに、たとえば「勉強を頑張ることってダサい」というような周囲の雰囲気にのまれてしまい、「その日が楽しければいい」とある意味刹那的な生活を送る生徒が見られたりして。アダチベースは元々、中学生向けのプログラムを中心としていたのですが、彼らが中学を卒業した後の様子を見ていたスタッフたちから、サポートしたいという声が上がるようになりました。

そういったタイミングで、私が入職。選考中から「進学の支援に携わりたい」ということは常々伝えていたこともあり、アサインされたのだと思います。

ー予備校時代も進学のサポートをしていたわけですが、前職との違いはありますか?

生徒が置かれている状況は明らかに違うと感じました。予備校は受験勉強へのやる気がある生徒に対して学力を伸ばす場所でしたが、アダチベースには「勉強どころじゃない」「勉強に気持ちが向かわない」という生徒が多かった。恥ずかしながら、私のなかに彼らに対するモチベートの方法がなかったので、最初は戸惑いましたね。

ただ、アダチベースの高校生を担当する部門には、私が所属する学習のチーム以外に、「コネクト」というアダチベースから心が離れてしまった生徒をフォローするチームなど、いくつかのチームがあります。そのため、これらチームのリーダーが全生徒の名簿を出して、自分たちのチームで特に意識してコミュニケーションをとる生徒を決めるところからスタートしました。まずは生徒一人ひとりの現状を把握するために。

個人的には、コネクトチームの存在は大きいと思っていて。コネクトのチームがいるから、モチベーションが下がってしまった生徒にも対応できるし、モチベートできた生徒に対して「アルバイトして学費を貯めて、進学しよう」という段階的な提案もできるので。

ーとはいえ元々進学の意思がない生徒に、学習に対してモチベートすることはかなりハードルが高いような気がします。

そうですね。ただ、少しずつですがギャップは埋まってきていると思っています。特に大きな存在感を放っているのは、インターンやボランティアとして活動している現役大学生たちです。彼らが高校時代の過ごし方や今の生活へのつながりなどを日々の対話やキャリアイベントなどで話すことで、生徒たちのモチベーションが上がる場面を何度も見てきて。生徒たちと近い世代の人たちからのリアルな情報を通じて、ギャップを埋めていきたいですね。

大学受験は、人生の選択肢を増やす方法の
ひとつに過ぎないから

ーまだまだスタートして間もないプログラムだと思いますが、どのようなときに成果を実感しますか?

大きく分けて2つのパターンがあります。

ひとつはやる気はありそうだけど家庭の事情などで進学に消極的になっている生徒に、私が培ってきた受験戦略や奨学金などのサポート情報を提供することで「大学に入学できるかもしれない」と現実感が芽生えたとき。そして、大学進学はゴールではなく、さらなる未来のための通過点に過ぎないことを感じてもらえると、すごく嬉しいですね。高校在学中の生活も大きく変わるので。

私が大切にしているのは「言い切る」ということ。「私はどれだけ勉強しても大学には合格できない」と先入観を抱いている生徒に対して「今これだけ成績を残せているなら、あと2年間は入試配点の大きい英語と数学に注力すれば充分に狙える。この団体の奨学金を使って、アルバイトすれば学費も問題ない」とデータなどを使いながら熱量を込めて話すと、目の色が変わる瞬間があるんですよね。

もうひとつは、将来を迷っている生徒に対して夢中になれるものを提供できたとき。やりたいことがないので進学を含めた将来の選択肢を考えられない生徒も当然いるわけです。彼らに対して、日々夢中になれることを提供すること。

最近では、将来をぼんやりと考えていた生徒が、別のスタッフが企画したプログラミングの授業に参加したところすごく夢中になってくれて。授業が終わるたびに「こんなことをやったよ」と楽しそうに教えてくれる。「プログラミングに関係する仕事に就きたい?」と聞くと「いや、まだわからないけど(笑)」という反応なのですが、夢中になって取り組めるものが見つかったことは彼にとって大きな出来事だったと思います。

ー彼らの心の声を引き出すために工夫していることなどはありますか?

特段意識しているわけではありませんが、進学に限らず彼らと日常会話する時間は大切にしているかもしれません。アダチベースは“第二の家”というコンセプトがあるので、平均週3日、多ければ毎日通う生徒もいます。

だからこそ、彼らにとっていいことだけではなく愚痴や不満なども気軽に吐き出せる場所でありたいと思っていて。話を聞くと、学校や家では愚痴や不満を話さないという生徒たちも多いので。

そのために、何も私ひとりが生徒と対話しなければいけないわけではありません。「ちえさんには言えないけど、他のスタッフには言える」みたいなこともあると思うので、生徒に話し相手を選んでもらう。生徒の許可を得たうえでスタッフ間で情報共有したり、生徒に寄りそうノウハウを共有し合ったりしながら、「じゃああの子にはこういう機会を提供しよう」という提案にもつながるわけです。

ーまさに受験勉強の最中に置かれている生徒とはどのように接していますか?

できていることに目を向けられない生徒が多いので、ちゃんと「できているよ」と言葉で伝えるようにしています。

模試の成績が落ちてしまった生徒に対しては単純に全体の数字だけを語るのではなく、教科ごとに原因を究明し、改善策を導き出す。そしてネクストアクションにまで落とし込むと、「あ、そうか!」と明るい表情に変わります。

受験勉強は孤独だし、しかもこの後の人生を左右するという大きなプレッシャーがあるので冷静に判断しづらい状況です。だからこそ、客観的なアドバイスに努めたいですね。もしかしたら第一志望に合格できないこともあるかもしれないけれど、最後の最後までモチベーションが途切れずにやり切る経験を積ませてあげたい。のちのち振り返ったときに「あの受験が結果としてよかった」と思ってもらえるような。

ー今後、学習・進学サポートを通じ、どういった子どもたちを増やしていきたいと思いますか?

自分の人生を自分で選んでいる感覚を持てる人を増やしていきたいですね。世の中には多くの選択肢があること、そして自分自身に掴み取る権利があることを、伝えていきたい。長い人生において、10代のうちにその感覚を得られたら幸せじゃないですか。自分の人生と向き合うきっかけをつくっていきたいと思います。

 

受験勉強をしていると、つい大学進学がゴールだと勘違いしてしまいがち。しかし、大学進学は、より多くの選択肢を得るための手段のひとつに過ぎない。彼女のような存在がそばにいることは、受験に限らず人生においても大きなアドバンテージになるように感じた。

そして、気になるお母さまのその後については「無事にピアノ教室を開いて、目標に掲げていた【20人以上の生徒】も達成しています。会うたびに“あのときはありがとうね”と言ってくれて、さらに仲良くなりました(笑)」と教えてくれた。彼女の活躍を、きっとお母さまも願っているはずだ。


 

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Writer

田中 嘉人 ライター

ライター/作家 1983年生まれ。静岡県出身。静岡文化芸術大学大学院修了後、2008年にエン・ジャパンへ入社。求人広告のコピーライター、Webメディア編集などを経て、2017年5月1日独立。キャリアハック、ジモコロ、SPOT、TVブロス、ケトルなどを担当しながら、ラジオドラマ脚本も執筆。

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