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「NPOにこそ、データサイエンティストが必要だ」若手研究者が、カタリバを選んだわけ/NEWFACE

vol.283Interview

date

category #インタビュー #スタッフ

writer 田中 嘉人

Profile

池田 利基 Toshiki Ikeda キッカケプログラム

1993年大阪府生まれ。専門は社会心理学。行政による生活困窮世帯向けの伴走支援に携わる中で、データに基づいて答え合わせをしない伴走の在り方に違和感を抱く。これは社会課題だと考え、大学院在籍中に「科学的根拠に基づく伴走を全国に普及させる」を理念とした、伴走の効果検証に関する事業を立ち上げる。多数のNPO等と協働した後、現在はキッカケプログラムを中心に各種伴走の効果検証を行っている。DataCast代表、江戸川大学非常勤講師を兼務。

ここ10年で、仕事のあり方・捉え方は、まったく違ったものになってきている。終身雇用は崩壊、転職は当たり前のものとなり、複業やフリーランスも一般化。テクノロジーの発達によって無くなる仕事予想も大きな話題となった。給料や肩書よりもやりがいや意味を重視する若者も増え、都会から地方にUIターンすることも珍しくなくなった。世界が一斉に経験したコロナ禍をへて、今後ますます働き方は多様に変化していくだろう。

そんな中カタリバには、元教員・ビジネスセクターからの転職・元公務員・元デザイナーなど、多様なバックグラウンドを持った人材が就職してきており、最近は複業としてカタリバを選ぶ人材もいる。その多くは20代・30代。彼らはなぜ、人生の大きな決断で、いまNPOを、いまカタリバを選んだのか?

連載「New Face」では、カタリバで働くことを選んだスタッフから、その選択の背景を探る。

スタートアップをはじめとするIT企業で活躍するイメージの強いデータサイエンティスト。しかし、カタリバではあるひとりのデータサイエンティストが活躍している。

彼の名は、池田利基(いけだ・としき)。大学時代より心理統計を学び、大学院ではNPOの効果検証を手がける任意団体を設立。NPOでのデータ分析に向き合い続けてきた若きデータサイエンティスト。そんな彼がカタリバを選んだ理由を探ると、NPO全体が抱える大きな課題も見えてきた。

データサイエンティストの選択肢に、NPOを

ーデータサイエンティストは、ITをはじめさまざまな業界で必要とされているポジションですが、なぜNPOを選んだのでしょうか?

僕の中でNPO以外の選択肢はなかったです。僕自身がNPOなどの支援が必要な家庭で育ったため、いずれは自分もサポートする側に立ちたいと思っていました。

2020年末、筑波大学大学院の博士課程在学中に、NPOによる教育・福祉支援事業の効果検証を手がける任意団体「Datacast」を設立。2021年は日本中のNPOにお声がけをした結果、いくつかの団体と契約を結びデータ面から活動をサポートしていました。

博士課程の研究に対する賞の贈呈式にて(右が池田)

ーなぜ「データサイエンティストとしてNPOへ関わる」という方法に行き着いたのでしょうか。

大きく分けて2つの理由があります。ひとつは僕が大学、大学院で心理統計やデータ分析を学んできた素養があったからです。

もうひとつは、自分が見てきたNPOの現場が全くと言っていいほどデータドリブンではなかったから。

大学在学中、自治体の居場所支援事業で働いていたときに、ふと「この国の支援事業はどれだけ成功しているのだろうか」と感じました。

しかし、調べても問いに答えられるだけのデータは見つかりません。職員の方たちに聞いても「え、……効果検証って何?」という状況。居場所支援事業であれば、子どもの自尊感情の上がり幅を知ることが効果検証の第一歩なのですが、使われている質問票も非科学的で、言葉を選ばずにいうと思いつきでつくったような項目が多く見られて。

課題感がどんどん大きくなると同時に、「NPOや行政にデータサイエンティストがいないことが原因ではないか」と考え、自ら団体を立ち上げることにしました。

ー立ち上げた団体の活動は順調だったのでしょうか?

先ほど「いくつかの団体と契約して」とお話ししたように一定の支持は得られましたが、収益性は高くありませんでした。市場規模が小さく、外部に委託するだけの予算がない団体が多かったので、安定した収益を確保することはかなり難しかったです。

ちょうどその頃、カタリバを知りました。規模は国内有数だし、僕がもともと関心深かった生活困窮世帯の支援や居場所の支援、探究学習、校則見直しといった幅広い事業を展開していた点に惹かれ、選考を受けることにしました。

驚いたのは、最初の面接です。てっきり人事の方が担当してくれるのかと思ったら、まさかの代表の今村久美さんが登場。しかも「ぜひカタリバに来てくれ」と言うじゃないですか。他のNPOは提案しても断られることが多かったので、「こんなに強く求められるならカタリバしかない」と、一緒に働くことを決めました。

カタリバは意外にもデータドリブンな組織だった

ー現在の仕事内容について教えてください。

経済的に困難を抱える家庭に対してオンラインでの伴走と学びの機会を届ける「キッカケプログラム」に在籍し、子どもを伴走支援するチーム、保護者を伴走支援するチーム、ヤングケアラーの子どもを支援するチームの効果検証をそれぞれ担当しています。

もう少し具体的な話をすると、まずは現場メンバーからの相談を受けて、仮説検証するテーマや取得すべき指標などをすり合わせます。続いて、伴走の仕方やロジックモデルを策定したら、調査を実施。得られたデータを統計的に分析し、効果を検証します。

たとえば、定期的に実施する面談が子どもの自尊感情や保護者の養育的態度・ストレスの変化に及ぼす影響を分析し、資料にまとめています。

ー何か成果は出てきているのでしょうか。

ざっくりとですが、キッカケプログラムへの参加によって子どもの自尊感情が上昇したことはわかってきています。

ただ、明確な成果が出るまでは1年以上はかかるんですよね。だから、僕が講じた施策がどこまで実ったかはまだわかりません。もうしばらく注視していきたいと思います。

ー結果が出ないことに対して、周囲からのプレッシャーはありませんか?

それがないんですよね。現場のメンバーからも「失敗もチームとしての財産になるから」と声をかけてもらえるので、やりがいがある。日々の仕事で「カタリバを選んでよかった」と感じています。

一緒に働き始めてからわかったのですが、実はカタリバはデータドリブンな組織です。データによる意思決定が進んでいるし、現場のメンバーもデータを扱うことに抵抗がない。週に1回開催しているキッカケプログラムのミーティングで子どもたちの出席率をチェックする際も、全体のパーセンテージだけではなく、中学生や高校生のように属性別で追いかけています。

しかも、それぞれで原因を考えて「次はこうやって誘ってみよう」や「先週の施策の結果は……」とPDCAを回していますからね。「意外」と言ったら失礼かもしれませんが、驚いたポイントです(笑)。

ー現場のメンバーがデータを活用しやすくなるように池田さん自身が工夫していることはありますか?

とても基本的な方法かもしれませんが、「専門用語は使わない」「棒グラフや折れ線グラフなど多くの人が見慣れているグラフしか使わない」は徹底しています。いくらデータドリブンな組織とはいえ、敬遠されてしまっては意味がありませんからね。

ーデータサイエンティストがNPOで得られる面白さとは?

世の中の役に立っている実感を得やすいことではないでしょうか。企業だとどうしても最終的な指標が売上や利益になってしまうため、社会貢献という文脈での達成感は得にくい。NPO、特にカタリバであれば、子どもや保護者の人生に重きが置かれるので、責任は重くなりますが、その分やりがいもあります。

カタリバ参画後に池田が担当した効果検証の一つ。
キッカケプログラムに参加する子どもたちは週に1回「キッズメンター」と呼ばれる大人と面談を行うが、子どもが夢や目標を持ち行動を起こすことに「信頼できる大人の増加」が影響を与えていることの示唆が得られた。

データは次の世代へのバトンになる

ーデータサイエンティストとして、今後挑戦したいことはありますか?

大きく分けて3つあるのですが、ひとつはNPOで働くデータサイエンティストを増やすことです。

NPOには僕のようなデータサイエンティストがまだまだ不足しています。内閣府が「社会的インパクト評価」を推進していることもあり、NPOが事業を効果検証することが求められるようになってきているのですが、残念ながら必要な水準に至っていないのが実情です。

ですから、まずはNPOで働くデータサイエンティストを増やすべきだと思うんです。NPOのデータドリブン化を進めることで、それぞれの支援がもたらす効果を社会に残していきたい。そして、将来、僕らより下の世代が「何か支援したい」というタイミングに立ったときに、より質の高い支援を行うことができるように支援メニューから選べるようにしたいし、同じ失敗を踏まなくてもいいようにしていきたいと思います。

ーそのためには何が必要なのでしょうか。

NPOにデータサイエンティストが活躍できる場があることを知らない人も多いですし、なんなら「NPOって何?」という人もまだまだ少なくありません。データサイエンティストとしてのキャリアの選択肢にNPOが加わるように発信し、同時に「NPOの仕事はおもしろそう」と感じてもらえるように成果も残していきたいですね。

ー残りの2つについても教えてください。

ひとつはNPOにおけるデータサイエンティスト不足を解消する話とつながる部分もあるのですが、NPOに外部の研究者を呼び込むための、オープンデータをつくることです。

NPO活動を通じて取得したデータを科学的に分析可能な形で保管し、希望に応じて開示できる仕組みがあれば、NPOとしては分析して結果を報告してもらえるし、研究者としては自分の研究実績にもなるので、Win-Winになるはずです。

NPOと研究者の橋渡し役は僕のようなバックグラウンドの人間が関わることで、文化の違いはある程度解消できるはずなので、積極的に取り組んでいきたいですね。研究者の中にはNPOでの仕事に興味を持つ人が出てくるかもしれませんし。

もうひとつは、データの読解力を高めることです。データに基づいて効果検証してもステークホルダーの方たちに理解されにくいため、公表する際には専門的な情報をかなり削ぎ落として資料を作成しました。データサイエンティストとしては、非常にやるせない部分です。

ですから、データに関心を持ってもらえるようなコンテンツを制作したり、データリテラシーに関するリカレント教育の場を提供したり……といった活動にも力を注ぎたい。たとえば株式投資する人は、IRなどの投資家情報をチェックしていますよね。同じようにNPOのステークホルダー向け情報の発信を強化するのも効果的かもしれません。

ー話を聞いていて、とてもワクワクしてきました。

ただ、僕自身まだまだ知らないことも多いので……たとえば対外的な発信の方法についてはカタリバの広報チームなどに力を借りながら、勉強したいですね。NPOでデータサイエンティストができることはまだまだある。ロールモデルになれるよう、ひとつずつ取り組んでいきます。

「キッカケプログラム」運営スタッフたちとの集合写真(2段目右から2人目が池田)

– 写真:池田さん提供(3枚目以外)

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Writer

田中 嘉人 ライター

ライター/作家 1983年生まれ。静岡県出身。静岡文化芸術大学大学院修了後、2008年にエン・ジャパンへ入社。求人広告のコピーライター、Webメディア編集などを経て、2017年5月1日独立。キャリアハック、ジモコロ、SPOT、TVブロス、ケトルなどを担当しながら、ラジオドラマ脚本も執筆。

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